つらつら日暮らし

仏教、禅宗を学ぶ曹洞宗の禅僧によるつらつらなる日暮らし。時事ネタ、野球ネタもあります。

清規の制定とその自在さについて

2017-05-26 06:43:31 | 仏教・禅宗・曹洞宗
「自在」という概念が存在する。「自由自在」という四字熟語にもなって使われることがあるが、実際には「自在」というのは、その存在性とも相俟って論じられるべき事柄である。つまり、自己存在が、他の理由を持たずに、ただそこにあること、それを「自在」という。特に、西洋社会に於ける「神概念」の強烈さは、その「存在」の根底に神を見出すことにあるが、そのような「創造神」を共有されていない東洋社会に於いては、「自在」ということがあっても良かったわけである。つまり、「我々は神に作られたんじゃない。ただ、ここにあるのだ」というテーゼである。

さて、この「自在」という概念は、それこそ「自由自在」に使いこなすことが可能であり、様々な法(規則)であっても、その究極の成立要因を問わずに、「ただあるという事実」から議論を出発することを可能にするのである。そして、それにより恩恵を被るのが、我々禅宗の「清規」である。このことについて、以下のような指摘がある。

清規は宗義の実践であるといわれるが、宗義は恒常不変なものであっても、清規は時処に随って変化し得るものであり、また変化しきたったものである。この清規の可能性をどこまで認めるかに、言い換えれば、いかにして宗義を傷つけることなしに時代に適応してこれを実践し得るかに、卍山と面山・玄透の間に見解の相違が生まれたのである。そこに理論的正当性ということだけで片付けることのできない、時代的適応性という実際性を絶えず顧慮しなければならぬ清規自体のもつ難しさがある。
    鏡島元隆先生「椙樹林清規解題」、『曹洞宗全書』「解題」154頁


ここで気を付けたいのは、「宗義は恒常不変」であるという指摘だ。我々は、一宗派である以上、その宗派には何かアイデンティティーが存在し、その本質からその後の活動が生まれ、教義もあるとばかり思ってしまう。ところが、もし、そんなアイデンティティーの独立した恒常性を認めないような「宗義」があるとすればどうだろうか?或いは、その「恒常性」というのは、「変化」を内に含んだものだとすればどうだろうか?正直、この問題は、決して看過できないように思う。

実は、宗義も清規も、ともに変化し続けるものである。なるほど、曹洞宗ではその宗義を、釈尊からの正法眼蔵涅槃妙心を、嫡嫡相承してきたと述べる。そして、その正法の内容を坐禅(只管打坐)とすることで、鏡島先生ご指摘のような「恒常性」を伴う宗義が完成されていく。だが、ここでいわれる「宗義」とは、一種の「断章取義」であって、実際に坐禅のみの系譜が、これまで嫡嫡に相承されてきたわけでは無い。無論、我々が仏祖と仰ぐ祖師方は、坐禅をした人ばかりであるとは思う。だが、時には坐禅が従となり、余行が主となることもあったことだろう。それこそ、念仏を行った者もいるし、教派仏教的な論議に強かった者もいる。

恒常的な宗義という概念を振りかざすと、その辺の微細さや曹洞宗内に存在している多様性が消えてしまう。そして、拙僧はそれをこそ危惧するのである。

一方で、清規の制定については、確かに自在さがある。江戸時代には、「古規復古運動」が起きて、学僧の面山瑞方禅師や玄透即中禅師などは、宋朝禅の復古を目指したけれども、その両禅師にしても、純粋に宋朝禅をそのままコピーしたわけでは無く、時代において変化した部分があることは間違いない。よって、鏡島先生か挙揚される「理論的正当性」と「時代的適応性」という両者は、力学的な緊張関係を持っていたと見るべきで、先に挙げた「恒常性」とは、ここでは「理論的正当性」に該当し、「自在な変化」は「時代的適応性」に該当する。

ただし、実際の理論的正当性は恒常性をもって成立しているわけでは無く、むしろ、正当性を自ら定め行く実証的態度の中で確定していき、時代的適応性とはその応用であると思われる。つまり、正当性を定め行く態度さえあれば、応用としての実践は、どんな姿であっても良く、その意味では、曹洞宗の祖師方がこれまで、非常に多様な活動をしてきたのは、先に挙げた「恒常性」が前提されていないことの証明でもある(循環論法的表現ではあるが・・・)。

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