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判例 8

2017-11-20 10:30:27 | マレーシア労務

皆様こんにちは。Tokyo Consulting Firm Sdn. Bhd.の佐藤です。

今回は有期雇用における判例をご紹介いたします。

 

<概要>

シンガポール国籍のZ氏は、C社で2009年から働いていた。入社前の2009年5月27日に発行された最初のオファーレターでは、有期雇用契約とは記載されておらず、Product & Development部門のVice Presidentという役職だった。

しかし、2009年8月26日に、同年10月1日から1年間の有期雇用としてのオファーレターが発行された。C社は、これについて、有期雇用にすることによってビザがとりやすくなるとZ氏に説明したが、Z氏は既にビザを取得しており必要ないものであると訴えた。しかし、「管理のための、形式上の有期雇用契約である」と説明され、それを受け入れた。

2009年10月1日に働きはじめたが、実際の役職は、事業開発部門のVice Presidentであった。その後、会社側から3年連続で、翌年1年間の有期雇用のオファーが出た。これらの契約更新は、Z氏からの要求があったからではなかった。また、それらのオファーレターには、役職及び雇用条件に変更はないと記載されていた。

2013年1月に行われた会社の合併に伴い、組織の再編成が行われることとなった。

同年9月10日、Product & Solution部門のVice Presidentという役職で、2013年10月1日から1年間の有期雇用のオファーが発行された。しかし、この役職には賞与がなかったため、Z氏はこのオファーを受け入れないと口頭で伝えた。

同年9月13日、CEOとZ氏によってミーティングが行われた。そこで、まず会社は3ヶ月間の有期雇用のオファーを出すことにした。その3ヶ月の間に、1年間のオファーを受け取るか検討するということに、Z氏は口頭で同意した。同年9月18日、打ち合わせの通り、3ヶ月間のオファーがC社より提出された。

しかし、同年10月1日、Z氏から人事担当者にメールで、3ヶ月のオファー、1年間のオファーのどちらも断るという旨の連絡が入り、「賞与がなくなることが不満だが、現在から条件を変えず、賞与がなくならないのであれば、会社の成長のために働く準備は出来ている」とZ氏は人事部に伝えた。

同年10月18日、C社は、3ヶ月間の有期雇用契約が満了し、それ以上更新しないという旨のレターを発行した。本来であれば、2ヶ月の通知期間を設けねばならないが、10月19日付けの解雇となるため、2か月分の給与を支払うと記載されていた。

このレターに対しZ氏は、3ヶ月間の有期雇用契約に合意した覚えはなく、また、2012年10月から2013年9月の雇用契約も切れていることになるが、毎年、自分から要求しなくても自動的に更新されていたため、これは有期雇用ではなく正社員として扱われるべきだと主張。この解雇は不当解雇のため、復職させるよう訴えた。

 

<従業員側の主張>

3ヶ月の有期雇用契約も、1年間の賞与なしの有期雇用契約も同意した覚えはない。C社側は、Z氏が2013年9月13日のミーティングで3ヶ月のオファーに同意したと主張しているが、その証拠はなく、オファーを断っていることは2013年10月1日のメールというはっきりとした証拠がある。よって、解雇時に有効だったのは、2012年10月18日に発行された、契約更新のレターである。また、そのレターには、労働条件に変更はないとされていた。よって、賞与がない雇用のオファーを受け入れられないのは当然である。

有期雇用契約を結んでいる社員であれば契約の満了と同時に理由なく解雇できると会社は考えているが、そもそも有期雇用契約にする予定はなく、C社側の勝手な理由で、形式上有期雇用にしているときいている。正社員である以上、理由のない解雇は不当解雇である。

これまでの有期雇用契約は、Z氏側からの依頼が無くても自動的に更新されていた。また、実際の職務は事業開発部門のVice Presidentとしての仕事であり、名刺にもそう書いてある。この事業開発という仕事は、一年きりで終わるような仕事ではない。実質的には正社員であった。

 

<会社側の主張>

オファーレターにははっきりと有期雇用と記載されているため、正社員ではない。また、2013年9月13日のミーティングで、Z氏は3ヶ月のオファーを受け入れると口頭で合意した。通知期間を設けず解雇することについても、雇用契約の通り、2か月分の給与を支払っているため、今回の有期雇用契約の満了に伴う解雇は、不当ではない。

 

<判決>

Z氏は有期雇用契約ではなく正社員であったとみなす。正社員の理由のない解雇は不当な解雇であるがゆえ、本件を不当解雇とみなす。

Z氏は当初、復職を希望していたが、判決はZ氏の解雇から2年も経っており、すでにZ氏の役職には後任がいるため、復職は調和を乱すことになると判断し、代わりにC社には賠償金を30日以内に支払うよう命じる。賠償金額は以下の通り計算される。

 

①    未払賃金

Z氏は解雇後、職に就かず収入が無かったため、24か月分の未払賃金を支払う。

Z氏の最後の月給は、RM19,400.00だった。

RM19,400.00 × 24ヶ月 = RM465,600.00

②    復職の代わりに退職金として、月給×勤続年数を支払う。

勤続年数は、2009年10月~2013年10月の4年間であった。

RM19,400.00 × 4年 = RM77,600.00

①RM465,600.00 + ②RM77,600.00 = RM533.200.00

合計RM533,200.00

 

<裁判所の見解>

聴取と証拠によって、以下のことが判明し、それを元にZ氏は正社員であったとする。

①    仕事内容について

Z氏は、雇用契約上は、Product & Development部門のVice Presidentという役職だが、実際には事業開発部門のVice Presidentであった。これは、Z氏や同僚の証言、そして、名刺にもそう書いてあることからわかる。Z氏の証言の通り、事業開発の仕事は、定められた期間で終わるものではない。どのくらいの期間を要するのかわからない仕事のため、有期雇用として雇われるべきではない。

②    有期雇用の更新について

Z氏の雇用契約は、Z氏からの要望がなくとも自動的に更新されていた。また、一番初めに出したオファーは、有期雇用としてではなく正社員としてであった。有期雇用としてのオファーを出すようにしたのは、ビザ取得のためで、形式上のものだと説明した以上、実質的には正社員としての雇用であるということを意味する。

③    雇用条件について

契約期間中の2013年4月25日に昇給があったことや、契約書上、契約期間以外の項目は他の正社員の契約書と同じように、試用期間や昇給、賞与について記載されていたことから、Z氏の雇用条件は正社員と同じものであったとみなされる。

 

また、C社側は、ミーティングでZ氏が3ヶ月間のオファーに合意したと言っているが、そのミーティングの議事録もなければ、合意の署名のある契約書などといった証拠がない。Z氏が3ヶ月間のオファーも、1年間の賞与なしのオファーも断っているメールが証拠として提出されているため、有期雇用契約を結んでいないことは明らかである。

 

<判決のポイント>

今回の判決では、従業員が有期雇用(Fixed-term Employee)なのか、正社員(Permanent Employee)なのかという点が論点となりました。裁判所は、その契約書の名前が「有期雇用契約」となっているかで判断するのではなく、以下のポイントに注目し、判断しました。

①    従業員の従事する事業または仕事が、無期限で行われる仕事なのか、それとも決められた期間のみ求められるものなのか

②    実際行われていたこと(雇用契約は定期的に更新されているのか、など)

③    雇用条件は、正社員と違いがないか

判決を大きく左右したのは、一番初めに出されたレターが有期雇用ではなく正社員だったという点、そして有期雇用のオファーに変更した理由を、「ビザ取得のための形式的なもの」だとしていたことです。これでは、本質的には正社員としての雇用だとみなされますし、従業員側もそう捉えてしまいます。いくら契約書の名前が「有期雇用契約」だからといっても、本質的には正社員として働いていたのであれば、正当な理由が必要だと、判断されました。

従業員側に、正社員だと誤解されないためには、こういった混乱を招く行動を避け、また仕事内容と契約期間の関連性について説明することが大切でしょう。法律上、有期雇用契約が満了し、更新をしない場合に理由を説明しなければならないという義務はありませんが、それまで定期的に更新をしてきた方の更新を止める際には、混乱を避けるため、理由の説明が必要となるでしょう。

 

それでは今週も頑張っていきましょう。


 

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