つらつら日暮らし

仏教、禅宗を学ぶ曹洞宗の禅僧によるつらつらなる日暮らし。時事ネタ、野球ネタもあります。

「正法の心術」について

2017-06-17 12:13:30 | 仏教・禅宗・曹洞宗
道元禅師の『正法眼蔵』「渓声山色」巻は、ただ悟りの境涯や機会を描くだけではなく、学道の用心を説くことでも知られている。例えば以下の一節などはどうか?

学道のとき、見聞することかたきは、正法の心術なり。その心術は、仏仏相伝しきたれるものなり。これを仏光明とも、仏心とも相伝するなり。如来在世より今日にいたるまで、名利をもとむるを学道の用心とするににたるともがらおほかり。しかありしも、正師のをしえにあひて、ひるがへして正法をもとむれば、おのづから得道す。
    『正法眼蔵』「渓声山色」巻


ここでいわれているのは、「正法の心術」ということである。この場合の「心術」について、道元禅師は仏仏が相伝してきたものであるとされ、言い換えて「仏光明」「仏心」としている。要は、普遍的事象そのものであることを意味していることから、端的に「無分別」を指していることは明らかである。

この「無分別」とは、確かに学道している時には見聞することは難しい。我々にとって学道とは、自らの学びであり、その場合「何かのため」に行われることが多いからだ。結果の出ない学道は、相当に辛い。だから、無分別を見聞することは難しい。だが、無分別で良いと納得すれば、むしろ、我々の修行は皆全て仏道となるといえる。

また、無分別は、到っていない場合、容易に執着を生む。悪しき執着としては、道元禅師が指摘されるように「名利」を求めることである。名利とは、「名聞利養」のことであり、我々がつい求めてしまう名誉欲のことである。実際、ゴータマ=ブッダに帰せられる原始仏典でも、名利については批判されることがあるが、これは押し並べて仏道を妨げるものだと理解して良い。

そもそも、名利が切望されるのは、世間に於いてである。出世間とは、ただ得道とそれが衆生に回向されることのみを考えることであるから、およそ名利は起きない。転じていえば、名利が起きた段階で、僧侶は世間に堕落したのである。然るに、周囲の環境などが、僧侶としての世間的栄達を願っている場合、それに対して悪しき影響を受けることがある。実は、道元禅師自身もそうであった。

 我初めてまさに無常によりて聊か道心を発し、あまねく諸方をとぶらひ、終に山門を辞して学道を修せしに、建仁寺に寓せしに、中間に正師にあはず、善友なきによりて、迷て邪念をおこしき。
 教道の師も先づ学問先達にひとしくよき人となり、国家に知れ、天下に名誉せん事を教訓す。依て教法等を学するにも、先この国の上古の賢者にひとしからん事を思ひ、大師等にも同からんと思て、因高僧伝、続高僧伝等を披見せしに、大国の高僧、仏法者のやうを見しに、今の師の如教にはあらず。また我がおこせる心は、皆経論伝記等には厭ひ悪みきらへる心にて有りけりと思より、漸く心つきて思に、道理をかんがふれば、名聞を思とも当代下劣の人によしと思はれんよりも、上古の賢者、向後の善人を可恥。ひとしからん事を思とも、この国の人よりも唐土天竺の先達高僧を可恥。かれにひとしからんと可思。乃至諸天冥衆、諸仏菩薩等を恥、かれにひとしからんとこそ思べきに、道理を得て後には、この国の大師等は、土瓦のごとく覚て、従来の身心皆改ぬ。
    『正法眼蔵随聞記』巻5


よく知られた一節だとは思うのだが、道元禅師自身、名利の心を起こしてしまったことが分かり、しかもそれを『高僧伝』『続高僧伝』などを読んで自ら改めたという。また、名利の心を改めるには、「渓声山色」巻では、正師に会って、正法を求めることが良いとしている。そもそも、学道の時に得難い「正法の心術」とは、「仏光明」であるからには、仏の働きとして普遍的である。いわば、我々自身がそこから除外されることはない。よって、機会を得て、それまでの自分の考えを翻せば、すぐに悟れるのである。そのことを思い、早く名利を投げ捨てるべきだといえよう。

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