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「キアズマ」 近藤史恵

2016年09月23日 | 本(その他)
人と人との交差

キアズマ (新潮文庫)
近藤 史恵
新潮社


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ふとしたきっかけでメンバー不足の自転車部に入部した正樹。
たちまちロードレースの楽しさに目覚め、頭角を現す。
しかし、チームの勝利を意識しはじめ、エース櫻井と衝突、中学時代の辛い記憶が蘇る。
二度と誰かを傷つけるスポーツはしたくなかったのに
―走る喜びに突き動かされ、祈りをペダルにこめる。
自分のため、そして、助けられなかったアイツのために。
感動の青春長編。


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近藤史恵さんの自転車ロードレース、シリーズ第4弾。
とは言え、前の物を読んでいなくても続きの話ではないので、ぜんぜん大丈夫です。


本作はこれまでロードレースのことなど何も知らなかった正樹が、
ふとしたきっかけで自転車部に入部、というところから始まるので、
ロードレースについては丁寧な説明があり、正に初心者向きとなっています。
私も、このシリーズを読むまではロードレースのことなど何も知らなかったのですが、
非常に興味深く読めました。
そして今もよくわかっているとは言いがたいので、
久しぶりに読んだ本作、初心者向けの設定で助かりました。


正樹がロードレースに目覚め、そしてメキメキと力をつけていくさまが心地良いのですが、
でもそう単純な物語ではありません。
現自転車部のエース、櫻井は関西弁のヤンキーで喧嘩っ早いし、
正樹自身も過去のある事件で鬱屈を抱えています。
対人関係が苦手だと自覚する正樹が、
どんなふうに仲間との絆、そして旧友との絆を築いていくのか、
そういうところが見どころとなっています。


ほんの一箇所だけですが、本シリーズに以前登場した方が登場するのも、
ファンにとっては嬉しいところ。
多分、正樹は将来その方の誘いに乗りますね!
ついに最期まで、豊からのメールの文面は紹介されないままなのが、なんとも残念。
もちろん、それは正樹が思う通りのものだと思うのですが、
それにしても、知りたかった・・・。
近藤史恵さんのいじわる!


ところで、「キアズマ」とはギリシャ語で交差という意味。
何かと何かの出会いを表す言葉です。
私たちは生きているうちに様々な人と交差していくわけですが・・・。
正樹が交差する人々のためにどう変わっていくのか、ということなのでしょう。
そういえばはじめての正樹と櫻井の出会いも、バイクと自転車の実際的な接触、
つまり交差から始まったと言うのも象徴的です。


「キアズマ」近藤史恵 新潮文庫
満足度★★★★☆



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