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シリアの経済 中東政策会議③

2017-04-05 23:38:59 | シリア内戦

 

中東政策会議が発表した「シリアの経済」は、統計上の数字を中心に話を進めながら、内戦前のシリアの現実をよく描いている。

「バース党社会主義の下で、多くの国民が社会的格差を経験した。しかし自由主義的改革の開始はこの格差をさらに広げた」。

また単に失業率が10%を超えると書くだけでなく、偶然的要因をも書いている。

2006年イラクから避難民が移住し、低賃金労働の就職のための競争がますます激化した」。

長い文章なので、3回に分けて、訳した。今回が最終回である。

======《シリアの経済:現実と課題③》=======

       2011年夏  Middle East Policy Council

      The Political Economy of Syria: Realities and Challenges

              by  Bassam Haddad

国民の生活水準は向上していない。最近5年間国富は増えたが、多くの国民はその分け前を得ていない。このことは統計が示しているし、2011年の3月と4月のシリアの都市や町の様子からもわかる。国民一人当たりのGDPを示す購買力は4年前の3,999ドルから4,574ドルに増えた。しかしこの数字はGDPを人口で割ったものにすぎないので、増えた分が国民にどのようにに分配されているかを示していない。2005年以後シリアの貧困率は10%上昇している。貧しさは東北部と南部に集中している。

失業率は10%もあり、毎年23万人の若者が新たに就労年齢に達している。現在シリアの人口は2200万であるが、2030年には3000万になるだろう。

現在最も差し迫った問題は、物価が上昇し、公務員の給与とののギャップが拡大していることである。労働組合総連合が勇気ある経済報告をし、公務員の給与が物価高に対応していないことを嘆いた。職員と家族は前例のない生活苦を強いられている。大部分が貧困水準を下回るか、それに近づいている。

 

水不足が経済に悪影響を与えている。中東・北アフリカの多くの国々と違い、シリアは砂漠国ではなく、水源がある。しかし水源管理の失敗により、国民一人が年間使用できる水の量は約300立方メートルになってしまった。世界基準では1000立方メートル以下が水不足とされている。干ばつにより、数千の家族が農村から都市に移住した。都市で彼らは失業者となり、都市の失業者の数を増やすことになった。

水不足が深刻になっているので、近い将来国民の不満が爆発するかもしれない。識者によれば、農業用水を農家に任せているることが、水の無駄使いの原因となっている。しかし農業用水を国家管理すべきだという意見は無視されている。過去10年間、干ばつは200300万の住民に被害をもたらし、貧困水準以下の人々の数が劇的に増えた。

 

識字率は向上しており、2008年には83.6%になった。2007年、国民の健康のための政府支出は、公共支出の6%である。専門的な助産師のもとでの出産は、2002年は70%だったが、2006年には93%になった。出産時の死亡が減少したので、将来若者の数が増えることになる。また彼らは字が読めるので、政治についての関心が高まる。難題を多く抱え、機能不全の政府組織にとって、新たな負担が増える。

雇用の創出は新5年計画の最重要課題となっている。すでに若者の雇用機会が失われている。軍の兵士の人数は、1990年には12%だったが、2008年には6%を下回るになった。さらに2006年イラクから避難民が移住し、低賃金労働の就職のための競争がますます激化した。

バース党社会主義の下で、多くの国民が社会的格差を経験した。しかし自由主義的改革の開始はこの格差をさらに広げた。

富裕層の消費が社会全体を潤す(トリクル・ダウン)こともなかった。トリクル・ダウン理論は世界的に否定されつつあるが、シリアの現実も、この理論の誤りを示している。しかしシリア政府はまだこの理論を信じている。

都市と農村の格差を縮めようと、政府は農村部に投資をしたが、期待した結果を生まなかった。

政府の財政拡大政策のおかげで、失業率は抑えられているが、政府は財政支出を減らすつもりなので、失業が増えるだろう。国民への補助金は非効率であり、やめるべきだ、と経済学者が主張している。しかし補助金を大幅にカットするなら、ほとんどの生活必需品とサービスの値段が跳ね上がるだろう。補助金制度の縮小が理論的に正しいとしても、これを実施するなら、最貧層に破滅的な打撃を与えるだろう。

 

シリアの政権は1986年に市場経済の導入を開始した。私企業の設立を許可する一方で、これを政権の影響下に置こうとした。市場経済の拡大と同時に、政権の支持基盤の拡大をもくろんだ。その結果政治と経済の両エリート層とを結びつける戦略的なネットワークは維持され、拡大された。このネットワークは成熟し、経済人と政権の実力者との結びつきが深まっている。ネットワークの基礎は信頼関係であるが、経済界は若い指導者を心から信頼するようになっている。もともとは権力の基盤としてのネットワークだったが、現在は純粋な信頼関係に代わっている。また2010年末には人口の多数を占めるイスラム教スンニ派が大統領に好感を持つようになった。彼は前大統領より国民の支持を集めている。

1986年の市場経済導入開始から24年経過し、シリアには新しい階級が生まれている。彼らは積極的で、精神的に自立した若い政治・経済エリートである。将来彼らが実権を握るようになれば、現在の行きづまりを打開するかもしれない。これまで述べた行き詰まりの中で最大の問題は、石油が枯渇しかけていながら、代替収入が見当たらない、ということである。従って貧困・失業対策をする財源がない。新たに200万人の雇用を創出すれば、この問題は解決する。しかし、現在それを期待できる企業も業種も見当たらない。

新興エリート層が力強い経済発展を実現すれば、多くの問題を解決するだろう。

 

新興エリート層が国政を担うのは将来のことである。現在もう一つの勢力が生まれている。彼らは予測不能な形で社会の安定を崩すかもしれない。市場経済を保障する制度のもとで、外国資本が投資され、外国資産が増大した。外国資本は徐々に政治権力から独立した実力を持ち始め、縁故関係によらない、自立した経済活動を始めている。将来外国資本は政治権力に対抗する力を持つだろう。市場経済へのドアはまだ少し開いただけであり、新しいチャンスの恩恵を受けているのは、主に政権の追随者であるが、市場経済への本格的な移行は予期しない結果を生み、政権が統制できない事態が生まれるだろう。

 

      《将来への展望》

現在多くの若い専門家が大統領をとり囲んでいる。数年前まで旧弊なタカ派が実権を握っていたことを考えると、大きな変化である。大統領はこれまで考えられなかったような危険を冒し、改革を実行するかもしれない。これまでのやり方では、シリアは生き延びられない。しかし政権の中には、これまで通り利権に安住したいという守旧派も多い。またシリア国民は一般に新しいものを警戒し、現状を好む傾向があり、守旧派はそのことを頼りにしている。しかし枯渇した油田から石油が再び湧いてくることはないので、石油に代わる新たな産業を生まなければ、貧困と失業がさらに拡大するだろう。その時、政権は間違いなく倒れるだろう。

====================(中東政策会議終了)

 

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