映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

2012年02月23日 | 映画(ま行)
ものすごく過酷な経験をして、ありえないほど少年は成長する



                          * * * * * * * * * *

なかなかユニークな題名のこの作品。
原題は“Extremely Loud and Incredibly Close”ということで、
ジョナサン・サフラン・フォアの原作そのまま直訳。
忘れられない衝撃的な貿易センタービル崩壊の映像は、
いつかきっと映画のストーリーの中に登場すると思っていましたが、
やはり来ました。


9.11テロで最愛の父をなくした少年オスカー。
彼は父のクロゼットの中で、一つの鍵を見つけます。
父親が残したメッセージを探るために、
オスカーはその鍵と関係があると思われる
“ブラック”と言う名前の人を訪ね歩く冒険を始めるのですが・・・。

あの9月11日から、オスカーの世界は激変してしまいました。
大好きな父親は亡く、母親とふたりきりの生活。
事件のあと父の遺骸は見つからず、葬儀の時にも棺の中はカラだったのです。
そのためか、オスカーは父の死を受け入れられない。



先日見た「永遠の僕達」でも、少年イーノックは事故で両親を亡くすのですが、
彼自身もその事故で昏睡状態となり、両親の葬儀を体験していない。
それなので、彼は両親の死を受け入れられないでいたのでした。
そうそう、「柳沢教授」のコミックの中でも、
少年時代の柳沢教授が、お母さんが亡くなったときに
お父さんに「お母さんと話をするように」と言われるのでした。
柳沢少年はあまりにも気丈で大人びて、葬儀の手伝いをしようなどとするので、
「死」をきちんと正面から受け入れていないと、お父さんは思ったのでしょうね。

こうしてみると、お葬式というのは単に宗教上の習慣なのではなくて、
「死」というものに向き合い、納得するためにあるのだとわかってきますね。
それは死者のためにあるのではなくて、生きている者たちのためにある。
亡骸にきちんと向き合って納得し、
そのことを受け入れていくことが、私達には必要なのでしょう。



さて、オスカー少年は、その「死」を受け入れる大切なプロセスが得られなかったために、
大変な遠回りをしなければなりません。
しかし、それはより大きな再生のために必要なことでした。
実は、少年のもつ苦悩はもっと大きなものだったことが最後にわかるのですが。
子供が主人公の作品は、普通は明るく無邪気、元気、夢があって、無欲で汚れがない
・・・そういう方向性を想像してしまうのですが、
オスカーはもっと複雑です。
父親の期待に添える部分、添えない部分があって、
大好きではあるけれど、頑として立ちはだかっている壁でもあった。
父と息子の相克と絆。
まさにハリウッド的テーマです。

オスカーは9.11後、事故を思い出させるようなものが怖くなってしまっています。
高層ビル群、地下鉄、街の騒音、鉄骨の橋・・・。
また、見知らぬ人と話をするのも苦手。
その彼が、すべての苦手と相反する冒険に出ようとする所がすごいですよね。
それはやはり少年の持つ自らの成長力なのかもしれません。
どんなに怖くても、本当に自分がすべきことを知っている。
そして、最後に私たちの心を感動に震わすのは、
密かにオスカーを見守るたくさんの人々の愛なのです。
自分の力で立とうとすることは必要。
けれど実は多くの人に支えられてそれができるのだと気づくことももっと大切。
そういうことなのだと思います。



オスカー少年の例えようもなく苦しく混乱した胸のうちに、
ようやく平安と希望が蘇りました。
つまりは、9.11テロで亡くなった方々の遺族だけでなく、
アメリカの人々皆が心に負った傷が、
ようやく癒えてきたのでしょうね。
私たち日本人もまた、昨年の3.11で大きく心は混乱し痛んだわけですが、
でも、その傷が癒えるまでにはまだしばらくかかりそうです。


言葉を失った老人とオスカーのコンビがなかなか良かったですね。
暗くなりがちなこの作品の中で、
なんだかぽっと温かなものが流れるこの二人のシーンでした。


「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」
監督:スティーブン・ダルドリー
原作:ジョナサン・サフラン・フォア
出演:トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トー、マス・ホーン、マックス・フォン・シドー、ビオラ・デイビス
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