GGI東京コンサルティンググループ・マレーシアブログ

毎週月曜日更新
東京コンサルティンググループ・マレーシア駐在員より、現地から生の情報、声をお届けします。

Wiki-Investment

書面外の雇用契約解除に関する判例

2017-03-13 10:35:42 | マレーシア労務

<概要>

 T氏は、2000年から2015年までY社に勤めており、最終役職は管理職(Supervisor)であり、月給2,700RMをY社から受け取っていた。しかし、T氏とY社の間では、正式な労働契約書は締結していなかった。その理由は、T氏の姉は、Y社の取締役であるK氏の妻であり、T氏の労働契約は取締役であるK氏により承認されたものであったからである。

 2015年3月7日、T氏の姉が亡くなり、同年7月15日にT氏はY社より以下の内容が記載されている解雇通知書を受け取った。

(1)2015年7月31日をもって労働契約を解除する

(2)契約解除の手はずとして、2か月分の給料(RM5,400)を支給する

 ※ただし、有給外での欠勤分である14日間分は、上記の金額から控除する

上記の解雇通知書には、署名欄にサインの記載はなく、ただ「取締役の名前」しか記載されていなかった。T氏は、解雇通知書に記載されている解雇理由に関して、具体的な言及がされていないとしてY社の行為は不当解雇に該当すると主張し、Y社を提訴した。

 一方でY社側は、T氏は姉の死後、業務の質の低下がみられたこと、また2か月分の給料を受け取る代わりに辞職することを了承しているという2点から本件については不当解雇ではないと主張している。

 

<従業員側の主張>

 2000年に締結された労働契約書は公的書面によって承認されたものではないが、T氏の姉婿であるY社の取締役K氏が、T氏がY社で働くことについて承認している。

2015年7月15日、T氏はY社より解雇通知書を受け取った。解雇通知書の内容には契約解除日および解除の手はずとしての2か月分給料の支給についての記載のみがされており、具体的な契約解除の理由については触れられていなかった。

T氏はこのことに対し、具体的な契約解除の理由が記載されていない解雇通知書は、不当なものであると主張している。

 

<会社側の主張>

 解雇通知書において記載されている通り、契約解除の手はずとしてT氏には2か月分の給料を支払っている。Y社の元弁護士による陳述答弁書によれば、T氏は無断欠勤を行っており、T氏の姉の死後においては、特に業務の質の低下が顕著であった。

 またY社はT氏が2か月分の給料であるRM5,400を受け取る代わりに辞めることを自発的に了承していたと証言した。しかしながら、T氏は14日間の欠勤があるため、その合計値であるRM1,453.85は控除することにしている。

 Y社はT氏の業務に対する質の低下がみられたこと、また2ヶ月分の給料を受け取る代わりに、すぐに辞めることを了承したという2点から本件は不当解雇には該当しないと主張している。

 

<判決>

 解雇後、T氏は販売促進員としてのパートを行っていたが定期的な収入をもたらすような仕事ではなかった。T氏が解雇前と同様の役職で復職できるかどうかについて裁判所はY社とT氏が良好な関係を維持できるか、またこのことを保証できたとしてT氏を復職させるべきかどうかということに重きを置いた。解雇による両者の関係が良好でないと判断し、またY社の出廷拒否という一連の成り行きを考慮したうえで、復職による和解は成り立たないと判断し、T氏を復職させるべきではないとする。それは、下記の判決を参照している。

 

Koperasi Serbaguna Sanya Bhd. (Sabah) v. Dr. James Alfred and Anor [2000] より

             

労働法において、不当解雇における通常の救済措置は復職の要求である。復職が拒否される場合はごく稀であり、例えば、本件のように、両者の関係性が極めて不良である場合に、復職させることが両者の調和に貢献するとは考えられないときがこれにあたる。そのような場合、産業裁判所は損害賠償を認めることができる。このような場合、措置としては、(1)延滞金、もしくは未払賃金と呼ばれるもので、雇用者が不法行為によって解雇された期間に対する賠償、(2)復職の代わりに払われる賠償の2つが挙げられる。

 

上記の判例を踏まえ、裁判所は解雇された当初から今日までにおける、支払済の2か月分の給料を控除した未払賃金の補償金支払いを命じ、それに加え、復職の代わりに支払う補償金の支払いを命ずる。T氏に対する補償金の計算方法は以下の通りである。

 

未払賃金:RM 2,700.00 × 16か月

               (2015年7月31日~2016年11月30日)    =RM 43,200.00

              差し引き(支払い済み2か月分)                       =RM 5,400.00

                                                                             =RM 37,800.00

 

復職に代わる賠償金は1年を1か月の月収として換算する:

RM 2,700.00 × 15年分

(2000~2015年)                   =RM 40,500.00

                                                      合計=RM 78,300.00

 

 この合計額から必要であれば社会保険料や所得税などの法定控除を差し引き、その残額をY社はT氏の弁護士であるMessrs Arun Kumar&Associatesを通じて本日より、30日以内に支払うように命じた。

 

<裁判所の見解>

 「Y社はT氏への解雇通知書に2か月分の給料を支払うということ以外は明記していないということ」、「T氏に対する解雇が正当な理由によるものかどうかの証明責任はY社にあり、Y社が出廷しなかったこと」の二点を重んじ、Y社がT氏の証拠に反駁しないという意思決定をしたと判断いたしました。また、Y社はさらにT氏の勤怠の質が低下したということを証明することができていないという点も考慮し、裁判所はT氏が解雇されるきっかけとなった解雇通知書およびT氏の自発的な退職申し出に正当性が認められないとし、T氏の解雇は不当解雇によるものと判断いたしました。

 

<判決のポイント>

 解雇が不当なものであるかどうかを判断する場合、下記の3点が中心に裁判所は判断いたします。

1.労働者に重大な規律違反があったか(懲戒解雇)

2.労働者の能力に著しく問題があるか(能力不足を理由にした解雇)

3.会社の経営状態が著しく悪い(整理解雇)

 

 本件においては(1)T氏が出廷しているのにもかかわらず、Y社が一度も出廷をしなかったという判決までの一連の流れがT氏とY社の公平性を保つものかどうか、(2)解雇通知書による解雇が正当なものに該当するかどうかということが争点となりました。Y社が裁判所に出廷しなかったこと、また解雇通知書に解雇理由の具体的な記述がなされておらず、勤怠の質が低下したという証明も行うことができなかったことから不当解雇とみなされました。

 書面で解雇を通達する際は解雇する理由を明記し、それを従業員にしっかり説明することで、不当解雇のリスクを減らすことができます。また、解雇後のカウンセリングを行っている会社などを使い、解雇後に訴えを起こそうとする従業員の潜在リスクを下げることもまた重要なことだと思います。


 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

有期雇用の更新に関する判例

2017-02-20 09:47:01 | マレーシア労務

<概要>

シンガポール国籍のZ氏は、C社で2009年から働いていた。入社前の2009年5月27日に発行された最初のオファーレターでは、有期雇用契約とは記載されておらず、Product & Development部門のVice Presidentという役職だった。

しかし、2009年8月26日に、同年10月1日から1年間の有期雇用としてのオファーレターが発行された。C社は、これについて、有期雇用にすることによってビザがとりやすくなるとZ氏に説明したが、Z氏は既にビザを取得しており必要ないものであると訴えた。しかし、「管理のための、形式上の有期雇用契約である」と説明され、それを受け入れた。

2009年10月1日に働きはじめたが、実際の役職は、事業開発部門のVice Presidentであった。その後、会社側から3年連続で、翌年1年間の有期雇用のオファーが出た。これらの契約更新は、Z氏からの要求があったからではなかった。また、それらのオファーレターには、役職及び雇用条件に変更はないと記載されていた。

2013年1月に行われた会社の合併に伴い、組織の再編成が行われることとなった。

同年9月10日、Product & Solution部門のVice Presidentという役職で、2013年10月1日から1年間の有期雇用のオファーが発行された。しかし、この役職には賞与がなかったため、Z氏はこのオファーを受け入れないと口頭で伝えた。

同年9月13日、CEOとZ氏によってミーティングが行われた。そこで、まず会社は3ヶ月間の有期雇用のオファーを出すことにした。その3ヶ月の間に、1年間のオファーを受け取るか検討するということに、Z氏は口頭で同意した。同年9月18日、打ち合わせの通り、3ヶ月間のオファーがC社より提出された。

しかし、同年10月1日、Z氏から人事担当者にメールで、3ヶ月のオファー、1年間のオファーのどちらも断るという旨の連絡が入り、「賞与がなくなることが不満だが、現在から条件を変えず、賞与がなくならないのであれば、会社の成長のために働く準備は出来ている」とZ氏は人事部に伝えた。

同年10月18日、C社は、3ヶ月間の有期雇用契約が満了し、それ以上更新しないという旨のレターを発行した。本来であれば、2ヶ月の通知期間を設けねばならないが、10月19日付けの解雇となるため、2か月分の給与を支払うと記載されていた。

このレターに対しZ氏は、3ヶ月間の有期雇用契約に合意した覚えはなく、また、2012年10月から2013年9月の雇用契約も切れていることになるが、毎年、自分から要求しなくても自動的に更新されていたため、これは有期雇用ではなく正社員として扱われるべきだと主張。この解雇は不当解雇のため、復職させるよう訴えた。

 

<従業員側の主張>

3ヶ月の有期雇用契約も、1年間の賞与なしの有期雇用契約も同意した覚えはない。C社側は、Z氏が2013年9月13日のミーティングで3ヶ月のオファーに同意したと主張しているが、その証拠はなく、オファーを断っていることは2013年10月1日のメールというはっきりとした証拠がある。よって、解雇時に有効だったのは、2012年10月18日に発行された、契約更新のレターである。また、そのレターには、労働条件に変更はないとされていた。よって、賞与がない雇用のオファーを受け入れられないのは当然である。

有期雇用契約を結んでいる社員であれば契約の満了と同時に理由なく解雇できると会社は考えているが、そもそも有期雇用契約にする予定はなく、C社側の勝手な理由で、形式上有期雇用にしているときいている。正社員である以上、理由のない解雇は不当解雇である。

これまでの有期雇用契約は、Z氏側からの依頼が無くても自動的に更新されていた。また、実際の職務は事業開発部門のVice Presidentとしての仕事であり、名刺にもそう書いてある。この事業開発という仕事は、一年きりで終わるような仕事ではない。実質的には正社員であった。

 

<会社側の主張>

 オファーレターにははっきりと有期雇用と記載されているため、正社員ではない。また、2013年9月13日のミーティングで、Z氏は3ヶ月のオファーを受け入れると口頭で合意した。通知期間を設けず解雇することについても、雇用契約の通り、2か月分の給与を支払っているため、今回の有期雇用契約の満了に伴う解雇は、不当ではない。

 

<判決>

 Z氏は有期雇用契約ではなく正社員であったとみなす。正社員の理由のない解雇は不当な解雇であるがゆえ、本件を不当解雇とみなす。

 Z氏は当初、復職を希望していたが、判決はZ氏の解雇から2年も経っており、すでにZ氏の役職には後任がいるため、復職は調和を乱すことになると判断し、代わりにC社には賠償金を30日以内に支払うよう命じる。賠償金額は以下の通り計算される。

①    未払賃金

Z氏は解雇後、職に就かず収入が無かったため、24か月分の未払賃金を支払う。

Z氏の最後の月給は、RM19,400.00だった。

RM19,400.00 × 24ヶ月 = RM465,600.00

②    復職の代わりに退職金として、月給×勤続年数を支払う。

勤続年数は、2009年10月~2013年10月の4年間であった。

RM19,400.00 × 4年 = RM77,600.00

①RM465,600.00 + ②RM77,600.00 = RM533.200.00

合計RM533,200.00

 

<裁判所の見解>

聴取と証拠によって、以下のことが判明し、それを元にZ氏は正社員であったとする。

 

①    仕事内容について

Z氏は、雇用契約上は、Product & Development部門のVice Presidentという役職だが、実際には事業開発部門のVice Presidentであった。これは、Z氏や同僚の証言、そして、名刺にもそう書いてあることからわかる。Z氏の証言の通り、事業開発の仕事は、定められた期間で終わるものではない。どのくらいの期間を要するのかわからない仕事のため、有期雇用として雇われるべきではない。

②    有期雇用の更新について

Z氏の雇用契約は、Z氏からの要望がなくとも自動的に更新されていた。また、一番初めに出したオファーは、有期雇用としてではなく正社員としてであった。有期雇用としてのオファーを出すようにしたのは、ビザ取得のためで、形式上のものだと説明した以上、実質的には正社員としての雇用であるということを意味する。

③    雇用条件について

契約期間中の2013年4月25日に昇給があったことや、契約書上、契約期間以外の項目は他の正社員の契約書と同じように、試用期間や昇給、賞与について記載されていたことから、Z氏の雇用条件は正社員と同じものであったとみなされる。

 

また、C社側は、ミーティングでZ氏が3ヶ月間のオファーに合意したと言っているが、そのミーティングの議事録もなければ、合意の署名のある契約書などといった証拠がない。Z氏が3ヶ月間のオファーも、1年間の賞与なしのオファーも断っているメールが証拠として提出されているため、有期雇用契約を結んでいないことは明らかである。

 

<判決のポイント>

 今回の判決では、従業員が有期雇用(Fixed-term Employee)なのか、正社員(Permanent Employee)なのかという点が論点となりました。裁判所は、その契約書の名前が「有期雇用契約」となっているかで判断するのではなく、以下のポイントに注目し、判断しました。

①    従業員の従事する事業または仕事が、無期限で行われる仕事なのか、それとも決められた期間のみ求められるものなのか

②    実際行われていたこと(雇用契約は定期的に更新されているのか、など)

③    雇用条件は、正社員と違いがないか

 判決を大きく左右したのは、一番初めに出されたレターが有期雇用ではなく正社員だったという点、そして有期雇用のオファーに変更した理由を、「ビザ取得のための形式的なもの」だとしていたことです。これでは、本質的には正社員としての雇用だとみなされますし、従業員側もそう捉えてしまいます。いくら契約書の名前が「有期雇用契約」だからといっても、本質的には正社員として働いていたのであれば、正当な理由が必要だと、判断されました。

 従業員側に、正社員だと誤解されないためには、こういった混乱を招く行動を避け、また仕事内容と契約期間の関連性について説明することが大切でしょう。法律上、有期雇用契約が満了し、更新をしない場合に理由を説明しなければならないという義務はありませんが、それまで定期的に更新をしてきた方の更新を止める際には、混乱を避けるため、理由の説明が必要となるでしょう。

 

 

 


 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

雇用形態に関する判例

2017-02-13 10:28:53 | マレーシア労務

<概要>

G氏は、2008年から物流企業であるD社のCustomer Service部門の部門長として勤めていた。D社は外資企業との合併があり、組織の再編成を行っていた。2009年9月2日、D社は、Customer Service部門とCommercial部門を、CS/Commercial部門として統合することを発表した。2009年9月10日、D社はG氏に、同年11月4日を最後の出勤日として、解雇通知を出した。組織の再編成の影響で、G氏の役職は縮小されることになったというのが原因であった。退職金を受け取り、G氏は退職した。

2009年11月5日、G氏はD社から、CS/Commercial部門のコンサルタントとして、月給RM16,000でオファーを受けた。この契約は2009年11月5日から2009年12月31日までの有期契約であった。2010年1月1日のレターで、D社はG氏の契約を6ヶ月間延長し、2010年1月1日から同年6月30日までとした。

 2010年3月26日、D社はG氏に、2010年4月2日で契約を終了させると書面で通知を受け、G氏は、有期雇用契約の期間が満了していないにも関わらず理由もなく解雇されたとして、D社を訴えた。

 

<会社側の主張>

 G氏とは、コンサルタントと顧客として、サービス契約を結んでいただけであり、雇用契約ではなかった。雇用契約を結んでいたわけではないのだから、従業員ではない。D社が顧客である以上、契約を終了させる権利はD社にある。

G氏が従業員ではない証拠として、報酬はG氏から提出された「コンサルティングサービス」に対する請求書に基づくものだったということがあげられる。G氏は有期でコンサルティングサービスを提供していただけである。また、EPFの支払いも行っておらず、G氏から支払うように指示もなかったことから、G氏は従業員ではないと言える。

 

<従業員側の主張>

契約書の内容は雇用契約と同じものであり、「有期雇用契約」だと思って働いていた。

契約終了通知には、契約期間の満了前に契約を終了する理由も記載されていなかった。コンサルタントと客という関係ではなく、雇用主と従業員という関係である以上、契約終了(解雇)の理由を明記するべきであり、理由がないのであれば不当な解雇である。

 

<判決>

G氏がD社の従業員であったものとし、G氏は有期雇用契約を結んでいたものとする。また、満期になる前に契約を終了した理由が、契約終了通知に記載されていなかったことから、理由のない不当な解雇であると判断する。よって、以下の処罰を下す。

解雇された時点で、有期雇用契約の終了まで3ヶ月間あったため、月給の3か月分であるRM48,000を30日以内にG氏に支払うこと。

式) RM16,000 × 3か月分 = RM48,000

 

<裁判所の見解>

G氏が従業員だったのか否かを判断するにあたり、「コンサルタント」といった名目で判断するのではなく、D社とG氏の契約の中身で判断する。以下の3つの条件が満たされていれば、それは「雇用契約」としてみなす。

1)    仕事に従事している側が、賃金あるいはその他報酬を考慮し、雇い主側のために労働や技術を提供していると認める場合

2)    仕事に従事している側が、明示または黙示を問わず、もう一方の契約者を「雇用主」と呼ぶに十分なほど、サービスの業績について規制をうけていると認める場合

3)    その他の契約の条項が、雇用契約の内容と一致している場合

 

G氏とD社の契約書内にある以下の事項が、雇用契約の内容と一致しており、D社を十分に「雇用主」と呼べることから、G氏がD社の「従業員」であったことは明らかである。

・契約では、G氏はD社以外との取引を禁止されており、D社は、契約期間中、G氏のサービスを独占していた

・G氏は決まった就業時間(月~金の8:30~17:30)に従って働いていた

・G氏はCS/Commercial部門のDirectorへ報告しなければならなかった

・直属の上司または部門長から、業績について評価の対象となっていた

・D社が判断した仕事を適宜G氏に与えていた

・G氏は仕事をするためにノートパソコンを会社から支給されていた

 

会社側は、EPFを支払っていなかったことが従業員でないことのひとつの証拠だと主張しているが、EPFの支払いがあったか否かは重要ではない。EPFを支払うべきだったのか否かが重要である。EPFを払う必要はないという証拠は提出されなかった。

毎月の報酬について、G氏から請求書が出ていたというが、その請求書のフォーマットはD社のFinance部門から提供されていたものであり、その部門からG氏に、請求書を準備するよう指示があった。そのため、G氏は外部の「コンサルタント」ではなく「従業員」であったものとする。

 

契約終了通知には、満期になる前に契約を終了する理由が記載されていなかった。有期雇用契約にもかかわらず、期間満了前に解雇する際は、理由を記載しなければならない。理由がない場合は、理由のない解雇、すなわち不当な解雇と判断する。よって、本件はD社による不当解雇である。

 

<判決のポイント>

 今回の判例では、G氏が従業員かコンサルタントなのかを判断するにあたり、契約書の名前が「サービスの契約」なのか「雇用契約」なのかではなく、その契約の中身が重視されました。裁判所が判断基準とする中で、特に下記の3点が重要視されています。

 ・D社以外との取引を禁じられていた点

 ・就業時間が、8:30~17:30と決められていた点

 ・G氏に、D社から会社支給のパソコンが支給されていた点

 

 これらは、フルタイムでD社に従事することを意味しています。この条件で働かせておきながら、「従業員ではなくコンサルタントである」と主張するのは難しいことでした。今回は、会社と従業員で認識の相違によるものでしたが、契約書の中身がどちら寄りになっているのかという点も非常に重要なポイントであります。


 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

雇用形態に関する判例

2017-02-06 10:15:24 | マレーシア労務

<前提:Contract of ServiceとContract for Serviceの違い>

今回の判例では、Contract of serviceとContract for serviceという二つの種類の契約書が論点となります。前者は、従業員と雇用主間で結ばれる契約(雇用契約)を指し、後者は、一方がサービスの供給者でもう一方が顧客となり結ばれる契約(サービスの契約)を指します。会社側は”Contract for service”を結んでいたつもりでも、従業員側は”Contract of service”を結んでいたと認識している場合、裁判所はどこに注目して判断するのでしょうか。今回の判例と共に見ていきます。

 

<概要>

G氏は、2008年から物流企業であるD社のCustomer Service部門の部門長として勤めていた。D社は外資企業との合併があり、組織の再編成を行っていた。2009年9月2日、D社は、Customer Service部門とCommercial部門を、CS/Commercial部門として統合することを発表した。2009年9月10日、D社はG氏に、同年11月4日を最後の出勤日として、解雇通知を出した。組織の再編成の影響で、G氏の役職は縮小されることになったというのが原因であった。退職金を受け取り、G氏は退職した。

2009年11月5日、G氏はD社から、CS/Commercial部門のコンサルタントとして、月給RM16,000でオファーを受けた。この契約は2009年11月5日から2009年12月31日までの有期契約であった。2010年1月1日のレターで、D社はG氏の契約を6ヶ月間延長し、2010年1月1日から同年6月30日までとした。

 2010年3月26日、D社はG氏に、2010年4月2日で契約を終了させると書面で通知した。G氏は、有期雇用契約の期間が満了していないにも関わらず理由もなく解雇したとして、D社を訴えた。

 

<従業員側の主張>

D社は、雇用契約は結んでおらず、”Contract for service”を結んだと主張しており、確かに契約書の名前自体は”Contract for service”となっているが、その内容は雇用契約と同じものであり、「有期雇用契約」だと思って働いていた。

契約終了通知には、契約期間の満了前に契約を終了する理由も記載されていなかった。コンサルタントと客という関係ではなく、雇用主と従業員という関係である以上、契約終了(解雇)の理由を明記するべきであり、理由がないのであれば不当な解雇である。

 

 

<会社側の主張>

 G氏とは、コンサルタントと顧客として、”Contract for service(取引先契約)”を結んでいただけであり、雇用契約ではなかった。”Contract of service(雇用契約)”を結んでいたわけではないのだから、従業員ではない。D社が顧客である以上、契約を終了させる権利はD社にある。

G氏が従業員ではない証拠として、報酬はG氏から提出された「コンサルティングサービス」に対する請求書に基づくものだったということがあげられる。G氏は有期でコンサルティングサービスを提供していただけである。また、EPFの支払いも行っておらず、G氏から支払うように指示もなかったことから、G氏は従業員ではないと言える。

 

                   

<判決>

G氏がD社の従業員であったものとし、G氏は有期雇用契約を結んでいたものとする。また、満期になる前に契約を終了した理由が、契約終了通知に記載されていなかったことから、理由のない不当な解雇であると判断する。よって、以下の処罰を下す。

解雇された時点で、有期雇用契約の終了まで3ヶ月間あったため、月給の3か月分であるRM48,000を30日以内にG氏に支払うこと。

式) RM16,000 × 3か月分 = RM48,000

 

<裁判所の見解>

G氏が従業員だったのか否かを判断するにあたり、「コンサルタント」や”Contract of service”といった名目で判断するのではなく、D社とG氏の契約の中身で判断する。以下の3つの条件が満たされていれば、それは「雇用契約」としてみなす。

1)    仕事に従事している側が、賃金あるいはその他報酬を考慮し、雇い主側のために労働や技術を提供していると認める場合

2)    仕事に従事している側が、明示または黙示を問わず、もう一方の契約者を「雇用主」と呼ぶに十分なほど、サービスの業績について規制をうけていると認める場合

3)    その他の契約の条項が、雇用契約の内容と一致している場合

 

G氏とD社の契約書内にある以下の事項が、雇用契約の内容と一致しており、D社を十分に「雇用主」と呼べることから、G氏がD社の「従業員」であったことは明らかである。

・契約では、G氏はD社以外との取引を禁止されており、D社は、契約期間中、G氏のサービスを独占していた

・G氏は決まった就業時間(月~金の8:30~17:30)に従って働いていた

・G氏はCS/Commercial部門のDirectorへ報告しなければならなかった

・直属の上司または部門長から、業績について評価の対象となっていた

・D社が判断した仕事を適宜G氏に与えていた

・G氏は仕事をするためにノートパソコンを会社から支給されていた

 

会社側は、EPFを支払っていなかったことが従業員でないことのひとつの証拠だと主張しているが、EPFの支払いがあったか否かは重要ではない。EPFを支払うべきだったのか否かが重要である。EPFを払う必要はないという証拠は提出されなかった。

毎月の報酬について、G氏から請求書が出ていたというが、その請求書のフォーマットはD社のFinance部門から提供されていたものであり、その部門からG氏に、請求書を準備するよう指示があった。そのため、G氏は外部の「コンサルタント」ではなく「従業員」であったものとする。

 

契約終了通知には、満期になる前に契約を終了する理由が記載されていなかった。有期雇用契約にもかかわらず、期間満了前に解雇する際は、理由を記載しなければならない。理由がない場合は、理由のない解雇、すなわち不当な解雇と判断する。よって、本件はD社による不当解雇である。

 

<判決のポイント>

 今回の判例では、G氏が従業員かコンサルタントなのかを判断するにあたり、契約書の名前が”Contract FOR service”か”Contract OF service”かどうかではなく、その契約の中身が重視されました。裁判所が判断基準とする条件の2,3に特にあてはまったのが、以下の点かと考えられます。

 ・D社以外との取引を禁じられていた点

 ・就業時間が、8:30~17:30と決められていた点

 ・直属の上司または部門長から、業績について評価の対象となっていた点

 ・G氏は仕事をするためにノートパソコンを会社から支給されていた点

 

 これらについては、フルタイムでD社に従事することを強く暗示するものであります。この条件で働かせていたにも関わらず、「従業員ではなくコンサルタントである」と主張するのはとても難しいです。このような条件で働かせている場合は、雇用契約として契約を結び、労働法や就業規則にある規定に則って解雇の手続きをとる必要があります。雇用契約をどうしても結びたくない場合は、労働時間の制限などを制限せず、従業員とみなされないような文章を契約書に盛り込み、契約を結ぶ方がいいかと思います。

 また、有期雇用契約を結んでいる場合、正社員の解雇と同様に、基本的には契約期間の途中で解雇はできません。契約期間中に解雇する場合には、正当な理由が必要となり、その理由を解雇通知に明記しなければなりませんので、ご注意ください。

 


 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

みなし解雇に関する判例

2017-01-30 11:16:37 | マレーシア労務

<概要>

 N氏は2010年から2013年まで、Club Managerという役職で、M社のコタキナバル拠点で働いていた。2013年に、F&B Managerに降格され、その6ヵ月後にSandakan拠点へ異動となった。

2014年7月23日、N氏は、病気の父親を看病するためにコタキナバルに異動したいと、書面にて取締役に希望を出した。しかしながら、返信はなかった。その後、N氏は直属の上司に、同年9月1日から休暇をとるように言われた。

同年9月2日、取締役と話し合おうとしたが、取締役の時間が取れず同年9月9日までできなかった。9月9日、取締役とのミーティングにて、N氏は目標を達成しておらず他拠点に異動しても意味がないと伝えられ、2か月分の給与と共に退職するよう促された。

しかし、N氏が弁護士を雇い裁判をするとM社に報告した後、追加でミーティングが行われ、会社はN氏を解雇したことを否定し、人道的背景からN氏の要望に同意し、同年9月12日のレターにて、コタキナバルにある拠点に異動のオファーを出した。しかしその役職は、N氏と仲が悪いW氏を直属の上司とするものであった。

W氏とN氏が不仲だということは会社も知っているため、この人事配置は不合理なものであるといえる。みなし解雇であるものとして、N氏はM社を訴えた。

 

<従業員側の主張>

 長年の間、N氏は会社のビジネスが拡大するようにと、義務を果たしてきた。2013年には、コタキナバルの年老いた病気の父親を看病しなければならないことは、会社も良く知っているにも関わらず、Sandakanへ異動させられた。この降格という会社の行動は、N氏の評判と尊厳を落とす悪意のあるものである。

 Sandakanでの月間売上目標116,000RMは、会社によって決められた不合理なものである。会社側がN氏が目標を達成しなかったために解雇したと言っているが、N氏がF&B Managerを引き継いだとき、前月(2013年8月)の売上は69,921RMだったが、オフ・シーズンの2014年3月でも86,188RMの売上を維持し、2014年3月でもそして2014年5月の売上は120,435RMに上ったという記録がある。N氏が引き継いでからの売上は、それまでの売上を下回ることはなく、順調に伸びていた。ピークの時間帯、満席にも関わらず人手が足りず店が回らないこともあったが、それは店の予算が足りず人を雇えなかったからである。

 退職と同時に2ヶ月分の給与を支払うといわれたが、これについて適切な質問を投げかける機会は与えられなかった。この重要な問題を無視することは、自然的正義に背くことを意味する。会社による理由のない解雇のせいで、同僚や関係者、友人の前で恥をかかされ、精神的苦痛を負い、会社の経営に対する信念と信用を失った。

N氏が、弁護士を雇ってこの問題を解決すると会社に伝えた後の9月12日、会社はN氏をコタキナバルに異動することを決め、またW氏という上司のもと働くよう辞令を出した。しかし、会社はこのW氏とN氏の仲が良くないことを良く知っているはずである。この配置は会社の後知恵である。

N氏は会社をやめたが、これは会社に対する信頼を失ったからであり、これらのすべての出来事がN氏に不安・プレッシャー・ストレスを与えた。みなし解雇だとして会社を訴える。

 

<会社側の主張>

 Sandakanでの月間売上目標116,000RMを達成できなかったのは確かであり、正当な理由のもと、コタキナバルへの異動はできないと判断した。異動を希望するのであれば、その希望はかなわないため、退職を促した。

 最終的には、N氏の意見を尊重し、異動のオファーを出した。みなし解雇でも、不当な解雇でもない。

 

<判決>

 本件はみなし解雇ではないが、不当な理由による不正解雇だとみなす。

 N氏がすでに別の会社で働いていることから、復職は適していないため、P氏に補償金を30日以内に支払うよう、M社に命じる。補償金の計算方法は、以下のとおりである。

 

①    未払賃金分

a)    最後に引き落とされたN氏の月給は6,426RMであった。解雇された2014年9月9日から、裁判の最後の聴取があった2016年11月10日まで、本来であれば未払賃金は26ヶ月だが、長すぎるため24ヶ月までとする。

6,426RM × 24ヶ月 = 154,224RM

 

b)    またN氏は解雇されてから3ヶ月で新たな仕事を見つけているため、その収入を考慮して20%差し引く。

154,224RM – (154,224RM×20%) = 123,379.20RM

 

②    退職金分

月給6,426RM × 勤続年数15年 = 96,390RM

 

合計 ①123,379.20RM + ②96,390RM = 219,769.20RM

 

 

 

 

<裁判所の見解>

今回、以下の2点に注目していく。

  1. みなし解雇であるか
  2. 正当な理由があっての解雇だったのか

まず1についてだが、雇用主によって不合理な行為がなされた場合には、従業員が一方的に契約を終了する権利があり、これを『みなし解雇』とする。雇用契約の根本的な部分に関わる重大な違反をした場合や、重要な規定をもう守る意向はないと見受けられた場合、従業員側は業務を遂行する必要は無く、雇用主側の行動が理由で契約を終了することができる。

 しかし、今回の場合、裁判所に訴える前に、不満のある点について正すよう会社に知らせたという証拠がなく、N氏が弁護士と相談したと会社に報告した後、会社は修繕しようとしている。また、会社が契約の根本的な部分に関わる重大な違反をしていたという証拠もなかった。そのため、今回はみなし解雇とは認められないものとする。

 2についてだが、会社が設定した売り上げ目標は3つのメモを通してN氏に伝えられたが、その宛名はSenior ManagerのY氏になっており、直接N氏に対して宛てているものではなかった。このことから、売り上げ目標はN氏だけが責任を持っているものでないといえる。

さらに、業績が低いことに対する警告書や業績評価を持ってしてN氏と話し合ったという証拠が見つからなかった。どうやって評価されたのか、そもそも正確に評価されていたのかということすら確認できる証拠がなかった。このことから、本件は恣意的な解雇とみなす。

 

<判決のポイント>

 みなし解雇と判断する際、「重要な規定を守る意向はないと見受けられるかどうか」という点が注目されます。今回、最終的には従業員の意見を受け入れ、解雇ではなく異動のオファーを出したという行動が、「今後も従業員の意見を尊重し、契約に基づいて行動する意思がある」というアピールになったというのが、みなし解雇と判断されなかった原因のひとつかと思われます。

 また、不当解雇かどうかを判断するにあたり、正しい評価が行われていたのかという点が注目されました。誰にどんな責任があるのか、それに対しての従業員の働き振りをどのような数値で評価するのかという点を明確にしていなかったことが会社側の問題でした。明確な評価基準のもと評価を行い、その結果をもとに従業員と話し合い、なぜ希望の異動や昇格・昇給ができないのか、何が足りないのか、どう改善すれば希望がかなうのかという点を丁寧に伝えることが重要です。

 


 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加