夜中の紫

腐女子向け 男同士の恋愛ですのでご興味のある方、男でも女でも 大人の方のみご覧下さい。ちょっと忙しいので時々お休みします

沁みる 12

2017-04-05 | 紫 銀

帰りの汽車の中

近藤はいつもと変わらないように見えた・・・。

だが土方の目は・・・

無駄に力が入っているのか瞼の内側が赤くなっている。

あの音を聞いた時からだった・・・。


「土方・・・タバコは いいのか・・・?。」

近藤が 20分ほど沈黙が続いた後、向かい合って座っている土方に声を掛けた。

「・・・さっき吸いました。」

近藤は禁煙するつもりなのかと 聞こうとしたが、笑って

「・・・20分は・・・経ったぞ。」

と言う。

「・・・いや・・・。」

土方が何か言うと思って聞いた居たが・・・それ以上何か続く事は無い。

カタンコトンという枕木はまだ木なのだろうか、柔らかい音で心地よい。

それに揺られながら・・・・思い出していた。







「近藤・・・。」

江戸に出立する朝早く・・・近藤は道場に戻って来た。

道場を磨く・・・もくもくと手で板目毎丁寧に・・・。

土方は 慣れない酒を飲まされて酔いつぶれ

いつからそこに立っていたのか、田嶋が浴衣にねんねこ半纏を着て 道場の戸口にいる

冷たい桶で洗い、ぞうきんを絞る近藤に声を掛けた。

「・・は・・・。」

「・・・ちょっと来い。」

そう言うと、自分の居室ではなく、弟子の寮に行き

手あぶり炭を 手で足してドカッと座った。


近藤はたすきを解き正座すると、田嶋は首を振って足を崩させようとしたが

「・・・・先生・・・今まで・・ありがとうございました。」

と頭を下げた。

「・・・馬鹿・・・聞け。。」

田嶋が言うと、近藤は足を崩して何事かと耳を傾ける。

「は・・・。」


そして、総悟も同行させると聞かされた・・・。

江戸で何が起こるかわからない。徴兵されていった者はほとんど戻らなかったと言う。それを 子供の総悟に・・・。

「先生・・・お言葉ですが・・・総悟は子供過ぎます。確かに剣の上達は目を見張るものがありますが、あのなりです・・・何が起こるか。」

近藤が素直に言うと

「・・・・土方と総悟を・・・離せまい。」

田嶋が言う。

「そおでしょうか。」

「土方とお前を離せば、お前がおかしくなるだろうが。」

「・・・・。」

近藤は否定せず田嶋を見ると田嶋は 近藤を見て

「お前は・・・土方や総悟にある人の痛みを知らん。だから、抑えが無ければ、喜んで人を切るだろう?。」

言った。

「・・・・。」

それも否定しなかった。

田嶋は少し笑って

「・・・悪ではない・・・俺たちにはな。・・・お前が・・・人切りで、嫁の腹まで裂いた俺に弟子入りしたのはなぜか、・・・・俺を知ると言いながら・・・何一つ質問しないのは。・・・こんな風に、お前は、俺の代わりに泣き叫ぶ罪人の首を切り落としたい・・・そうだろう?」

と言う

近藤は薄明りの中 赤く光る炭を見ながら

「・・・そうです。・・・落ちる首の最後の一声、四肢の痙攣 脈と血の吹き出し・・・。そんな物がとことん頭から離れませんでした・・・。今でも、刀が包丁のようにしか、感じない時があります・・・。だが、・・・・私は・・・・。」

涙を流す。

「先生の言う通り・・・・・俺の本性は・・・獣です。トシや総悟のように・・・成りたくも無いのに人切りに成るのではない。・・・血に寄せ付けられ血が見たいだけの男だ、・・・でも!・・・・。」

近藤が手で目を覆うと、涙は手の間からこぼれ

「でも・・・トシは 俺の・・・・。俺を見習うと、唯一の兄弟子だと・・・・・・俺にどこまでもついていくと言う。」

近藤から嗚咽が漏れる。

「・・・・。」

田嶋は 表情を変えず近藤を見ている。

近藤が顔を手で吹き

「しかし・・・!、俺・・・私は、先生の言う通り・・・真の天然理真流、継承者を育てる者、それこそ継承者なり・・・。先生の先生を育てた結城さんや、田嶋先生が兄と呼ぶ方々のように、トシや総悟を、命を懸けて・・・見守ります・・。」

田嶋に そう宣言した。

すると、田嶋は近藤に見せた事のない笑顔でうなずくと

「お前に・・・任せたぞ。」

と言った。





今でも 熱くなる。

俺は・・・天然理真流奥義・・・。

世の為、義兄弟に笑ってすべてを掛けられる 真の侍になるのだ・・・。

・・・いつ行っても、

土方には早く子供を抱かせろと言うのに・・・

俺には言わない。

自分と同じように、未来に残すべきではない者をわかっているのだ。

だから・・・

先生が こうする事は理解できたのだ・・・。


・・・・お前は、俺と中身が同じだな・・・。


いつも、刑場で自分を見て一言言う。

それが嬉しかった・・・。






「・・・・あいつ・・・許さん。」

土方が腕の震えを押さえるように、さすりながら言う。

「トシ・・・。」

近藤が土方を見ると、珍しく唇を噛んでいる。

今に爪も嚙む。

今頃総悟もそうして居るに違いない。


「今まで・・・一回も来ないで・・・大事な時にばっくれやがって!。」

土方は車窓に目を移した。総悟の事だろう・・・。

近藤は


「俺も・・・・昔、港先生と田嶋先生の、両方に噓がばれてなぁ・・・。道場に居ずらくなった事が有る。帰るとこも無かったし、良からぬ所に隠れて用心棒をしてた。・・・まあまあ、仕事は出来たんだが・・・ある時、港先生が俺のシマにやって来て、女衒にいちゃもん付けた。」

おかしそうに言う。

「港先生が・・・?最悪。」

「そう・・・最悪だ。・・手拭い顔に巻いて・・・でも、体格と鼻先と顎みりゃ判る。・・・俺は田嶋先生の所まで連れてこられた。・・・お前たちは関係ないから知らんだろうが、中途入門者は、ここに入門する前に、他で刃傷沙汰を起してないかどうか聞かれるんだが、俺は田嶋先生に習いたくて嘘をついた。」

「・・・。」

「嘘は大罪・・・。体に一部を置いて出て行かなきゃ許されないと思った。だが、腕を切るくらいなら腹を切ると言って、俺は縁側の下に降り、脇差抜いて・・・腹を・・・切ろうとした、・・・するとどかっと!先生の脇差が、股の間 ここに刺さってなぁ・・・。」

近藤は腿の間を叩き、袖をめくって腕の傷を 土方に見せた。

「・・・・どうしたんすか?。」

近藤は笑い

「お説教 くらったんだが・・・・覚えてない。」

「は・・・?。」

土方がきょとんと していると

「実は、先生が投げた脇差で腕の内側が ざっくり切れててな・・・座ったままお小言聞いてたから・・・。」

「え・・・?。」

土方が不審な顔をする。

「あははは・・・港先生が見かねて、出血死するからその辺にしとけって・・・言ってくれてな。」

「何・・なんっすか・・・それ。」

近藤の笑顔を見て少し微笑む。

「田嶋先生が言いたかった事は・・・・自分の死ぬ場所と意味が大事だって事、嘘ついて死ぬなんてありえないだろうって・・・・・・・謝り方も違うってなぁ。そりゃ怒られて・・・・・・・総悟も・・・謝りに行ったんだ、間に合わなくても。・・・・それが大事だ。」

土方はまた眼が赤くなり

「・・・間に合わなきゃ・・意味ないじゃないっすか!・・・。」

と珍しく膨れて言う。

近藤はふっと笑い 自分のくしゃくしゃになった煙草を さし出した。


「間に合ったとしても、港先生が許したかどうか・・・。もちろん田嶋先生も、合わんだろうし・・・。あの警備を2回もかいくぐったのは 総悟だけだ。・・・・俺も 間に合っていれば・・・って思う、一日前に言ってれば、・・・って。みんなあいつには、何かを乗せちまうんだなあ・・・。」

と言う。

土方は 煙草に手を出さなかった。

「・・・有村さんも、村上さんも品川さんも・・・庵に向かったのは、総悟だって判ってたって言ってました。やっぱり・・・わざと見逃したんっすね。」

土方が言う。

「・・・・・そうだ。・・・・総悟なら止められるって、思ったんだろうなぁ・・・。」

近藤が 煙草に火をつけ吸い車窓の遠くを眺めた 土方は近藤の寂しそうな顔を見て、言う。


「・・・あの音が・・・。」

ふいに首を落とした土方に 

近藤は、外を見ながら

「・・・ああ・・・べら棒だな?」

と、辛そうに煙を吐く

「・・・つらかったなぁ・・・。」

そう言った時、土方は近藤の手の中から煙草を一本取る。








型を舞い終わって・・・・土方と近藤は白洲の外に出てている。 

港と石川が焼き場から戻ってくるのを待っていた。

ずっと待っていると・・・

ごきごき バキバキと音がし始めた・・・。

港先生が居る方からだった。

近藤が座った椅子の上で身を固くし、拳を固く握る。

土方はなぜだかぞっとして

近藤を見つめ続けるが・・・

音は止まない。


「ここの白洲の砂・・・・。白いだろ・・・ここに撒くためだ・・・。」

近藤が言う。

「!!・・・。」

だからって・・・昨日まで人の体だったのに・・・砕く事は無い。

ゴリゴリと重そうな音がして 徐々に鳴りやんだ。

暫くして石川先生が来て二人を呼んだ。


林を抜けまだ煙の上がる櫓は積みあがった薪が燃えてしまい、低くなっている。

しつらえられた白い代の上、そこに白い陶器の壺。 

港先生がたすきを解きながら着物をはたいている。

近藤が頭を下げるので土方も頭を下げる。


それぞれ位牌、お供え、遺骨などを4人がもち 神主が彼らを払い

その場を後にした。

近藤が遺骨を首から下げたが・・・土方は見れそうにない・・・。


ふと見上げると、星が少し暗い樹冠の間から見えた。


涙で霞んだ・・・

先生が 居なくなった。







帰りの汽車

ふううう

と土方が煙を吐く。

自分がさっきから

体を擦っている理由が分かる・・・。

寒い

一枚着ていたものを・・・守ってくれていたものを脱がされた。

それを体は隠す事も、抵抗する事も出来ず

震えそうになる。

故郷は気温が低いとか タバコを吸っているので窓の下を少し開けているからだとか・・・

そんな理由じゃあなく。

生皮はがされたみたいにぴりぴり痛む感じだ。



土方が深く体を前のめり足を貧乏揺すりしている

それを見て、近藤は声を掛けなきゃならないと思ったが、自分にも余裕がない。

思ってたよりもきつい。

がっぽり穴が開いて、今見えている海に繋がっているみたいに

体の中が別な世界に 往ってしまった。この穴を治す術が・・・

判らないのだ。

 

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