映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「オール・クリア 1・2」コニー・ウィリス

2017年08月04日 | 本(SF・ファンタジー)
タイム・トラベルの金字塔

オール・クリア1
コニー ウィリス,大森 望
早川書房


オール・クリア2 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
松尾たいこ,渡邉民人(TYPEFACE)〔カバーデザイン〕,大森 望
早川書房


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「オール・クリア1」
2060年から、第二次大戦下のイギリスでの現地調査に送りだされた、
オックスフォード大学の史学生三人―
アメリカ人記者に扮してドーヴァーをめざしたマイク、
ロンドンのデパートの売り子となったポリー、
郊外にある領主館でメイドをしていたアイリーンことメロピーは、
それぞれが未来に帰還するための降下点が使えなくなっていた。
このままでは、過去に足止めされてしまう。
ロンドンで再会した三人は、別の降下点を使うべく、
同時代にいるはずの史学生ジェラルドを捜し出そうとするが…
前作『ブラックアウト』とともに
ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞したウィリスの大作。

「オール・クリア2」
第二次大戦下のイギリスで現地調査をするため、
過去へとタイムトラベルしたオックスフォード大学の史学生三人―
マイク、ポリー、メロピーは、未来に帰還するための降下点が使えないことを知り、
べつの降下点を探そうとしていた。
だが、新たな問題も発覚した。
ポリーがすでに過去に来ていたため、
その時点までに未来に帰還できないとたいへんなことになる。
史学生が危機に陥ったときには救出しにくるはずのダンワージー教授、
万一のときは助けにいくとポリーに約束したコリンは、
はたしてやってくるのか…
前作とともにヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した二部作、ついに完結。


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さて、さっそく「ブラックアウト」の続き・・・。
しかし、「ブラックアウト」でも相当ドキドキさせられましたが、
こちらを読むとそれはまだほんの序章に過ぎなかったということがわかります。


未来に帰還するための降下点が使えない。
すなわち元の時代へ戻ることができないというのは大変なことではありますが、
それだけではなく、この時間旅行には「デッドライン」というものがあるのです。
同じ人物が同時に同じ時間に存在することができない。
まあ、当然かもしれません。
自分自身がハチ合わせ、なんてことになっては困ります。
マイクとポリーは以前にも今回と近い時期に「降下」したことがあり、
もし、このまま帰還できないとするとその時期と重なる、
つまりデッドラインに達してしまうのです。
つまりそれは生命の危機を意味するのです。
おまけに、彼らを救おうとやってきたダンワージー教授も
帰還できなくなってしまい、
教授自身のデッドラインもすぐ目前に迫っているのです。


そして本作の一番のテーマは、
史学生たちは"歴史"の中で排除されるべき余計なピースなのか、
それとも、あるべき形を作り出すためにピタリとハマる必要なピースなのか
・・・ということ。
歴史を変えてしまう危険因子か、
それとも彼らの存在や行動こそが正しい歴史を導くために必要なものだったのか、
ということですね。
これぞ時間旅行においての永遠のテーマです。
ここをガッチリと踏まえつつ、
なんと豊かにこの時代が描き出されていることか。
メロピー(アイリーン)はかねてより、
VEデー(ヨーロッパ戦勝記念日)のトラファルガー広場の喧騒を
この目で見たいと思っていました。
だから予定では今回の降下の次にそちらへ行くつもりだったのです。
けれど彼女はその時に思います。
実際に空襲に怯え、物資の不足に悩み、親しい人を亡くした人々こそが
戦争の集結に本当に喜ぶことができる、と。
私たちもストーリーの中で数々の悲惨なできごとに触れて、
この思いの重みを噛みしめることになります。


さてさて、この本のラスト付近、
私は泣けて泣けて仕方ありませんでした。
ただでさえ歳のせいで細かい字は読みにくいのですが、
涙で滲んで余計読みにくい・・・。
思いもよらないアイリーンの決断。
マイクのこと・・・。
小出しにシャッフルしながらいろいろな"時"を描写していくのも心憎いですね。


そして本作の副主人公とも言えるのが、ビニーとアルフの姉弟。
手のつけようもない悪ガキ2人ですが、
史学生たちとどのように関わっていくのか、
そして彼らがどのように成長していくのか。
楽しみどころ満載。


「ダンケルク」はまもなく映画作品も公開になります。
「アラン・チューリング」についても映画で知った。
英国王の、吃音混じりのラジオ放送があったり、
アガサ・クリスティーも登場。
英国のことをさほど知らない私でもワクワクする「歴史」との接点。
そりゃーもう、文句なく面白い!!

「オール・クリア1・2」コニー・ウィリス 新☆ハヤカワSFシリーズ
満足度★★★★★★(!)
図書館蔵書にて