映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

さあ帰ろう、ペダルをこいで

2013年07月26日 | 映画(さ行)
世界は広く、救いの手はすぐそこにある



* * * * * * * * * *

アレックスは幼少期に、
両親とともに共産党政権下のブルガリアからドイツへと亡命して来ました。
それから25年を経て、東欧諸国は民主化が進み、
行き来は自由になっています。
そんな歴史的背景が大きなバックボーンの一つ。


ということは、アレックスは30歳くらいということになりましょうか。
立派なオトナではありますが、結婚もまだ。
自活はしていますが、わびしい人生・・・という雰囲気。
そんな矢先、両親とともに車に乗っていた彼は事故に遭遇し、
両親は死亡。
そして本人は記憶を失ってしまいます。
彼らの故郷のブルガリアには祖父母が住み続けています。
事故のことを聴き、祖父のバイ・ダンがアレックスを迎えに来ました。
幼い頃には一緒に住んでいた祖父。
けれどアレックスにとっては、ただの見知らぬ老人。
生きる意欲も無くし病院に閉じこもりっきりのアレックスを
無理やり引っ張りだして、
バイ・ダンはタンデム自転車で孫と欧州横断、
ブルガリアの我が家を目指します。



今作はこの祖父、バイ・ダンの反骨精神と強くて大きな心がすべてといってもいい。
彼は抑圧された共産党政権下でも、
自らの考えを貫き通していたことが伺えます。
息子の一家が亡命した時には、それを知りながら見逃した罪で投獄までされているのですが、
そういう苦労を少しも感じさせません。
孫を連れて帰るのにも、列車ではなく自転車というのが又スゴイではありませんか。
じっくりと二人で心を通わせながら、
自分の力で故郷に帰ろうというのですね。


アレックスの父も又、共産党政権下で生きる道が閉ざされてしまい、
やむなく亡命に踏み切ったわけですが、
それも決して平坦な道ではなかったのです。
今作でも重要なポイントとなっていましたが、
イタリアにこのような難民を一時的に収容する施設があったのですね。
それがほとんど罪人を扱うようなひどい待遇で、
いつそこから出られるかもわからないという悲惨な状況だったのです。
こういう知られざる歴史の暗部を扱っているという面でも
一見の価値があります。


それから、バイ・ダンの愛するゲーム、バックギャモン。
これも本作では大きな位置を占めています。
特に、ラストの祖父と孫との対決は見ものですよ!!
私は、バックギャモンの事はよくわからないのですが、
双六(すごろく)盤とも呼ばれるそうで、
世界中で、かなり昔から親しまれているゲームなのだとか。
それで、ふと思い出したのです。
昨年のNHK大河ドラマ「平清盛」でよく、
「すごろく」のシーンがあって、清盛がサイコロを振っていたのですね。
私には「すごろく」は、
あの「振り出し」から、「上がり」までコマを進めていく遊びのイメージがあって、
清盛がやっているのは一体何なのか、わかっていなかった。
つまり、バックギャモンをやっていたのですね!!
いやはや、今頃になって疑問が一つ解けました。

歴史、ロードムービー、人生、家族、
どの切り口をとっても素晴らしい作品だと思います。
特マルのオススメです。

さあ帰ろう、ペダルをこいで [DVD]
ミキ・マイノロヴィッチ,カルロ・リューベック,フリスト・ムタフチェク,アナ・パパドプル
エスピーオー


「さあ帰ろう、ペダルをこいで」
2008年/ブルガリア・ドイツ・ハンガリー、スロベニア、セルビア/105分
監督:ステファン・コマンダレフ
原作:イリヤ・トロヤノフ
出演:ミキ・マノイロビッチ、カルロ・リューベック、フリスト・ムタフチェフ、アナ・パパドプル

歴史発掘度★★★★☆
祖父の生きる力★★★★★
満足度★★★★★


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