映画と本の『たんぽぽ館』

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「トオリヌケキンシ」加納朋子

2017年07月12日 | 本(その他)
通り抜けられないように思えても・・・

トオリヌケ キンシ (文春文庫)
加納 朋子
文藝春秋


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「トオリヌケ キンシ」の札をきっかけに
小学生のおれとクラスメイトの女子に生まれた交流を描く表題作。
ひきこもった部屋で俺が聞いた彼女の告白は「夢」なのだろうか?
(「この出口の無い、閉ざされた部屋で」)。
たとえ行き止まりの袋小路に見えたとしても、出口はある。
かならず、どこかに。
6つの奇跡の物語。


* * * * * * * * * *

加納朋子さんの短編集。
著者は白血病で闘病生活を送り、見事復活を果たしたのですね。
そのことを記した「無菌病棟より愛をこめて」という本があるのですが、
ちょっと怖くて手が出せないでいました。
でも、もともと好きな作家さんですし、やはり読むべきという気がしてきました。
本作の中にも、著者の体験に近いことが記されているところがあり、
本当に大変だったことが伺われます。


さて本巻、それぞれに別の話ではありますが、
障害や病、その後遺症などで、他の人とは少し違う人物が登場します。
このあたりは、多分著者の体験が生きているのでしょう。
通常こうしたことは本人もつらいけれど、周りの人々の反応も色々ありそうです。
けれど本作では、周りの人たちの気づきや、あるいは無意識であるにしても、
人との関わりの中でいつしかそうしたこだわりが溶けだしていく・・・
そう、通り抜けられないように思えても、きっとどこかに出口はある。
そんな物語の数々。
少し心が暖かくなります。


巻末の「この出口の無い、閉ざされた部屋で」は、
引きこもり中と思われる少年が登場しますが、途中から反転。
実はそうではなくて・・・という驚きの展開を見せます。
ここに登場する、主人公の友人ウサギノくんが、
その前の「座敷童と兎と亀と」に登場した
人の良いウサギノさんの息子さんだということに気づいて、嬉しくなってしまいます。
ホント、親子そろって世話好きなんだなあ・・・。
そして、ではあのときに息子さんにヒントをくれたのがこの彼だったのだな、
とわかります。
こんなちょっとした仕掛けのウレシイ加納朋子作品。
つくづく、無事復帰していただいてよかったです!!

「トオリヌケキンシ」加納朋子 文春文庫
満足度★★★★☆


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