映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「朝日のようにさわやかに」 恩田陸

2011年01月13日 | 本(SF・ファンタジー)
暗くひんやりとした色調で・・・

朝日のようにさわやかに (新潮文庫)
恩田 陸
新潮社


           * * * * * * * *

恩田陸さんの短編集。
しかしこの本は、先日読んだ「いのちのパレード」よりも、しっとり沈んだ雰囲気があります。

冒頭の「水晶の夜、翡翠の朝」は、
「麦の海に沈む果実」、「黄昏の百合の骨」の水野理瀬シリーズ番外編。
久しぶりに、あのひんやりした雰囲気、思い出しました。


「あなたと夜と音楽と」は、ラジオの放送スタジオのトークでストーリーが進みます。これは、ミステリ。
番組のパーソナリティの男女が、生放送でトークを繰り広げるのですが、
近頃近所の公園で起こった殺人事件の話にふれます。
また、この放送のある日に必ず放送局前におかしなものが置いてある。
この二人が少しずつこの謎を解き明かそうとするのですが・・・。
犯人が解りかけてきたかと見えたところでまた反転。
本格ミステリの味わいの楽しめる一作。


「赤い毬」
幻想的な物語です。
語り手が子供の頃、体験した(と思っている)不思議な話。
母の実家、田舎の旧家で少女は赤い毬が転がるのを見て、
縁側から庭におり、毬を追いかける。
熊笹の道をかき分け石畳の道を進んで行くと、奇妙な建物がある。
石の庭を抜けさらに進んでいくと、
そこには赤い着物を着た少女がいて、二人で鞠つきをした。
突然どこかでサイレンが鳴り始め、
はっと我に返った少女は鞠を持って立ち去ろうとすると、着物の少女は言う。
「今はまだあなたの番じゃないの」
いつか来る「あなたの番」とはいつなのか。
鞠をつくことは何を意味するのか。
謎は謎のまま終わる不思議な余韻の残る作品。


「深夜の食欲」
これは怖いです。
深夜、ホテルの廊下をボーイが食事をのせたワゴンを押して行く。
これがなにやら病院の廊下のように陰気な雰囲気で、
やたらに長くて、まるで夢の中を歩むように果てしなく思われる。
突如ぴしっ、ぴしっと言う鋭い音が響く。
床を見ると何か白いものが散っている。
小さな半月状のモノがぱらぱらと落ちていた。
切った爪だ・・・。
うう・・・気持ち悪いですね。
そしてさらに行くと今度は抜け落ちた歯が・・・。
かつて人間の身体についていたものが、身体を離れると、おぞましいものに変貌する。
髪の毛も、恋人の頭についていればとても愛しいのに、
離れてしまうとあんなに嫌なモノはない、と著者はいう。
全くその通りです。
身体を離れたそれは、つまりは死体の一部だからなのかも・・・。


「楽園を追われて」
葬式帰りの中年男女4人が、居酒屋で話をしている。
彼らは高校時代の文芸部のメンバーで、その日は同じ部員だった一人の葬儀。
彼は4人あてに彼の小説原稿を遺していた。
記憶をたどりながら話をする内に、
意識の奥底に眠っていた謎めいた記憶までもが呼び覚まされ・・・。
こういった手法は恩田陸さんによくありますね。
事実は事実として何も変わらないけれども、その意味が変わっていく。
心の奥底を旅するような感覚。


このように、バラエティに富みながらも、
全体的には暗くひんやりとした色調となっています。
これに引き替え、先に挙げた「いのちのパレード」はファンキーなものもあり、
以前「宝石箱」と、たとえた記憶がありますが、
今作をよむと、さらに「おもちゃ箱」と言いたくなりました。
個人的には「いのちの・・・」の方が好きですが、
まあ、これは好みでいろいろありましょう。

満足度★★★☆☆