映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

この世界の片隅に

2016年11月29日 | 映画(か行)
日常と隣り合わせの戦争



* * * * * * * * * *

冒頭の方で、私のような世代には懐かしい「悲しくてやりきれない」の曲が、
柔らかなコトリンゴさんの歌声で流れます。
淡い色使いのアニメで表された昭和、
それも戦前の時代へ、私はスーッと引きこまれていきました。


広島で生まれ育ったすずは、いきなり縁談がまとまり、
18歳で呉の全く知らない男性のもとに嫁ぎます。
そんな彼女の幼いころのことが少し冒頭で紹介されます。
それは幼いころの彼女の記憶なので、
まるで夢のようにヘンテコで、ほんとうのできごとなのやらどうやら怪しい・・・。
けれども、後に彼女はその記憶に重なる人と出会うことになります。



すずが嫁いだのは昭和19年、太平洋戦争の最中ですね。
呉は日本海軍の拠点なので、空襲の標的となり、
毎日のように空襲警報が鳴り響きます。
物資は不足し、食料もなかなか手に入らない。
野草を工夫して料理したり、着物をモンペに作り変えたり、
当時の日常の生活が細かく描かれています。



働き者のすずは、早朝に起きて水をくんでくることなどは苦になりませんが、
この家で唯一の苦手は、義理の姉である径子。
離婚し、子連れで戻ってきているのです。
幸いお姑さんは優しい人なのですが、この小姑は手強い・・・!
それでも、なんとかやっていけたのは、この見知らぬ「夫」が、
意外に気持ちが優しく、すずを大切に思ってくれていたから。
こんな結婚は今では考えられないけれど・・・、それでも育つ愛はあるということです。
しかも、幼馴染の哲と、夫・周作とのできごとがあったりもして、
この手の作品では、期待もしていなかった男女の心の機微が表現されていたりもする、
全く油断のならない作品なのであります。

さてと、のんきにこんなことを書きましたが、そこはやはり「戦争」のさなかなのです。
ありふれてのどかな日常の中に、ポッカリと悪夢が口を開けている。
生と死が紙一重の経験を、すずはたどっていきます。



初めの方に昭和8年の広島、中島本町の様子が描かれていました。
ちょうど今の平和公園があるところ。
つまり爆心地近くで、すっかり「失われた街」なのです。
本作のために、当時を知る多くの人に聞き取りをして、町並みを再現したとのこと。
いま、原爆ドームとして知られる「広島県産業奨励館」の姿もあり、
失われた街の重みを感じるところです。



細やかに描かれる当時の人々の暮らしや、どこか懐かしい風景。
別に悲しいシーンでもないのに、自然に涙がこぼれていたのには
我ながら驚きました。
でもラストには、それ以上に泣かされることになるのですが・・・。
実に貴重な作品です。
どなたにも一度は見ていただきたいですね。



それと、すずの声をしている「のん」さん。
おっとりで少しぼーっとしているすずになんてピッタリの声と話し方! 
いいなあ・・・と感心しつつ見ていたのですが、
家に帰ってから調べて驚きました。
のん=能年玲奈さんだったんですね!!
(芸能情報に疎い私・・・)
いやほんと、今では他の人の声は考えられない。

「この世界の片隅に」
2016年/日本/126分
監督・脚本:片渕須直
原作:こうの史代
出演(声):のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月
時代再現度★★★★★
ぬくもり度★★★★★
満足度★★★★★
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