一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『セトウツミ』 ……池松壮亮と菅田将暉の掛け合いが絶妙な秀作……

2016年07月07日 | 映画


2013年6月22日に公開された大森立嗣監督作品『さよなら渓谷』を、
私は数ヶ月遅れで(佐賀のシアターシエマで)見て、
そのレビューを、2013年11月07日に、ブログ「一日の王」にアップした。
公開から4ヶ月半も遅れてレビューを書いたにもかかわらず、
このレビューは多くの読者を得た。
現在でも、毎日、たくさんのアクセスがあり、
(たぶん『さよなら渓谷』のレビューを書いた人が少なかったのだろう)
Yahoo!で、「さよなら渓谷」「映画 さよなら渓谷」などのキーワードで検索すると、
1頁目に私のレビューが登場するまでになっている。
そういうこともあって、
大森立嗣監督作品『さよなら渓谷』は、私にとって忘れがたい作品となっている。

その大森立嗣監督の新作『セトウツミ』が7月2日に公開された。
人気俳優の池松壮亮と菅田将暉がダブル主演する話題の映画で、
いつもは数ヶ月遅れで上映するシアターシエマが、
本作は珍しく7月2日から上映するという。
で、さっそく見に行ったのだった。

内海想(池松壮亮)と、
瀬戸小吉(菅田将暉)は、
放課後にいつも河原で話をしながら暇つぶしをしている高校二年生。


性格は正反対だが、どこかウマの合う二人は、
くだらない言葉遊びで盛り上がったり、
好きな女の子に送るメールの文面で真剣に悩んだり、
ときにはちょっと深いことも語り合ったりしている。


そんな二人を影ながら見守っているのは、
同級生の樫村一期(中条あやみ)だ。


お寺の娘で、名前の一期は「いちご」と読み、妹は一会「いちえ」とのこと。


瀬戸は樫村のことが好きだけど、
樫村は内海が気になっていて、
内海はそんな樫村につれない素振り。




さらにヤンキーの先輩鳴山(成田瑛基)や、


謎のバルーンアーティスト(宇野祥平)たちが、


瀬戸内海のように穏やかな二人の日常に、
ちょっとした波風を立てていく。
ゆっくりと流れる時間の中で、移り行く季節。
瀬戸と内海の無駄話は止まらない……



原作は、「別冊少年チャンピオン」にて連載中の此元和津也の同名コミック。


関西弁の男子高校生二人が、
放課後にまったりとしゃべるだけというシンプルな内容で、
二人の繰り広げるシニカルな会話劇の面白さが人気の漫画だ。




映画の方も、
ウィットに富んだセリフと、漫才のような独特の“間”が絶妙で、
そのユニークな会話の面白さだけで鑑賞者を引っ張っていくという、
これまであまり見たことのない斬新な作品になっている。
映画を見たのがレディースデイということもあって、
(たぶん池松壮亮、菅田将暉目当ての)女性の鑑賞者が多かったのだが、
静かな映画なのに、笑い声が場内に響き、
私も大いに笑わされた。
下手な若手芸人の漫才などより、
数倍面白かったと思う。


二人が喋っているだけの映画なのだが、
二人の坐っている背景が微妙に変わり、


二人の服装が替わり、


季節の移ろいが感じられる。


パンフレットに書いてある通り、
「ケンカもない。」
「部活もしない。」
「壁ドンもない。」のだが、
不思議なことに、
そこらに転がっている青春映画よりも、「青春」が感じられるのだ。
二人の、取るに足らないことで盛り上がれる勢いも、
二人の、バカバカしい楽しみも、
二人の、どうしようもない退屈も、
二人が、どこかで感じている絶望も、
すでに「老い」の領域に入っている私にとっては、
「青春」そのものに感じられた。
大人になる前の「一瞬の輝き」と、
いつかは失われるであろう「美」が見て取れた。


瀬戸と内海を演じる、菅田将暉と池松壮亮の配役は、
この二人以外は考えられないほどの好キャスティングで、
若手実力派俳優の二人の演技合戦を存分に楽しむことができる。
菅田将暉と池松壮亮のファンなら、
絶対に見逃してはならない作品だと思う。


女子高生・樫村一期を演じた中条あやみも良かった。


演技の方は「まだこれから」という感じであったが、
『Seventeen』専属モデルだけあって、
(父がイギリス人で、母が日本人のハーフということもあって)
スタイルの良さ、
顔の小ささ、
はっきりとした目鼻立ちが美しく、
ヒロインの名にふさわしいキャスティングであったと思う。


来年(2017年)春に公開予定の
『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』
にも出演しているようなので、
こちらも楽しみに待ちたい。


本当はもっと詳しく紹介したいのだが、
出勤前に書いているので、もうこれくらいにしておこう。

会話だけの映画だったら2時間はキツイだろう、
75分という上映時間は絶妙かな……
と思っていたが、
実際に映画を見てみると、
面白すぎて「もっと見たい」と強く思った。
そう思わせることを狙っての75分という上映時間だったのか……(笑)
ちょっとした空き時間でも見ることのできる映画『セトウツミ』。
1時間強で、「青春」を感じさせてくれる映画『セトウツミ』。
続編にも期待したい映画『セトウツミ』。
映画館で、ぜひぜひ。
(予告編もかなり面白いよ)

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