一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『とらわれて夏』……ケイト・ウィンスレットが魅力的な大人のための秀作……

2014年05月23日 | 映画
以前、このブログで、
映画『王になった男』のレビューを書いたとき、
イ・ビョンホン主演の『夏物語』という作品に触れた際、
私は次のように述べている。

「夏」という言葉が好きで、
ていうか「夏」のイメージが好きで、
昔からタイトルに「夏」のついた小説や映画を好んで読んだり見たりしている。
映画で言えば、
『おもいでの夏』『チクソルの夏』『解夏』『菊次郎の夏』『姑獲鳥の夏』『夏の嵐』『あの夏、いちばん、静かな海。』など、個性的かつ魅力的な作品が多い。


だから『とらわれて夏』というタイトルを見たとき、
すぐに見てみたいと思った。

原題は『Labor Day』で、
2009年にジョイス・メイナードがアメリカで発表した教養小説である。
ちなみに、レイバー・デイとは、「労働者の日」の意で、
アメリカでは9月の第一月曜日と定められ、祝日となっている。
多くのアメリカ人にとって、レイバー・デイは、
伝統的に、夏の終わりを象徴するものであるらしい。
そう、この物語は、
1987年の晩夏、
レイバー・デイを挟んだ前後5日間のお話なのである。


アメリカ東部の静かな町。
9月初めのレイバー・デイを週末にひかえたある日、
心に傷を負ったシングルマザーのアデル(ケイト・ウィンスレット)と、
その息子である13歳のヘンリー(ガトリン・グリフィス)は、
買い物に出かけたスーパーで、
脱獄犯のフランク(ジョシュ・ブローリン)と出くわしてしまう。


脅されるまま自宅までフランクを車に乗せて帰ると、


フランクは、「けっして危害は加えないので、夜まで匿ってほしい」と懇願する。


家や車を修理し、料理を作り、ヘンリーには野球を教えるフランクに、
次第に安らぎを覚え、魅了させられていくアデル。


濃密な時間を共有するうちに、
ついに3人はある決断を下す……


とても質の良いラブストーリーであった。
近頃珍しい大人の鑑賞に堪えうる作品であった。
いろんな要素がある作品で、
『マディソン郡の橋』(1995年)や、
『シェーン』(1953年)や、
『シェーン』に着想を得て制作された山田洋次監督作品『遥かなる山の呼び声』(1980年)などを思い浮かべる人も多いことだろう。
とくにラストが秀逸で、
後味の良い作品となっている。


主演は、ケイト・ウィンスレット。
私の好きな女優である。
2009年に映画『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』を見たとき、
私は、このブログに次のように記している。
(以下、記述は2009年当時のままである)

ケイト・ウィンスレットとレオナルド・ディカプリオが共演した『タイタニック』を見たのは、もう11年も昔になる。
私と妻と2人の娘(当時・中学1年生と小学6年生)、それに、もうすぐ転校するという長女のクラスメイトも一緒に、5人で見に行った。
3時間を超える作品であったが、時間を感じさせないほど面白く、大いに楽しんだことを憶えている。
当時はレオナルド・ディカプリオの人気絶頂の頃で、無名に近かったケイト・ウィンスレットには、ディカプリオ・ファンからの嫉妬もあってか、必ずしも評判は良くなく、厳しい批評も目についた。
だが、私には、ケイト・ウィンスレットの方が、レオナルド・ディカプリオよりも強く印象に残った。
ディカプリオ・ファンから揶揄されたりした、ふくよかな肉体。
目鼻立ちのはっきりした顔。
確かな演技。
存在感が飛び抜けていた。
私はファンになり、その後も、上映時間が4時間超の大作『ハムレット』を福岡まで見に行ったりした。
あれから11年。
ケイト・ウィンスレットとレオナルド・ディカプリオが再び共演したのが、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』である。
(中略)
壊れていくエイプリルを演じるケイト・ウィンスレットは、この作品で、様々な表情を見せる。
孤独、歓喜、空虚、絶望……そして、なによりも官能。
この映画の中のケイト・ウィンスレットは、実に魅力的だ。
御存知の方も多いと思うが、監督のサム・メンデスは、ケイト・ウィンスレットの夫である。
共演者のレオナルド・ディカプリオを夫に推薦したのもケイト・ウィンスレット。
映画を見ての実感であるが、この作品は、
「ケイト・ウィンスレットによる、ケイト・ウィンスレットのための、ケイト・ウィンスレットの映画」であった。
それは、けっして悪い意味で言っているのではない。
それだけケイト・ウィンスレットが素晴らしい女優になったということだ。

(全文を読みたい方はコチラから)

同じ年(2009年)の6月に、
ケイト・ウィンスレット主演の『愛を読むひと』(←クリック)を見た。
原作の『朗読者』(ベルンハルト・シュリンク著)を愛読していた私は、
この『愛を読むひと』にも感動した。
アカデミー賞の前哨戦と言われている第66回ゴールデングローブ賞では、
主演女優賞『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』
助演女優賞『愛を読むひと』
の両方を受賞した。
そしてアカデミー賞の方でも、『愛を読むひと』で主演女優賞に輝いた。

『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』
『愛を読むひと』
『とらわれて夏』
の3作におけるケイト・ウィンスレットは、特に素晴らしいと思う。
共通しているのは、少し精神を病んだ女性を演じていること。
こういう役をやらせたらすごく巧い。
本作『とらわれて夏』でも、
その繊細な演技に、
映画を見た者はきっと魅了されることだろう。
『とらわれて夏』はケイト・ウィンスレットを主役にすえた時点で、
もう半分以上成功していたと言えるかもしれない。
それほど、彼女の存在感は抜群であった。


この映画の、もうひとつの優れている点は、
息子である13歳のヘンリー(ガトリン・グリフィス)の視点で描いていること。
純粋にラブストーリーを描くならば、
当事者の男女どちらかの視点で描くのが普通で、
子供はストーリー上は邪魔な存在になりやすい。
だが、本作は、息子の視点で描くことにより、
より物語を深みのあるものにしている。
それは、ラストシーンに最も活かされている。
なぜ息子の視点で描いてきたのか納得させられる。


最後に、
脱獄犯のフランクを演じたジョシュ・ブローリンにもふれておこう。


俳優のジェームズ・ブローリンを父に持ち、
1985年の大ヒット作『グーニーズ』で主人公の兄を演じ映画デビュー。
2007年に『プラネット・テラー in グラインドハウス』『アメリカン・ギャングスター』『ノーカントリー』と話題作に立て続けに出演し注目を集めた。
『ミルク』(2008)でアカデミー助演男優賞に初ノミネート。
昨年(2013年)制作された『オールド・ボーイ』が、
今年(2014年)6月28日公開予定。


不可抗力に近い形で殺人犯となってしまったが、
人生を生き直そうとする脱獄犯を、実に巧く演じていた。
心に傷を負った女性とその息子を、
男の強さと逞しさで優しく包み込む。
その存在感は抜群で、多くの女性は魅了されることだろう。


ことに、ピーチパイを作るシーンは秀逸。
(男も料理ができないといけない)




この映画を見ると、きっとピーチパイが食べたくなるに違いない。


大人のための感動作。
上映館はそれほど多くないが、機会があったら、ぜひぜひ。
(佐賀県での上映予定なし。私はTOHOシネマズ天神で鑑賞)
TOHOシネマズ天神 5月1日~5月31日迄。
TOHOシネマズ長崎 6月28日~7月11日迄。
TOHOシネマズ光の森(熊本県) 6月28日~7月11日迄。
TOHOシネマズ大分わさだ 6月28日~7月11日迄。
天文館シネマパラダイス(鹿児島) 6月14日~6月27日迄。
シネマパレット(沖縄) 5月1日~5月31日迄。


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