一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『少女』 ……本田翼と山本美月が紡ぎ出す、文学的少女の危うき世界……

2016年10月14日 | 映画


原作である湊かなえの小説は読んでいなかった。
で、予告編を見てみた。


パンフレットには、
「人が死ぬ瞬間の気持ちを10文字以内で答えなさい」
「いま、禁断の湊かなえワールドの扉が、新たに開かれる――」
などの文字が躍っていた。
予告編やパンフレットを見て、
昔に見た映画『小さな悪の華』(1970年)を思い出した。


『小さな悪の華』は、日本では1972年3月に公開され、
公開時のコピーは、
「地獄でも、天国でもいい、未知の世界が見たいの! 悪の楽しさにしびれ 罪を生きがいにし 15才の少女ふたりは 身体に火をつけた」


15歳の少女、黒髪のアンヌとブロンドのロールが主人公で、


寄宿学校に通う二人は、バカンスを利用し、
盗みや放火、また牧童を誘惑したり、庭番の小鳥を殺害したり、悪魔崇拝儀式を取り行うなどの残酷な行為を繰り返していく。
やがて二人の行為はエスカレートし、死の危険を孕んだ破滅的な終局へ向かう。
1970年にフランスで公開されるやいなや、
その反宗教的で淫靡な内容からフランス本国を初めとする各国で上映禁止となり、
アメリカと日本でしか上映されなかった問題作。
私は、公開から数年後に、
東京の名画座のような映画館(池袋にあった文芸座など)で数回見たが、
とても衝撃を受けたのを憶えている。



物語のモチーフとなったのは、
1954年に、ニュージーランドのクライストチャーチで実際に起きた、
アン・ペリーによる殺人事件。

アン・ペリー(1938年10月28日~)は、
有名なイギリスの女性小説家であるが、
(なんと)実際に起こった殺人事件の犯人でもある。
殺人事件の犯人が、後にミステリー作家になったのだ。
アン・ペリーの出生名はジュリエット・マリオン・ヒューム。
ジュリエットは、ロンドンに生まれたが、
1948年、父ヘンリーがクライストチャーチのカンタベリー大学学長に就任したのを機に、一家揃ってニュージーランドへ移住。
後に通うことになるクライストチャーチ女子高校で、
ジュリエットは、ポーリーン・イヴォンヌ・パーカーと出会う。
親友となったジュリエットとポーリーンは、創作を志すようになり、
二人で創作したファンタジー小説の世界で、
ジェームズ・メイソンやオーソン・ウェルズら有名俳優らと一緒に暮らす空想に耽り、
性的な関係を持つまでに至る。
このことを知った2人の両親は恐慌をきたし、
特に、名門大学の学長として世間体にこだわる父ヘンリーは2人を引き離すため、
ジュリエットを南アフリカへ移住させるという強硬手段に訴えようとした。
ポーリーンの母・オノラがこの計画の急先鋒だと勝手に思い込んだ二人は、
それを防ぐために殺人を計画。
1954年6月22日、オノラとクライストチャーのヴィクトリア・パークへ行く途中、
装飾石をわざと落としてオノラに拾わせ、かがんだオノラをレンガで撲殺した。
二人は一度の殴打で死ぬと思っていたが、実際には20回以上殴ったという。
事故死に偽装しようとしたものの、
事故死というには不自然すぎる状況や、
素人目にも明らかな稚拙な偽装工作から、
警察は2人を追及したところ、犯行を自供したため逮捕された。

数年で仮釈放されてイギリスに帰国したジュリエットは、
転職を繰り返した後、歴史小説を執筆しはじめる。
義理の父の名字を取って、アン・ペリーと改名し、
1979年、処女作"The Cater Street Hangman" を上梓。
しかし、認めてもらえず、推理小説に転身し、成功。
ヴィクトリア朝を舞台にトマス・ピットと記憶喪失の私立探偵ウィリアム・モンクらが活躍するシリーズが代表作。
1999年にオットー・ペンズラー(英語版)が編んだアンソロジー『殺さずにはいられない2』に収録されている短編「英雄たち」が、2001年にエドガー賞 短編賞を受賞。
2003年までに、47冊の小説と数冊の短編集を上梓し、
イギリス、アメリカで300万部以上売れたベストセラー作家になっている。

このアン・ペリーによる殺人事件をモチーフにした映画は、
『小さな悪の華』の他にも、『乙女の祈り』(1994年)があり、


こちらはジュリエットを『タイタニック』(1997年)で有名なケイト・ウィンスレットが演じている。



二人の女子高校生が起こした殺人事件。
多感な少女たちの不安定な内面を描いた『小さな悪の華』や『乙女の祈り』に、
衝撃を受けながらも、魅力を感じていた私は、
同じく女子高生二人が主人公のミステリー映画『少女』にも同じ匂いを感じ、
しかも、二人の女子高生を本田翼と山本美月が演じているということで、
公開直後に映画館へ駆けつけたのだった。



「人が死ぬ瞬間を見てみたい」
なぜなら、本当の意味で「死」に向き合えると思うから……
高校2年生の夏休み、
桜井由紀(本田翼)は小児科病棟でボランティアをしていた。


夏休みに入る少し前、
転校生の滝沢紫織(佐藤玲)が
「親友の死体を見たことがある」
と、少し自慢げに話していたことに、
言い知れぬ違和感と、ちょっとした羨ましさを感じたのだ。


それならば自分は紫織よりも強く「死」の瞬間を目撃したい。
そして、その時を誰よりも面白く演出したいと考えた由紀は、
残酷にも短い生命を終えようとしている少年たちと仲良くなり、
自らの思いを遂げようと画策していた。


一方、由紀の親友である草野敦子(山本美月)もまた、
由紀には告げずに老人ホームでのボランティアに出かけていた。


陰湿ないじめにあい、生きる気力を失いかけていた敦子は、
人が死ぬ瞬間を見れば、生きる勇気を持てるのではないかという淡い期待を持っていた。
高校2年生の夏。
心に闇を抱えた「少女」たちの衝撃的な夏休みが今、始まる……




で、映画を見た感想はというと……
予想した映画とは、かなり違っていた。
予告編はかなりショッキングなものであったし、
『小さな悪の華』や『乙女の祈り』風な映画を期待していたのだが、
かなり裏切られた気持ち。(笑)
原作を読んでいなかったので、ドキドキしながら見ていたのだが、
最後まで映画を見た感想は、
「女子高生二人の友情を描いたヒューマン・ミステリーかな?」
という感じ。
確かにダークで刺激的な部分もあるが、
基本はそれほど暗くなく、ポジティブな部分もあり、
同じ湊かなえ原作の映画『告白』よりも後味も悪くない。


監督が三島有紀子と聞いた時、
彼女の監督作である『しあわせのパン』(2012年)『繕い裁つ人』(2015年)をすでに見てレビューも書いていた私は、(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
〈あの癒し系のほんわかとした映画を創る人がまさか……〉
と思ったのだが、
本作『少女』を見て、納得した。
〈三島有紀子の作品になっている〉
と思った。
映画『少女』は、それほど三島有紀子ワールドとかけ離れた作品世界ではなかったのだ。


先程、「かなり裏切られた気持ち」と書いたが、
これは、悪い意味ではなく、好い意味での発言である。
予告編は、衝撃的な部分をつないでいるので、
Yahoo!映画のユーザーレビューなどを見ると、
「予告編とかなり違う内容」
「学園ミステリーを期待したのに期待外れ」
などの意見が散見されるが、
私など、心地よく裏切られたような感じで、嬉しかった。
三島有紀子監督は、独特の作品世界を創っているので、
観客にそれほど親切ではなく、
構成も解り易くはない。
観客にも考えさせる部分を多く残しているので、
単純な鑑賞者は、「不満足」の烙印を押したがるのだと思われる。
美しい二人の主人公と、


美しい映像を楽しみ、


昔のATGのような雰囲気の世界を堪能した。


私的には、かなり満足度の高い作品であった。


旬の女優である、
本田翼も、


山本美月もとても魅力的であったが、


老人ホーム職員・高雄孝夫を演じた稲垣吾郎や、


教師・小倉一樹を演じた児嶋一哉も、
期待以上の演技で作品をしっかり支えていた。



映画館で、ぜひぜひ。

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