つらつら日暮らし

仏教、禅宗を学ぶ曹洞宗の禅僧によるつらつらなる日暮らし。時事ネタ、野球ネタもあります。

仏教にも「偽書」があります

2006-05-26 06:55:10 | 仏教・禅宗・曹洞宗
ちょうど、『ユダの福音書』問題を、当ブログも数回【その1その2】にわたって採り上げてきましたが、とりあえず騒ぎは終息傾向にあると見ております。そこで、拙僧なりに「偽書」という問題を、つらつら考えていたのですが、キリスト教もそうですが仏教でも当然に「偽書」の問題はあるわけです。しかも、その「偽書」を判別するような著作まであったので、今回はそれを見てみたいと思います。

今回見ていくのは、『大正新修大蔵経(以下『大正蔵』と略記)』の第78巻「続諸宗部9」に収められている『偽書論』です。非常に分かりやすい書名でありますね。この『大正蔵』第78巻というのは、日本における諸宗派の文献が収められているもので、特に真言宗系の文献が中心になっております。参考までに、日本曹洞宗関連なら82巻ですし、浄土宗関連なら83巻というように、全100巻ある『大正蔵』の後半は、それまでの中国で刊行された『大蔵経』には、(当然)収録されていなかった日本の文献が入っているわけです。

まぁ、一冊一万五~六千円くらいするので、そんなに容易に買えるわけでもないのですが、一応『大蔵経』というのは、それだけで「権威」になるものなので、可能なら買っておいても良いかなと。まぁ、スペースの問題があるので、一般の方にはオススメしませんけど、お寺さんには是非に・・・

【『偽書論』解題】

寛永6年(1629)に作成されたもので、著者は恭畏(真言宗、1565~1630)という方です。「偽書」とは、著者の名前を偽って作られた著作のことであり、内容に著しく問題があるにもかかわらず、その著者の名前だけで有り難がられてしまうということが発生してしまうのです。そして、恭畏は冒頭で以下のように述べて偽書を批判します。

偽書の目録は、先年に書写させたけれども、今度重ねて、祖師がまとめたものから文章を少し抜き出して授与するものである。ゆめゆめ他の者に見せてはならない。偏にこれが、破邪顕正の内容だからである。傍流の連中は、正統な師から伝えられていないので、多くが偽書でもって正しい教えだと誤解しているのである。非常に問題があり、大いに慎むべきである。大いに慎むべきである。良くこの意趣を知って、眼に焼き付けておくのだ。他人に披露してはならないぞ。
    『大正蔵』78巻915頁下段、拙僧ヘタレ意訳


ということで、やはり正統的な教えとは師匠から伝えられるものであり、自分勝手に著作などだけで思想を学ぶ者は、結局は文献自体から思想の正邪を判断することが出来ず、ただ古いだけとか、著者が有名だとかいう理由だけで、勘違いをしてしまうのです。これは、現在ネット上の情報になっていることで、ますます酷くなる傾向にあると思いますが、当時からも似たような問題があったということが、この恭畏の指摘によって明らかになります。

【内容の検討】

そもそも「偽書」という現象を考えれば、まず①内容として問題点がある場合がありますし、②著者が違う場合があります。そして、恭畏は十三條にわたって、偽書とされる著作の問題点を挙げていくのですが、その問題点とすれば、或る時期に「偽書」を作る名人がいたらしく、同じ者の名前が数回出て来るのが分かります。この辺は例えとして正しいか分かりませんが、いわゆる芸術品でも贋作を作る名人がいるようですが、その人のような感じといえば分かりやすいのかもしれません。従来の説に似せてはいるものの、それを自分の名前で出さずに古人の名前を使うことで、箔を付けようとするわけですね。

なお、面白いなと思うものに、「深秘口訣」という書について「偽書」の判定がされているのですが、その理由として或る書写した人の年齢が本来36歳であるべきを「38歳」と書いてあったり、亡くなった年号についての不備があったりと、あまりといえばあまりに分かりやすすぎるミスです。もしかしてこの辺が「偽書」を書くルールなのかもしれません。

そこで、先日問題になった『ユダの福音書』も、あまりといえばあまりに分かりやすすぎる嘘に、かえって嘘じゃないと思っている人が多いのかもしれません。でも、いくらなんでもあれは無理がありすぎる内容ですし、しかもそれが公表された時期についても、今回の『ダ・ヴィンチ・コード』に当たりすぎてるし、もちろんそういった古文書が存在したこと自体は嘘じゃないにせよ、内容的に真偽を判断して良いはずなので、ダメなものはダメってことでしょう。

この記事を評価して下さった方は、にほんブログ村 生活ブログへを1日1回以上押していただければ幸いです。

これまでの読み切りモノ〈仏教〉は【ブログ内リンク】からどうぞ。
ジャンル:
文化
コメント   トラックバック (1)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 北朝鮮で日朝の仏教界が合同法要 | トップ | 光学迷彩の実現も近い! »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ダ・ヴィンチ・コードへの興味(5)<ベン・ハー> (映画で楽しむ世界史)
マグダラのマリアの謎 「ダ・ヴィンチ・コード」の本当の主役はマグダラのマリア。彼女は一体何者なのであろうか。 彼女はもともと娼婦であってイエスに遭って信仰に目覚めたとの説は、カソリックサイドが公式に流したのかどうかは定かでないが(おそらく噂を振り ...