映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

レッドタートル ある島の物語

2016年09月27日 | 映画(ら行)
人と、命あるすべてのものに向けて



* * * * * * * * * *

スタジオジブリが制作した、初の海外作家のアニメ。
高畑勲氏がアーティスチックプロデューサーを務めています。



嵐で荒れ狂う海に放り出された男が、無人島に漂着。
彼は島の木を利用して筏を作り、島からの脱出を試みるのですが、
何度やっても何者かに筏を破壊されてしまいます。
そんな時、一匹の赤いウミガメが彼の前に現れます。



始めはこの男の無人島サバイバルの物語かと思いました。
けれども、そうではありません。
一種幻想的とも思える展開を見せます。
本作中には言葉がありません。
思わず男が漏らす感嘆の声や叫びがあるだけ。
他には説明もなし。
だからこの物語は見る人によっていろいろな意味が見いだせるのではないかと思います。



このポスターには
「どこから来たのか、どこへ行くのか、いのちは?」
とありますね。
つながっていく命の物語? 
もちろん大きな意味では、そうなのかもしれません。
でも、私にはこれは男と女の人生の物語のように思えました。
結婚という名の物語。



女が「結婚」に踏み切るための“痛み”がそこにはあるような。
まあ、今となっては古い概念かもしれないけれど、
結婚して男のものになる、本来の自分とは違うものになる、という意味で。
けれど、それは決して不幸なことではないのです。
夫とともに生き、子を生み育てることには確かな充足もある。


またそんな中では、平和な営みを破壊する思いもよらないことがあったりもするのです。
そして成長した子どもは、いつしかこの平和な島では飽き足らなくなり、
外の世界へ旅立っていく。


この地球上で、連綿と繰り返されてきたことですね。
人間に限らず、すべての生物が。
壮大な叙事詩のようでもあります。


無人島という余計な要素のない限定された舞台で、
シンプルにそれを歌い上げていると思います。


彼らの生活に寄り添うカニさんたちがユーモラスで可愛らしいのですが、
そのカニですらも、思いがけないことで命を落としていく。
登場するカニの数が一匹ずつ減っていくのがちょっぴり切ない。



余韻の深い、まさに大人のアニメです。


「レッドタートル ある島の物語」
2016年/日本・フランス/81分
監督・原作・脚本:マイケル・デュドク・ドゥ・ビット

静謐さ★★★★☆
満足度★★★★☆