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判例 9

2017-12-04 10:10:11 | マレーシア法務

皆様こんにちは。Tokyo Consulting Firm Sdn. Bhd.の佐藤です。

今回はマレーシアで実際に発生した判例について解説いたします。

 

<概要>

M氏は、農園を営むS社にて、Tractor Driverとして働いていた。2011年2月25日3時45分、農園の警備員A氏とB氏は、M氏がパームの実13束の窃盗未遂の現場を目撃し、アシスタントマネジャーのF氏に即座に口頭で報告し、同日、警察へレポートを提出した。

2011年2月28日、S社はM氏に対し、この窃盗未遂についての理由呈示命令書(Show cause letter)を発行した。そこには、「会社の所有物であるパームの実を盗もうとした件に関して、書面で説明を行うように」とあった。

同日、その理由提示命令書への返答として、書面で窃盗未遂を否定した。その書面での

M氏の説明に納得がいかなかったS社は、2011年3月17日付けのレターで、「同年2月25日3時45分、Xブロックで13束のパームを盗もうとしたことについて、同年3月25日に内部調査会(Domestic Inquiry)が行われる」と、M氏に通達した。

2011年3月25日、マネージャーのH氏を議長として、内部調査会が実行された。他の2人の実行調査会委員は、本件の目撃者でも責任者でもない、無関係な社員であった。調査会の結果、深刻な違反行為をM氏が犯したと判断された。

同年5月16日、これ以上雇用を続けられないと判断したS社は、M氏に即日解雇を知らせる解雇通知書を発行。その通知書を受け取ってから7日間以内に社宅を引き払うように命じられた。

M氏は、窃盗未遂を依然否定しており、内部調査会は不公平な方法で行われ、不当な理由で判断された解雇であるとS社を訴えた。

 

<従業員側の主張>

窃盗未遂を否定する。事件のあったとされる2011年2月25日、M氏は、Klangで行われた全国農園労働組合の会議に出席するため休暇をとっており、家に着いたのは15時10分であった。その後、M氏は、ヤギのために草刈をしようとXブロックに向かった。Xブロックの付近で働いているP氏(農園のワーカー)は、M氏が袋と草刈機を持っているところをみており、また同じ場所でパームの実をいくつかきっているところも見ている。草刈の後、M氏はオートバイで家に戻った。家に戻る途中、警備員Aと警備員Bとすれ違ったが、二人を止めたり、質問したりしてこなかった。

このような事実があるにも関わらず、内部調査会では警備員A氏、B氏の証言のみを証拠に、窃盗未遂を犯したと判断された。調査会は不公平に執り行われた。

窃盗未遂があったという証拠は、警備員A氏、B氏およびアシスタントマネジャーF氏の証言だけであり、その他の証拠は一切裁判所にもM氏にも提示されていない。また、A氏、B氏の証言にも一貫性がなく、矛盾点がある。

内部調査会で不当な判断がなされたことを認め、復職させるよう希望する。

 

<会社側の主張>

本件は内部調査会の結果に基づく正当な解雇である。理由呈示命令書の発行の前に、窃盗があったという十分な調査は行われている。「草刈のためにその時間、その場所にいた」というM氏の証言はあとづけ以上の何物でもない。M氏は会社の信頼を裏切った。解雇という罰は、罪の重さを考慮した公平な判断である。

 

<判決>

本件は不合理な解雇であったものとみなす。適切で十分な調査が行われなかったにもかかわらず、M氏に違反行為があったと、S社はみなした。これを理由に行われた解雇は、不正解雇である。同時に、M氏にこれ以上罪をとがめないものとする。

M氏は復職を希望しているが、M氏とほかの社内の関係が悪化している現在、復職は適切でないものと判断する。そのため、金銭での補償を、この判決が出てから30日以内に行うよう会社に命ずる。補償金額の計算は、以下のとおり行われる。

①    未払賃金

a)    解雇(2011年5月16日)から裁判所での最後の聴取(2015年7月31日)まで、4年以上が経っている。解雇の日付から、24ヶ月以内までであれば未払賃金を請求できる。M氏のS社での最後に引き落とされた給与は日給26RM(月給にして780RM)。

   780RM × 24ヶ月 = 18,720RM

b)    解雇後、他の職についていない場合は、未払賃金が全額支払われるが、すでに次の収入がある場合は、全額支払う必要はないものとして、裁判所が指定した割合分を差し引いて計算する。M氏は2012年5月から、日給22RMで現在の職に就いている。このことを考慮して、未払賃金から10%を差し引く。

   18,720RM – (18,720RM×10%) = 16,848RM

②    復職の代わりとなる補償金(退職金)

退職金は、勤続年数 × 1か月分の給与で計算する。M氏のS社での雇用は1997年12月1日から始まっており、解雇は2011年5月16日であったため、13年の勤続をしていたことになる。

            780RM × 13ヶ月 = 10,140RM

合計

①16,848RM + ②10,140RM = 26,988RM

 

<裁判所の見解>                                                           

内部調査会の効力について

内部調査会が行われていたとしても、この件についてさらに再審理することにした。双方から提示された証拠に基づいて、M氏が違反したとされている件には作為・不作為があったのかどうかという真実を確認しなければならない。もし、M氏が違反に関わったということが証明されなければ、不当な解雇だとみなす。

内部調査会を行ったからといって、不当解雇をしてよいわけではない。内部調査会でわかったことが、法律上何らかの拘束力があるという訳でもない。しかし、内部調査会を行ったという事実は、その従業員が正当に解雇されたか否かを判断する際に考慮される。

今回、内部調査会で判断材料となったのは、警備員A氏、B氏の証言のみであった。証拠品や、事件の報告書が提示されたという事実もなかった。また、アシスタントマネジャーのF氏は、理由呈示命令書の発行前に十分な調査を行ったと証言しているが、この「十分な調査」も、警備員A氏、B氏による口頭での証言だけであったため、この調査方法は十分であるとは言えない。よって、内部調査会での判断は無視し、裁判所で事件について聴取する。

警備員A氏、B氏による証言について

会社側の証人である警備員A氏、B氏の裁判所での証言には、一貫性がなく矛盾がある。もし、二人の証言が本当であれば、M氏は、普通ではできないアクロバティックなスタントをやってのけたことになる。また警備員Bは、13束のパームの実をオートバイで運ぶのは不可能であると、反対尋問で認めた。

また、二人とも、M氏が逃亡した後は鍬と鎌が残されたと言っているが、その現物や写真すら証拠として裁判所に提示されていない。

したがって、警備員A氏、B氏の証言には信用性がかけると判断する。

証拠書類について

今回の窃盗事件に関する、警備員A氏、B氏による会社への報告書が提出されていない。報告書はアシスタントマネジャーのF氏から、警備員A氏、B氏に作成するように指示されたと証言されているが、裁判所に提出されていないだけではなく、内部調査会の際にそれをM氏に提示していなかった。

 

M氏が窃盗未遂を犯したという会社の訴えには、説得力のある証拠がひとつも無かった。このため、M氏は不当な理由で解雇されたものとみなす。

 

<判決のポイント>

今回、内部調査会(Domestic Inquiry)の効力について裁判所が言及しました。労働法14条では、従業員が違反を起こし、その従業員に対して解雇通知なしでの解雇や、降格、その他の懲戒処分を行う際は、その処罰の前に必ず内部調査会を開かなければならないとあります。労働法の対象外の従業員(月給RM2,001以上の者など)でも、懲戒処分の前に、自身を守る機会を会社は与えられなければなりません。

内部調査会の目的は、真実を明確にすること、従業員が自身の言い分を発言できる機会を与えること、証人に質問すること、証拠を確認すること、従業員に罪があるか否かを判断することそして経営層に報告書を提出することです。

決して内部調査会を行ったからどんな懲戒処分でも行っても良いというわけではありません。そのやり方が公平であったかどうかがポイントに挙げられます。物的な証拠を用いて行い、社内の、該当案件に関与のない人物による公平な判断であるかが重要です。そうである場合、たとえその判断が、裁判所が行った判断と違う場合でも、従業員に対して公平に調査をしたという会社側の姿勢がアピールされます。

 

それでは今週も頑張っていきましょう。


 

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