映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

百日紅 Miss HOKUSAI

2015年12月20日 | 映画(さ行)
私たちが思っていてよりも“自由”な江戸の町人たち



* * * * * * * * * *

漫画家であり、また江戸風俗研究家でもあった、
杉浦日向子さん作品のアニメ化作品。


浮世絵師葛飾北斎の娘・お栄は、父と同じく浮世絵師として暮らしています。
そんな彼女を取り巻く江戸の四季、盲目の妹・お猶、そして父北斎のことなどが描かれています。



最近読んだ杉浦日向子さんの「一日江戸人」の中で、
江戸時代、武士は様々な制約に苦しんでいたけれど、
町人は実に気ままで自由だったというようなことが書かれていました。
なるほど、本作中のお栄は、絵師として自立できていたためかもしれませんが、
実に自由な精神の持ち主。
それは、今だからこそそんな風に勝手な想像でそういう女性像が描けたのだ、
と思われるかもしれません。
でも、実はそれができた時代、それが江戸時代なのだという気もしてきました。



気が強くて口が悪い。
そんなお栄だけれど、彼女の描く「春画」は、すごくうまくてきれいだけれど、色気がない、などと言われてしまいます。
それというのも、実はまだ彼女が未経験だから。
それが悔しくて彼女はある店へ行きます。
また、彼女は密かに想いを寄せている人がいるのですが、
普段べらんめえ調で男性と話すことなどなんとも思わないのに、
その人の前では何も言えなくなってしまう。
そんな彼女のギャップがとても楽しい。



本作はまた、ちょっとした怪談と言っていいくらい、
「怪異」のシーンも多いのです。
お栄はある人に頼まれて地獄絵を描くのですが、
そのできがあまりに良すぎて、
その家の奥方が夜な夜な絵から抜け出た亡者に襲われ、病を得てしまう。
父、北斎はいいます。
「まだまだ未熟だな。こういう絵にはちゃんと仕上げをしなけりゃダメなんだ。」
と、絵にあるものを書き加えるのです。
ああ、なるほど・・・と思いますね。
科学などというもののなかったその昔。
世の中には怪異と日常が混然として当たり前にあったのだろうなあ・・・。



盲目の、まだ幼い妹・お猶のエピソードには泣かされます。
絵師というその「目」がすべてのような父の子が盲目というのもなんとも皮肉なのですが、
本作ではそのことに北斎が負い目を感じているように描かれています。
自分があまりにもものを見る「目」の力を持ちすぎたために
そんなことになってしまったのではないか・・・というような。
だからちょっぴり疎遠な父娘関係になってしまっているのですが、そんなところも切ない。
夜、真っ暗闇の部屋でお猶は、「蚊帳の上に何かいる」と訴えます。
お栄が調べてみるとそこには一匹のカマキリがいたのでした。
たった一匹のカマキリの息遣いまでをも感じ取ってしまう繊細な妹。
それは盲目である故ではありますが、
そうまで繊細だからこそ、長くは生きられないのか・・・。
せつなくて、辛い。
だからこそ、両国橋の雑踏の中で聞いた人々の息吹や、
船から身を乗り出して触れた川の水のこと・・・
つかの間の生が光ります。



そうそう、それから北斎の家に住み着いているワンちゃんが可愛くてステキ!
こんな風に、弟子の善次郎と全く同じしぐさのシーンは笑ってしまいます。
でもリアルな犬の動きなので・・・うまいなあ。


・・・ということで個人的にはすごく満足度の高いアニメでした。
声は豪華俳優陣が務めていまして、
その本人のイメージが浮かんでしまうのがやや難点ではあります。
でも杏さんのお栄、悪くはないです。

百日紅~Miss HOKUSAI~ [DVD]
杏,松重豊,濱田 岳,高良健吾,美保純
バンダイビジュアル


「百日紅 Miss HOKUSAI」
2015年/日本/90分
監督:原恵一
原作:杉浦日向子
出演(声):杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、美保純
江戸の風景★★★★★
満足度★★★★★
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