映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「彼女に関する十二章」中島京子

2018年01月19日 | 本(その他)
今日と明日は違う一日

彼女に関する十二章
中島 京子
中央公論新社


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「50歳になっても、人生はいちいち驚くことばっかり」

息子は巣立ち、夫と二人の暮らしに戻った主婦の聖子が、
ふとしたことで読み始めた60年前の「女性論」。
一見古めかしい昭和の文士の随筆と、
聖子の日々の出来事は不思議と響き合って……

どうしたって違う、これまでとこれから――
更年期世代の感慨と、思いがけない新たな出会い。
上質のユーモアが心地よい、ミドルエイジ応援小説

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本作は1954年に出された伊藤整「女性に関する十二章」という本が下敷きになっています。
60年以上前のこの本の「女性論」を、50歳主婦の聖子が読んでいくのですが、
不思議と身の回りに起こることとその本の内容が符合していく。
そもそも60年前の女性論など、多分に古めかしい男尊女卑感が溢れていそうに思えたのですが、
これがなかなか、よく読んでいくと現在でも十分通じるところもあるのです。
特に、「日本的情緒」の論。
ここでは、「自己犠牲を称揚する」日本的情緒のことです。
夫を敬え、親を敬え、国家を敬え、
自分のことは犠牲にして敬えと言う考え方。
これを突き詰めたのが、太平洋戦争を支えた精神構造である、と。
伊藤整氏は、これを突き詰めてはマズい、と言っているのです。
1954年といえばまだ戦争の傷跡も生々しい時。
だからこそ伊藤整氏はこれを特に言いたかった。
・・・今またこういうことが「美徳」などとされる向きもあって、
私たちは本当に、心してかからなければなりませんね。


さて、本作はこんなややこしい問題が中心なのではなくて、
50歳を迎えた聖子さんにもまた、人生の大きな展開があって、
その出来事が色々と興味深いのです。

・ずっと彼女もいなくて、ゲイなのではないかと心配までした息子が、
ある日突然彼女を連れて帰ってきた。
しかし、なんだかモッサリとして無愛想な女の子で・・・。

・子供の頃憧れていた人の訃報を聞き愕然とする聖子。
その彼の息子と会うことになったのだけれど、
イケメンの息子は父親の5人の妻のことを語る・・・。

・経理の仕事を手伝いに行った先で、不思議な男性と出会う。
「お金を使うことを拒否している」という彼を初めは怪しんだけれど、
次第に親しく話をするようになって・・・。


今日と明日は違う一日で、それぞれ新しいことを体験する、
それを知るだけでも(生きる)意味はある・・・
そのような気づきに向かう聖子の紆余曲折。
楽しい物語でした。


すごく気に入ったカ所。
オンボロ自転車で、二人乗りする寸前の聖子の心の叫び。

これに二人乗りするというのか。
まじか。
『耳をすませば』の雫と天沢とか、『海街diary』のすずと風太みたいにか。


思わず笑っちゃいました。

図書館蔵書にて(単行本)
「彼女に関する十二章」中島京子 中央公論新社
満足度★★★★★


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