映画と本の『たんぽぽ館』

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「ヨイ豊」梶よう子

2017年04月04日 | 本(その他)
激動の時代、江戸の矜持を持ち続けた男

ヨイ豊
梶 よう子
講談社


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黒船来航から12年、江戸亀戸村で三代豊国の法要が営まれる。
広重、国芳と並んで「歌川の三羽烏」と呼ばれた大看板が亡くなったいま、
歌川を誰が率いるのか。
娘婿ながら慎重派の清太郎と、粗野だが才能あふれる八十八。
ひと回り歳が違う兄弟弟子の二人は、
尊王攘夷の波が押し寄せる不穏な江戸で、一門を、浮世絵を守り抜こうとする。


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浮世絵師、歌川一門の中の4代目歌川豊国の物語です。
作中では主に清太郎と記されていますが、2代目国貞でもある・・・。
ややこしいですが、まあそれにもいろいろな事情がありまして、
そこのところは読めば納得。
この、初代豊国というのがやはり、素晴らしかったのですね。
その弟子の中から、次の「豊国」を嗣ぐ技量が認められたものが
名前を受け継ぐわけです。
本巻では3代豊国の亡くなった後、誰が4代目となるのか、
というのが大きな柱となっています。
清太郎は3代の娘婿で、周りは彼が嗣ぐべきと思うものも多い。
けれども本人は、自信がないのです。
誰よりも浮世絵が好きで努力もしているとは思っている。
けれど同門の八十八(ヤソハチ)の明らかな才能のきらめきを見るにつけ、
自分は器ではないと思えてしまう。
八十八の絵を見て感じる感動、嬉しさとともに、
やはり抑えようのない悔しさ・・・そんな心情が綴られています。


さて、でも本作で私が面白く思ったのはこの時代背景なのです。
江戸末期から明治初期。
激動の時代なんですよ。
将軍のお膝元江戸に住む人々が、
いつの間にかこれまで見たこともない天子様を迎え、
仰がなくてはならなくなってしまった。
西洋から油絵の技術が入り込み、
日本古来の浮世絵なんて価値がない、西洋のもののほうが上、
というような認識が広まり始める。
これは実は、新政府に携わる長州藩などの出身の者たちが、
江戸の文化を代表する浮世絵を貶めようとしたから・・・
などという下りもあって、なるほど~と思ってしまいました。
いやそれにしても、
西洋の印刷技術に木版画はやっぱりあまりにも分が悪いですしね・・・。


江戸から東京へ、激変していく世の中で庶民はどのように生きていたのか、
そういうところがすごく興味深く読める一冊だったと思います。
そして、江戸の矜持を持ち続けた浮世絵師の心意気も良し。
つまりは亡びゆくものの美なのかもしれないけれど。


この時期に大量に海外に流出してしまった浮世絵・・・。
残念ですねえ・・・。


ところで題名の「ヨイ豊」の意味。
・・・まあ、これも実際に読んでもらったほうが良さそうです。
残念ながら「良い豊」ではありませんでした・・・。

「ヨイ豊」梶よう子 講談社
満足度★★★★☆
図書館蔵書にて


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