一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ディア・ドクター』 ……極上の人間ドラマを創った西川美和監督に拍手……

2009年09月10日 | 映画
西川美和監督作品『ディア・ドクター』を見たいと思っていた。
2009年6月27日より全国公開されたが、佐賀県で上映する映画館はなかった。
福岡県まで出掛けなければならないか……と思っていたら、イオンシネマ佐賀大和で9月5日から2週間限定での上映が始まった。
で、今日見に行ってきた。
さすが、『ゆれる』で数々の映画賞を総ナメにし、カンヌ国際映画祭でも喝采を浴びた西川美和監督作品。
いや~良かったです。
私的には、今年見た邦画では、『大阪ハムレット』と同じくらいの評価ができる素晴らしい作品でした。

町まで車で2時間もかかる山あいの小さな村。
その村で慕われていた医師が、突然謎の失踪を遂げた。
……遡ること2ヶ月前。
医大を卒業したての研修医・相馬(瑛太)がこの村に赴任した。
彼を待っていたのは、看護師(余貴美子)と一緒に診療所を切り回している、物腰の柔らかそうな中年医師・伊野(笑福亭鶴瓶)。
相馬は田舎の医療に戸惑いながらも、村中の人々から「神様仏様」よりも頼りにされている伊野の働きぶりにやがて共感を覚えるようになっていく。


あるとき、かづ子という村の未亡人(八千草薫)が倒れた。
彼女は、自分の体がもう大分良くないと気づいている。
医師をしている娘(井川遥)には本当の事を知らせないでくれというかづ子の願いを引き受け、彼女の診療を続けていくうち、伊野自身がひた隠しにしてきたある嘘も浮かび上がってくる――。(ストーリーはパンフレットより引用し構成)

主演は、笑福亭鶴瓶。
致命的な秘密を抱えて生きてきて、ある出来事からのっぴきならない事態に陥っていく過疎地の医師・伊野を、見事に演じきっている。
TVはほとんど観なくなった私だが、NHKの「鶴瓶の家族に乾杯」だけは時折観る。
まるでその村の住人になったかのように打ち解けて話す鶴瓶の話術に引き込まれ、ついつい観てしまう。
その人なつっこさが良く活かされていて、俳優以上の演技を見せている。
その演技を引き出した西川美和監督にも脱帽だ。


研修医役の瑛太。
ここ数年、
『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007年)
『銀色のシーズン』(2008年)
『余命1ヶ月の花嫁』(2009年)
などに主演し、今もっとも期待されている若手俳優の一人。
この作品でも、その爽やかさで、作品に新鮮な風を送り込んでいる。


かつて救命救急の仕事もしていた経験があるベテラン看護師役の余貴美子。
私の大好きな女優で、昨年の『おくりびと』『まぼろしの邪馬台国』でも素晴らしい演技を見せていたし、この作品でも存分にその存在感を示している。
彼女がいるだけで、作品に深みが増す。
一晩一緒に飲み明かしたい……と思わせる、私にとって凄く魅力的な女優。


鳥飼かづ子役の八千草薫。
若い頃も美しかったが、78歳の現在もなお美しいとは、驚異的。
老いてくると化粧が厚くなり、お面を被ったような顔になる女優が多い中、薄化粧でしかも美しいとは……本当に存在自体が稀有な人である。
この作品では、かづ子の嘘を伊野が引き受け、そのことによって伊野の嘘も浮かび上がってくる――という重要な役で、ラストシーンまで彼女を見ることができる。
昔からの八千草薫ファンにはたまらない作品になっている。
趣味は「山歩き」で、以前は自然環境保全審議会委員を務めたこともある彼女。
今も時には山を歩かれたりもするのだろうか?


鳥飼かづ子の娘・鳥飼りつ子役の井川遥。
かつてはグラビアアイドル的存在だったが、女優として立派に成長してきている。
『樹の海』(2006年)で、日本批評家大賞助演女優賞を受賞。
昨年公開された『トウキョウソナタ』でもイイ演技をしていた。
この作品でも抑えた演技で好感が持てた。
20代の頃よりも30代になってからの方が美しいように感じる。


薬卸しの営業マン・斎門正芳役の香川照之。
国内外からオファーが絶えない、いまや日本を代表する演技派。
昨年から今年にかけてだけでも、
『ザ・マジックアワー』(2008年)
『20世紀少年』(2008年)
『ヤーチャイカ』(2008年)
『トウキョウソナタ』(2008年)
『20世紀少年 <第2章> 最後の希望』(2009年)
『JOHN RABE』(日本未公開)(2009年4月)
『劒岳 点の記』(2009年)
『20世紀少年 <最終章> ぼくらの旗』(2009年)
と、出演作が引きも切らない。
西川美和監督作品には、『ゆれる』に続いての連続出演。
彼が出ているだけで、この作品は「見る価値あり」だ。


波多野行成巡査部長役の松重豊と、岡安嘉文警部補役の岩松了もイイ味出していた。
特に松重豊は、狂言回しのような役回りをうまくこなしていた。
脇役ながら、彼も存在感のある素晴らしい男優である。


総合病院の医師役の中村勘三郎。
出演シーンは短いが、印象に残る好い演技をしていた。


この他、村長役の笹野高史が、『劒岳 点の記』の時とは違って、イキイキとしたコミカルな演技で見る者を惹きつけた。
笹野高史はこうでなくっちゃ!

特筆すべきは、撮影ロケ地である茨城県常陸太田市の田園風景。
とにかく美しい。
地元の方々もエキストラとして大勢出ておられる。
エキストラの皆さんの不自然ではない演技は、やはり西川美和監督の手腕に因るところが大きい。

見終わった後に、温かな気持ちが残る素晴らしい作品です。
ラストシーンで、クスッと笑い、ホロッと涙を浮かべるかも……
映画館の中で、極上の時間を過ごせました。
西川美和監督、ありがとう!

佐賀では現在「イオンシネマ佐賀大和」での公開中。
9月18日(金)までなので、お早めに――。
福岡では「ワーナー・マイカル・シネマズ筑紫野」で、
長崎では「TOHOシネマズ長崎」で、
共に、9月26日(土)から公開されます。
見て損のない作品です。
ぜひ映画館に足を運んで下さい。
こんな作品にはなかなか出逢えませんよ!
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