MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ブルーに生まれついて』

2017-01-22 00:04:20 | goo映画レビュー

原題:『Born to Be Blue』
監督:ロバート・バドロー
脚本:ロバート・バドロー
撮影:スティーヴ・コーセンス
出演:イーサン・ホーク/カーメン・エジョーゴ/カラム・キース・レニー/ダン・レット
2015年/アメリカ・カナダ・イギリス

「陰鬱に生まれた」男の人生について

 冒頭は何故かチェット・ベイカーは1966年のイタリアに滞在しており、道端に倒れていたところを警察に保護されている。そこにハリウッドの映画監督が訪れ、ベイカーをロサンゼルスに連れて帰るとベイカー自身に本人役をやらせて1954年頃の人気チャート1位で絶好調だったベイカーの半自伝的作品を撮るのだが、完成前に麻薬に絡んだいざこざで3人の暴漢に襲われ瀕死の重傷を負い、映画製作が中止になってしまう。しかし映画製作の部分はフィクションで、前歯を折られながらも痛みに耐えながら地道に練習を積みドラッグを断ち切り復活するまでがエレインという架空の女優志願の女性を通じて描かれることになる。
 ベイカーのリハビリの過程は見せるものがあるものの、ラストのオチに納得しかねる。ベイカーが漸く復帰を賭けたワンナイトライブの開催にこぎつけ、マイルス・デイヴィスやディジー・ガレスピーらが見守る中、出番に備えているのだが、よりによってベイカーはヘロイン中毒者が治療薬として使うメタドンを2日間飲んでいなかった。リチャード・ボックに渡されたメタドンとヘロインを机の上に並べて思案しているところにエレインがライブにやって来る。ステージに現われたベイカーが最初に演奏した曲は「I've Never Been In Love Before」だった。以下、和訳してみる。

「I've Never Been In Love Before」 Ethan Hawke 日本語訳

僕はこんなに人を愛したことはなかった
いきなり今君が現われ、今後永久に君だけなんだ
僕はこんなに人を愛したことはなかった
僕の心は危なげないと思っていたし
僕は心の内情を知っていると思っていたけれど
余りにも不慣れで強烈なワインで
僕は愚かな曲に取り巻かれているから
僕の歌があふれ出るに違いない
だからどうかこの救いようのない靄の中にいる僕を赦して欲しい
僕はこんなに人を愛したことはなかったんだ

 この曲を聴いたエレインはベイカーがヘロインに手を出したことを察してベイカーからもらった指輪をボックに託してライブハウスから出て行ってしまうのだが、エレインがこの曲を聴いただけで「赦せなくなった」ことが現実的には考えにくいのである。しかしこうして和訳してみて「ワイン(wine)」を「酔わせるもの」と解釈してヘロインの暗示であるならば、分からないこともない。


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