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「モノレールねこ」 加納朋子

2009年06月28日 | 本(その他)
モノレールねこ (文春文庫)
加納 朋子
文藝春秋

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加納朋子さんが続いていますが、
これはこの間の「駒子シリーズ」とは別の短篇集です。

この本はもうミステリではありません。
帯に曰く
「ふとしたときに気づかされる大切な人との絆。
 日常のありふれた風景に、心動かされる珠玉の8篇。」


表題の「モノレールねこ」
小学生サトルは、ねこの首輪に挟んだ手紙で、「タカキ」と文通をします。
モノレールねこというのは、
野良ねこのくせに、妙にみっともなく太ったねこ。
塀の上に座って、両脇から垂れた脂肪でがっちり塀をつかんでいる姿は、
まさに「モノレール」。
このねこは律儀にサトルの家とタカキの家を交互に訪れているらしい。
文通で友情を育んでいく二人なのですが、
ある日、モノレールねこは交通事故にあって死んでしまいます。
相手のフルネームもわからないまま、突然終わってしまった二人の文通。
さて、それから十数年の後・・・。
サトルとタカキの文通が楽しいのです。
テンポよく話が進んで、意外なネコの死。
・・・そうして成長した彼らの意外な出会い。
切なくて、そしてまた、うれしい物語でした。


この文庫の解説で、吉田伸子氏が言っています。
この本に収められた8編には
「物語に登場する人物たちが"誰か"を、あるいは"何か"を喪失する」
という共通点がある・・・と。
だからどの作品もちょっぴり切ないのです。

ある日突然父母祖父母を亡くしてしまった「マイ・フーリッシュ・アンクル」。
5歳の娘を亡くした「セイムタイム・ネクストイヤー」。
これなどはもう、ほとんどカジシンかという雰囲気です。


そして、ラスト「バルタン最後の日」には驚かされますよ。
なんと、語り手はザリガニ。
池から釣り上げられて、
ある一家に飼われることになったザリガニがその家族を観察。
一見平和な一家なのですが、実はちょっと困った問題が・・・。
でも、お母さんが何とか乗り越えようと奮闘しています。
ほのぼのしていた話が、次第にザリガニの愛と勇気のお話になるんですよ。
泣けます。
・・・変だけど、泣けます。


なにやらほんのりとユーモアが漂い、
切ない題材ながらも、心が温まる感じがする。
素敵な作品群です。

加納さんはミステリでないほうが持ち味を発揮できるのではないでしょうか。

満足度★★★★★