一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『すべては君に逢えたから』 ……東京駅が舞台の群像劇……

2014年01月08日 | 映画
「駅」が好きだ。
歩き旅をする以前は、
鉄道を使った旅をよくしていたので、
「駅」には特別の思い入れがある。
「駅」は、出会いと別れの場所。
人生の縮図がそこにある。

「駅」は、様々なジャンルで題材となり、
名作や名曲を生んでいる。
歌で好きなのは、竹内まりやの『駅』(←クリック)。
わずか数分の間に、ひとつの物語を鮮やかに描いている。
聴くたびに感動する。

映画では、やはり『駅 STATION』。
警察官の英次(高倉健)と妻・直子(いしだあゆみ)が別れるシーンに使われた、
雪の降り続く銭函駅ホーム。
そして、作品中に何度も登場する増毛駅。
忘れがたい映画である。


洋画にも「駅」の登場する作品は多いが、
名曲と共に、私が思い出すのは『ひまわり』。
列車でソ連の家族のもとへと帰ろうとするアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)を、
ジョヴァンナ(ソフィア・ローレン)が見送るラストシーン。
舞台となるミラノ駅。
ヘンリー・マンシーニの書いた哀しいテーマ曲と共に、
この作品も忘れがたい作品である。


高校を卒業して、
進学のために上京したのは、
もう40年も前のことだ。
そのとき、佐世保から、寝台特急「さくら」に乗った。
到着したのは東京駅。
初めて見る東京駅は、大きくて、美しく、威厳があった。

東京には約9年間いたが、
佐世保へ帰省するときには、
いつも東京駅を利用した。

日本最大の書店(当時)・八重洲ブックセンターが、
東京駅八重洲南口向かいに1978年(昭和53年)にオープンしたので、
それから数年間は特に東京駅を頻繁に利用した。

その思い出深い「東京駅」を舞台とした映画、
『すべては君に逢えたから』が、昨年(2013年)末に公開された。
公開されてすぐに見に行ったのだが、なかなかレビューを書けないでいた。
そうこうしているうちに、上映期間が終了し、年も明けてしまった。

昨年の邦画ベストテンに入るような傑作ではないけれど、
レビューを書かずにスルーしてしまうには惜しい作品であった。
で、雨の休日(私の公休日)の今日、
ちょっと書いておこうかという気になった。
レビューを書いておけば、いつか誰かが読んでくれる。

昨年(2013年)から今年(2014年)にかけての年末年始も、
各テレビ局で、多くの映画が放送された。
それで、私のブログにも多くの方々が映画レビューを閲覧しに訪れて下さった。
毎日1000人前後の訪問者があり、
gooブログの閲覧数・訪問者数ランキング(週別)で、
197万1612ブログ中、450位まで上昇。
登山の記録も、映画のレビューも、
私個人の「至福の時間」の記録として書き記しているもので、
私自身が、時間があるときに読み返すのが、何よりの楽しみなのであるが、
そんな個人趣味のブログに、多くの方々が訪問して下さり、
レビューを読んで頂き、本当に有難かった。
映画『すべては君に逢えたから』のレビューも、
そんな風に役に立ってもらえたらと思う。

映画『すべては君に逢えたから』は、
1914年に開業した東京駅が、
2014年12月に100周年を迎えることを記念し、制作された。
クリスマス直前の東京駅周辺。
1日100万人を超える利用者の出会いと別れ。
メガステーションを背景に繰り広げられる6つのオムニバスストーリー。
6つのストーリーの中に、幸せを願う10人の物語が描かれている。

この手の群像劇で、有名なのは、
2003年に製作された(日本公開は2004年)、
米英合作のロマンティック・コメディ映画『ラブ・アクチュアリー』。
私の大好きな作品で、
特にキーラ・ナイトレイが絡んだ挿話が好きだった。
その名作『ラブ・アクチュアリー』にインスパイアされて制作されたのが、
東京版『ラブ・アクチュアリー』とも言うべき本作なのだ。

先程も紹介したように、ストーリーは、6つの物語からなる群像劇。

【イヴの恋人】


近づいてくる女性はみな金目当てだと思っている黒山和樹(玉木宏)。


女優の夢を諦めて故郷に帰ろうと決意する佐々木玲子(高梨臨)。


二人は偶然出逢うが、


和樹に失礼な態度をとられた玲子は、
「恋人が死んだから一人で来た」と告げて立ち去る……



【遠距離恋愛】


東京のドレスメーカーに勤める山口雪奈(木村文乃)と、


建設会社の仙台支社に転勤になった津村拓実(東出昌大)は、


遠距離恋愛中。
電話とメールだけは毎日欠かさなかったのに、
ある夜、拓実と連絡が取れなくなる。
翌朝、雪奈は仙台の駅に降り立っていた……



【クリスマスの勇気】


クリスマスイヴなのに、
ケーキ店のアルバイトの予定しか入っていない大友菜摘(本田翼)。


憧れの三上先輩が恋人と別れたと聞くが、
自分に自信のない菜摘には告白する勇気がない。


菜摘はケーキ店のオーナーの大恋愛話に感動するのだが……



【クリスマスプレゼント】


元気で明るい女の子、寺井茜。


両親と離れて養護施設で暮らす彼女を、
施設で教員を務める岸本千春(市川実和子)は、いつも優しく励ましていた。


クリスマスイヴには母親が逢いに来てくれると信じている茜を、
千春は複雑な想いで見守るのだが……



【二分の一成人式】


余命3ヶ月と宣告され、新幹線の運転士を辞める宮崎正行(時任三郎)。


妻の沙織(大塚寧々)に支えられ、残された時間を一人息子の幸治のために使おうとするが、


何も言えないまま幸治の10歳になった記念の‟二分の一成人式”の日がやって来る……



【遅れてきたプレゼント】


49年前、大島琴子(倍賞千恵子)は恋におちるが、
相手には親の決めた婚約者がいた。
二人は駆け落ちを約束、
クリスマスイヴに東京駅で待ち合わせるが、男は現れなかった。
毎年イヴになると心が落ち着かない琴子のもとに、
一人の男(小林稔侍)が訪ねて来る……


『ラブ・アクチュアリー』が、
135分の上映時間に、
9つのストーリー中に、19人の物語を描いているのに対し、
『すべては君に逢えたから』の方は、
106分の上映時間に、
6つのストーリーの中に、10人の物語が描かれている。
『ラブ・アクチュアリー』は登場人物が多かったこともあって、
テンポが良く、濃密に描かれていたのに対し、
『すべては君に逢えたから』の方は、
上映時間も登場人物も少なかったこともあって、
やや薄味に感じた。
ただ、これは名作『ラブ・アクチュアリー』と比較したからで、
『すべては君に逢えたから』が決してつまらない作品ということではない。
それどころか、最初から最後まで、面白く見ることができたし、
東京駅を舞台とし、グランドホテル方式で描かれた物語を、
心ゆくまで堪能することができた。
もともと、私は、この手の群像劇が大好きで、
『ラブ・アクチュアリー』はもちろんのこと、
2年前にこのブログでも紹介した『ニューイヤーズ・イブ』など、
多くの作品を見てきた。
そんな私を、
この『すべては君に逢えたから』も、
存分に楽しませてくれた。

出演者では、木村文乃が良かった。


というか、彼女をいちばんの目当てに見に行ったので、
彼女を見ることができただけで大満足だったのだが、
相手役が、現在,NHKの朝ドラ『ごちそうさん』に出演し、
大人気の東出昌大ということもあって、
なんだか一層魅力的に見えた。


その他、高梨臨、市川実和子、大塚寧々、本田翼、倍賞千恵子が(女優ばかり)、
それぞれの物語の中でキラキラ輝いていた。

この『すべては君に逢えたから』には、
主要10人の登場人物の他に、
陰の主役ともいうべき東京駅の存在がある。
この東京駅を設計したのは、
佐賀県が誇る建築家・辰野金吾(1854年~1919年)なのだ。
東京駅の他、日銀本店(1896)、両国国技館(1909)なども彼の作品。

2012年、1914(大正3)年の開業時の姿に復元した東京駅は、
南北二つのドーム状の八角形の屋根に干支(えと)のレリーフが飾られている。


八角形だからということもあろうが、
十二支のうちの八つしかないことがネットで話題になっていた。
東京駅にあるのは、
丑、寅、辰、巳、未、申、戌、亥の八つ。




方角で言えば、
ちょうど東西南北を示す子(北)、卯(東)、午(南)、酉(西)がないことから、
「残りはどこに?」
と、ミステリー的な話題になっていたのだ。

それが、昨年、
お色直し中の佐賀県武雄市の武雄温泉楼門(重要文化財)で、


残りの四つの干支(えと)が見つかったのだ。


楼門を設計したのは、東京駅と同じ辰野金吾。
東京駅は、1914年開業。
武雄温泉楼門は、1915年完成。
東京駅に足りない四つの干支を、
ふるさとの楼門の天井に彫ったのではないかと、
昨年、佐賀では、大いに話題になった。

佐賀県とも大いに関係のある東京駅。
その東京駅を舞台にした『すべては君に逢えたから』。
これからDVDやTV放映などで、
この作品を観るチャンスはあると思う。
そのときはぜひご覧になってほしい。
きっと、幸せな気持ちにしてくれますよ。

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