映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「小説を、映画を、鉄道が走る」 川本三郎

2014年11月05日 | 本(エッセイ)
日本近代の歴史をたどる旅

小説を、映画を、鉄道が走る (集英社文庫)
川本 三郎
集英社


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物語はいつも鉄道が運んできた―。
松本清張の『点と線』、
水上勉の『飢餓海峡』、
小津安二郎の『東京物語』など、
日本の小説史、映画史に燦然と輝く作品の中で、度々描かれてきた鉄道のある風景。
あの場面には一体どんなドラマが潜んでいたのか。
鉄道が発達した日本の情勢や時代背景をもとに、
著者が登場人物の心情を紐解いてゆく。
旅と物語が出会う至福のエッセイ集。
第37回交通図書賞受賞作。


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文芸・映画評論家、川本三郎氏は
大の鉄道好きとしても有名です。
以前にもこのブログでご紹介したことがあるはず。
それなので、この本を書店で目にした時も、迷いなく「買い!」でした。


著者がこれまでに読んだり観たりした
本や映画の中に出てくる「鉄道」を紹介しています。
あとがきにもありますが、著者はいわゆる「鉄ちゃん」と呼ばれる「鉄道マニア」ではなく、
とにかく鉄道の旅が無性に好きなのだといいます。
つまりは「乗り鉄」というやつ。
車窓の風景、駅の佇まい、それらが語りかけてくる歴史や人々の営み。
確かに、車のドライブでは味わえないものがたくさんありますよね。
それにしてもさすがにプロ。
ともかく読んでいる本や見ている映画の種類や数が半端ではない。
本作に取り上げられている作品の著者は、
松本清張、鮎川哲也、林芙美子、宮本輝、水上勉・・・
まあ、このへんは納得ですよね。
でも私でもすごく馴染みのある
奥田英朗、島田荘司、有栖川有栖に恩田陸まで取り上げられているのが嬉しい。
そしてまた、とどのつまりが吉田秋生「海街diary」。
これにはもう感涙です。
そうか、川本三郎氏も「海街diary」を読むのか
・・・と嬉しくなってしまいました。


古い映画に、今となっては非常にレアな昔の列車や
今はとうにない路線、駅が映っていたりするそうで、
そういう楽しみ方もあるのですね。
著者は本や映画に出てきた路線や駅は気になって
どうしても自分で見たくて旅することも多いようです。


本作は鉄道による観光めぐりというより、
むしろ日本の歴史を語っています。
明治に初めて鉄道が敷かれた時のことから
数々の戦争を経て昭和20年の終戦。
石炭産業の発展で多くの鉄道が施設され高度経済成長。
東京への一極集中化が進む。
地方は過疎化し、今度は次々に地方の路線が廃線となっていく。
今残っている路線でも、その駅前がすっかり寂れているところがほとんど。
戦争のこと、集団就職のこと・・・。
鉄道の歴史はまた人々の暮らしの歴史でもあるわけです。
こういうことが語られているので、
非常に読み応えがある素敵な本です。


「小説を、映画を、鉄道が走る」川本三郎 集英社文庫
満足度★★★★★