一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『MERU/メルー』 ……山岳ドキュメンタリー映画の傑作……

2017年04月21日 | 映画


都会では、昨年(2016年)12月31日に公開された作品であるが、
佐賀では、シアターシエマで、やっと4月15日に上映が始まった。
しかし、たった一週間だけの公開なので、
本日(4月21日)をもって終了なのである。
私は、4月19日に、作礼山に登った後、本作を見たのだが、
あまりに素晴らしい作品だったので、
せめて、佐賀での公開最後の日に間に合うように、
レビューを書きたいと思った次第。
で、出勤前にこうして書いている。

山岳雑誌の広告などでこの映画の存在を知った。
ヒマラヤ山脈メルー中央峰の横にそびえる岩壁「シャークスフィン」。
この難攻不落の直登ダイレクトルートに挑んで敗れた3人の一流クライマーたちが、
過去や葛藤を乗り越え、再び過酷な大自然に立ち向かっていく姿を描いた、
壮大なスケールの山岳ヒューマン・ドキュメンタリーとのこと。


それ以外の情報は極力入れずに、
ほとんど先入観なしで見た。
それが良かった。
この手のドキュメンタリー映画は、
クライミングシーンばかりの退屈な作品が多く、
あまり期待し過ぎると、ガッカリする。
過剰な期待は禁物なのである。



聖河ガンジスを見下ろすインド北部のヒマラヤ山脈、
メルー中央峰(標高約6,250m)の横にそびえる巨大な岩壁は、
サメのヒレのような形をしていることから、
クライマーたちのあいだでは、通称「シャークスフィン」と呼ばれてきた。


メルー中央峰は、2000年はじめに初登頂されているが、
「シャークスフィン」の方は、いまだ未踏峰であった。


過去30年間、一人の成功者も出していない、
クライマーにとって究極の勲章となり得る難攻不落の岩壁だったのだ。
ベストセラーとなった『荒野へ』や『空へ―悪夢のエヴェレスト』の著者と有名なジョン・クラカワーは言う。(彼がこの映画の進行役のような役目を果たしている)
「メルーを制するにはアイスクライミングが巧いだけでは駄目だ。高度に強いだけでもダメ、ロッククライミングの技術だけでも足りない。これまで多くの優秀なクライマーたちがその壁に挑み、敗れてきた。それは今後も変わらない。メルーはエヴェレストとは違う。シェルパを雇ってリスクを人任せにはできない。まったく別次元のクライミングなんだ」。

2008年10月、
コンラッド・アンカー、


ジミー・チン、


レナン・オズタークの3人は、


メルー峰へ挑むため、インドに到着する。
7日間のはずだった登山は、巨大な吹雪に足止めされ、
20日間に及ぶ氷点下でのサバイバルへと変貌。
過去の多くのクライマーたちと同じく、彼らの挑戦は失敗に終わった。
難攻不落の山頂まで残りわずか100メートルのところで。


敗北感にまみれたアンカー、チン、オズタークの3人は、
二度とメルーには挑まないと誓い、普段の生活へ戻っていく。


ところが故郷へ帰った途端、肉体的にも精神的にも苦しい数々の苦難に見舞われる。
ことに、レナン・オズタークは撮影の仕事中に事故に遭い、
頭と脊髄に致命的ともいえる損傷を負う。
だが、リハビリに励み、なんとか元の体に戻るようにと頑張る。
そんな彼を支えていたのは、
「もう一度メルーに挑戦したい」
という意思であった。

2011年9月、
コンラッド・アンカー、
ジミー・チン、
レナン・オズタークの3人は、
インドに降り立った。
シャークスフィンへの再挑戦のためであった。


3人は諦めてはいなかったのだ。
それが、前回以上に過酷なチャレンジとなることも解っていた……




映画を見終わったとき、
私の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
クライミングシーンばかりの映画ではなかった。
むしろ、人間ドラマに主眼を置いた、山岳ヒューマン・ドキュメンタリーであった。
これまで見た山岳映画では、最も優れた作品だと思った。
そして、クライマーではない私ではあるが、
(レベルは違えど)無性に「山に登りたい」と思った。


映画鑑賞後、パンフレットに載っているクライマー達のコメントを読んだのだが、
そこに“私の想い”はすでに書かれていた。
さすが一流のクライマーだなと思った。

【山野井妙子】
困難のルートの初登頂の
ドキュメンタリーと聞いて、
クライミングシーンが永遠続くのかと思い、
実は観る前はあまり期待していなかった。
しかし3人のメンバーそれぞれの
凄いドラマがあり、
涙が出るくらい感動した。

【山野井泰史】
山々が連なるヒマラヤでも、
あれほど美しく魅力的な岩壁は
なかなか見当たらないだろう。
そこを良き仲間と共に登れるなんて、
どれほど幸せなことなんだろうか。
映像を観ていたら、「激しく山に登りたい」
という気持ちが、自分の胸から
溢れ出すのを感じてしまった。
今まで観てきた山岳映画の中で最高でした。


クライマーであり、
山岳カメラマンであり、
この映画の監督でもあるジミー・チンは語る。


情熱の追求は必ずしも美しいものではないということも伝えたかった。
そこには葛藤や、迷いや、苦しい妥協が溢れている。
自分の心に従いながら、
他人への責任を果たすことはとても難しい。
私もよく自問します。
一体どこで線をひけばいいのかと。


ジミー・チンと、
レナン・オズタークの撮った映像は壮大で美しく、
スケールの大きな山岳ドキュメンタリー映画となっている。




この映像を見るだけでも、この映画を見る価値は十分にあると言えるが、
そこに人間のドラマが加わり、
深みのある作品に仕上がっている。


もうほとんどの映画館で公開は終了しているが、
もし見る機会があったならば、ぜひ見てもらいたい傑作である。
(佐賀は今日までなので、ぜひぜひ)
出勤前なので、これで終えるが、
まだまだ書きたいことの多い作品であった。
何度でも見たい映画であった。

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