新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

小惑星イトカワ発見の裏話

2018年01月17日 | 日記


 木村秋則さんの名前を知ったのは、5年ほどまえ「リンゴが教えてくれたこと」を読んだときだった。青森県弘前でリンゴの無農薬栽培を進めていた。リンゴ農家に養子にはいった木村さんは、無農薬ゆえにまわりのリンゴ農家から病虫害が発生すると白い目で見られ、農協からも協力を断られながら、一歩一歩みずからの思いを実現していた。本の中身は、成功談というよりも経済的苦境に立たされた苦労話のほうが多かった。
 このたび前著の後編ともいうべき「リンゴの花が咲いたあと」が出版された。有名になって全国あちこちに講演や指導に飛び回っているさなか、ガンに倒れた。また奥さんが脳卒中で倒れた。それでもまだ無農薬栽培をみなに知ってもらおうといまなお悪戦苦闘をつづけている。
 話はかわる。糸川英夫博士の名前を記憶している人は多いだろう。宇宙開発の父と呼ばれたが、そのようなことばで分類できるほど定まった範疇にはいる人ではなかった。およそ人間や宇宙に関するすべてのことに興味をもった。リンゴは無農薬栽培のものを欲した。必然的に、目標に向かって闇雲に突進する木村秋則さんと懇意になった。糸川博士は木村さんに「頭を空にせよ」とよく言っていたという。
 あるとき電話で、天体の話になった。木村さんが天体図を観ながら不思議に思っていたことを糸川博士にぶつけた。各惑星の太陽からの距離をみていると、どうも地球と火星との距離が他の惑星間の距離の2倍近くある。ひょっとして地球と火星の間にもうひとつ別の惑星があったのではないだろうか、という疑問だった。木村さんは天体に関してはもちろんド素人だった。宇宙についてのド素人と世界的に有名な専門家。そんなことを気にする両人ではなかった。糸川博士は「そんなことはない」とその場では木村さんの質問を一蹴したが、翌日になって博士からまた電話が入った。「きみ、ひょっとするとどえらい発見につながるかもしれないぞ」というのだった。
 はたして小惑星イトカワがその位置に存在したのだった。母体がなんらかの物体にぶつかって砕け散り、その破片がイトカワなのだろうと推測されている。つまりもっと大きな惑星が木村さんが予測したとおりに存在した可能性を示唆する。
 この話、木村さんの近著「リンゴが教えてくれたこと」に書いてあるが、他のどこにも見あたらない記述なのでここで取りあげた。
 なお余談ながら、イトカワは長さ570メートルほどしかないピーナツ型をした小惑星であり、2003年にJAXAが打ち上げた探査機ハヤブサが苦労のすえそこへ到達し、土のサンプルを地球に持ち帰っている。ハヤブサは故障のため、JAXAとの交信が一時途絶え、関係者たちをやきもきさせながらも、最後には土のサンプルを持ち帰るという偉業を達成した。ハヤブサ本体は大気圏突入の際に燃えつき、土のサンプルが入った容器はオーストラリアの砂漠に到着した。2010年6月のことだった。