映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ピスタチオ」 梨木香歩

2011年02月23日 | 本(その他)
すべての事象はつながっている

ピスタチオ
梨木 香歩
筑摩書房


           * * * * * * * *

梨木香歩さんの新刊です。
「棚」というペンネームの女性が取材のためアフリカの旅をします。
そのための準備で資料を当たるうちに、
呪術医の「ダバ」という言葉が心に引っかかる。

<ダバとは何か>
<ダバは状態であり、その状況を引き起こした、そのものである。>
<どういう状況か。>
<間断なく尿意が起こる。そのため体がだるく、何をする気にもならなくなる。
体の中にあるものをすべて排泄したがる>
<どうやってその状態が引き起こされるのか>
<ダバが体の中に入っているからだ。拳ほどの黒い塊である>


実はちょうどそのとき、彼女の飼い犬マースが腫瘍でそのような病気の手術をしたばかり。
このことはほんの手始めで、
彼女の旅は、次から次へと運命の糸に導かれるように、
様々なことが連鎖的に符合してゆく"旅"となるのです。


棚がアフリカで会ったナカトという女性は、
双子の片割れ“ババイレ”と内乱のために離ればなれになってしまった。
そこで彼女の行方を捜したいので、棚に同行させて欲しいというのです。
取材のためのおおよその日程や道程は既に決めてあって、
人捜しに付き合うことは出来ないと思ったものの、
どうしてもと言うので同行することに。
私も、そのことはこの物語のほんの些細なエピソードに過ぎないと思っていました。
その後の鮮烈な結果を見るまでは。
でも、実はこのことがここでは最も大きなエピソードだったのです。
むしろ、この旅はそのためにあった。
この劇的な結末にうなってしまいます。


物事には原因があって結果がある。
だから一つ一つを繋ぐのは簡単なのですが、
いくつもの糸とその事象とのつながり具合のその結果はもう、奇跡と呼ぶしかない。
これが物語というものなんですねえ。
けれど、この本で著者が言いたいのはそのような希有な奇跡の神秘のことではない。
私たちの身の回りのものや出来事は、
すべてがつながり関連し合っている、
そういうことなのだと思います。
たとえば、今地球を悩ます各地の異常気象。
これは地球にとりついている"ダバ"の影響なのではないか。
人類発祥のアフリカの地で、
人々はまだ私たちのぐるりの世界のつながりを読み解く力を失っていない。
何だかそのようなことを感じさせられました。

ピスタチオは、あの、よくお酒の肴になるあのナッツのピスタチオです。
このストーリーでは最も重要なキーワード。
こんなふうに木に成るんですね。


「ピスタチオ」梨木香歩 筑摩書房 1600円

満足度★★★★★



最新の画像もっと見る

コメントを投稿