映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」江國香織

2018年05月26日 | 本(その他)

壊れてゆく母と、成長してゆく息子と

ヤモリ、カエル、シジミチョウ (朝日文庫)
江國香織
朝日新聞出版

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虫と話をする幼稚園児の拓人、
そんな弟を懸命に庇護しようとする姉、
ためらいなく恋人との時間を優先させる父、
その帰りを思い煩いながら待ちつづける母―。
危ういバランスにある家族にいて、拓人が両親と姉のほかにちかしさを覚えるのは、
ヤモリやカエルといった小さな生き物たち。
彼らは言葉を発さなくとも、拓人と意思の疎通ができる世界の住人だ。
近隣の自然とふれあいながら、ゆるやかに成長する拓人。
一方で、家族をはじめ、近くに住まう大人たちの生活は刻々と変化していく。
静かな、しかし決して穏やかではいられない日常を精緻な文章で描きながら、
小さな子どもが世界を感受する一瞬を、ふかい企みによって鮮やかに捉えた野心的長篇小説。

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さて、なんとも料理しにくい本、というべきでしょう。
ポイントとなるのは拓人。
両親と小学生の姉とともに暮らす幼稚園児。
言葉の発達が少し遅れている。
けれど彼の内面は豊かで、自然の中で生きる虫や小さな生き物たち、
ヤモリ、カエル、シジミチョウなどと心を通わすことができるのです。
というか、人が本当は持っていたその力をなくしていないというべきなのかも。
彼らと心を通わすためには言葉は必要ありません。
そんな彼も、人の社会で生きていくために、ほんの少しずつ人の世の成り立ちを見知り、
理解していく過程にあるようです。
本作はこの拓人の心中を表す部分がすべてひらがな表記になっているのですが、
その効果を理解はしますが、正直読みにくくてちょっとイライラしました・・・。


一見平和な家族のようで、実は崩壊寸前。
というのも、拓人の父親は外に恋人がいて、
それはほとんど妻にも明らかになっているのです。
ウソで塗り固めようとはしていない。
そして仕事だ出張だといいながら、幾日も家に戻らないことが多い。
というより戻ってくることのほうが稀。
しかし妻は離婚しようとは決して思わない。
じっと夫の帰りを待ち続け、帰ればつい刺々しい態度になってしまう。
まあ、それは当然のことなんですけどね。
この妻は、夫の恋人を呼び出したりまでするようになり、ほとんど狂気の淵のように感じられ、
私は非常に薄ら寒い思いをさせられました。
夫はこんな妻よりも、恋人といるほうがずっと自然な自分でいられて安らぎを感じるのですが、
それでいてやはり別れるつもりは全くなさそう。
子どもがこの2人をつなぎとめているのでしょうか・・・? 
あまりにも不健全なこの夫婦生活に暗澹とした気持ちになってしまいます。
そして、表面上は取り繕っていても、
このひび割れた夫婦間のことが子どもたちに影響しないはずがありません。
大人びてしっかりしているように見える姉、唯一弟を守ろうとしている姉もまた、
この不安定な家庭の中で常軌を逸していくようにも見受けられます。
この家では唯一、自然体で大人なのが拓人ということなのか・・・。


起承転結のないこの物語は、
なんだか私にはひどく後味が悪いものに思えました・・・。

図書館蔵書にて(単行本)
「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」江國香織 朝日新聞出版

満足度★★★☆☆



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