つらつら日暮らし

仏教、禅宗を学ぶ曹洞宗の禅僧によるつらつらなる日暮らし。時事ネタ、野球ネタもあります。

無住道曉『沙石集』の紹介(14g)

2017-02-24 10:23:16 | 仏教・禅宗・曹洞宗
前回の【(14f)】に引き続いて、無住道曉の手になる『沙石集』の紹介をしていきます。

『沙石集』は全10巻ですが、この第10巻が、最後の巻になります。そして、第10巻目には「本・末」とあって、現在は「末」の部分、つまり最後の巻の最後の部分になります。ただし、内容は「本」からの継続で、様々な人達(出家・在家問わず)の「遁世」や「発心」、或いは「臨終」などが主題となっています。世俗を捨てて、仏道への出離を願った人々を描くことで、無住自身もまた、自ら遁世している自分のありさまを自己認識したのでしょう。今回は、「十一 霊の託して仏法を意得たる事」を見ていきます。この「第十巻の末」に収録されている諸話は、基本的に「仏法を得るとはどういうことか」について問われています。

 国王とは、天下の父・母のような存在であるのは、国民を安寧にし、国を安穏にするためである。よって、仁・恵をもって王とするのである。
 仁というのは情け心であり、慈悲の心である。
 恵というのは民を恵み、育む心である。
 だからこそ、王の素晴らしい徳を讃えるのに、「仁は秋津島(日本のこと)の外にまで伝わり、恵みは筑波山の影よりも長大である」というのである。もし、仁・恵がない王がいれば、大きな鼠が、無駄に五穀を食べて損失させる様子に喩えるため、「大きな鼠が私の税を食べる」というのである。
 また、文武の官僚にある人は、各々自らを司る官に対して忠誠心を持たなければ、無駄に人からいただく禄を食べるといって、「尾閭」に喩える。この「尾閭」とは、大海の底に大きな穴があって、諸々の河が流れて海に入っても、この穴に水が落ちるから海水が増えすぎて溢れることは無いということである。天下の民が苦しんで、農業や養蚕を行い、年貢や官物を納めても、(無能な役人が)皆売り払ってしまい、納めた人の苦しみも知らず、国の煩いも思わず、君主に対する忠誠心もなく、民に対して仁が無い百官とは、ただ、僧侶が修行の徳が無い様子と同じである。
 国王を天子といい、天に代わって国を安んじ、百官は王の徳を分けてもらい、王に代わって民を育むべきであるのに、今の世はただ、国を煩わせ、民を苦しめる官僚のみ見える。忠誠心を持つ官僚も少なく、仁がある人は段々とまれになっていくことを悲しむべきである。
 必ず内外の教えに随って、僧も俗も仁義を守り、慈悲心と智慧を具えて、人が目の前にしている悩みを認め、堅く戒行を守り、仏道に思いを深めるべきである。
    拙僧ヘタレ訳


この辺に、無住の「政治観」が現れているようで、とても興味を抱きます。それで、この一節で主張されていることをごく簡単にまとめると、王(権力者)というのは、仁(慈悲の心)・恵(恵み育む心)をもって国と民を治めなくてはならないということです。拙僧つらつら鑑みるに、やはりこの「恵」という言葉については、今後も気をつけてみていく必要があると思います。これを、おそらく仏教に於ける「智慧」の「慧」と同一視すると、困難な問題となります。よく、仏教の「智慧」と、世間の「知恵」は同異の両面があるとはいわれますが、確かに、諸行無常を是とし無執着に至らんとする「慧」と、成長を是とし育む思いを大事にする「恵」とでは、その目標が大いに異なっています。

それで、この場でいわれているのは、仁・恵をもって人々を治める王(権力者)は、人々を大事にしてくれると考えているわけです。一方で、自らのことのみ考える者は、上記訳文でも「大きな鼠」とされていますが、無駄で無用な存在だということです。

また、面白いのは、上記の文章には、上位の王のみならず、王に仕える「官(百官・官僚)」についての指摘もあります。「官」は王に忠誠心をもって仕え、その徳をいただきながら、自らも徳高く職務に励む存在だとされています。これもとても大切なことです。

そして、無住はこのような俗の態度は、実は僧にも通じるとしています。僧も、人々から布施をいただきながら、自らの命をつなぎます。それはやはり、布施をして下さる方の安寧を願うことが肝心だという話になります。また、「大きな鼠」になる可能性も、常に持っているというべきでしょう。自らの命を永らえることのみをむさぼる仏道者は、まさしく鼠の存在なのです。

なお、上記訳文の最後の一節については、ちょっとまた何かの機会に記事にしてみたいと思っている。

【参考資料】
・筑土鈴寛校訂『沙石集(上・下)』岩波文庫、1943年第1刷、1997年第3刷
・小島孝之訳注『沙石集』新編日本古典文学全集、小学館・2001年

これまでの連載は【ブログ内リンク】からどうぞ。

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