一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『orange-オレンジ-』……長野県が舞台の、ピュアな高校生たちを描いた秀作……

2016年01月09日 | 映画
年末年始にかけて、
映画館は大盛況だったようだが、
正直、私が見たいと思う映画は少なかった。
それでも映画が見たくて映画館へ出掛け、
それほど食指が動かなかったものの、
鑑賞した映画がある。
『orange-オレンジ-』だ。


高野苺による人気コミック『orange』を実写映画化したもので、
未来の自分から届いた手紙をもとに、
未来を変えるため奮闘する主人公の姿を描くファンタジックな青春群像劇。
NHK連続テレビ小説『まれ』のヒロインを演じた土屋太鳳と、
その相手役となった山崎賢人が、
再び主人公とその相手役という役どころで共演を果たしている。
クランクインは、
『まれ』のクランクアップ後の2015年9月1日。
クランクアップは、
2015年10月11日。
わずか40日でスピード撮影され、
クランクインから3ヶ月半後の2015年12月12日に公開された話題作。
監督は橋本光二郎で、長編映画初監督作品となる。


若者向けの映画だと思ったし、
某女性映画評論家が低い点数をつけていたし、
あまり期待せずに見たのだが、
これが、意外や意外、
私の心にジャストフィットする秀作だったのである。

高校2年生の高宮菜穂(土屋太鳳)に、
10年後の自分から手紙が届く。


そこには、
26歳になったときに後悔していることが数多くあること、
転校生の翔(山崎賢人)を好きになるが、
彼が1年後に死んでしまうことがつづられていた。


当初はイタズラだと思った菜穂だったが、
手紙に書かれていることが現実に起こり始める。
なぜ翔を失ってしまったのか?
26歳の自分と同じ後悔を繰り返さないためにはどうしたらいいのか?
後悔しないため、
そして翔を救うために、
菜穂は行動を起こし始める……



10年後の自分から手紙が届くという、
ちょっとSFっぽい設定なのだが、
どうやってその手紙が届くのかがよくわからないし、
何もかもがアバウト過ぎて、
突っ込みどころ満載なのだが、
映画を見ていると、そんなことが気にならないくらい面白く、
実に心に沁みてくる作品なのである。
そういう意味では、
以前(2014年11月2日)紹介した
『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』
という映画に似ている。
そのレビューで、私は次のように記している。

「過去に戻って人生をやり直したい」と、
誰しも一度や二度は思ったことがあるのではないだろうか?
「あの若く美しかった頃の自分に戻りたい……」
とか、
「あのとき、選択を誤らなければ、もっと違った人生を歩んでいるハズだ……」
とか。
そんな夢のような話を現実化したのが、
映画『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』だ。
まあ、一応、SFのようなものなのだが、
タイムトラベルする方法は、
「暗いところで念じると過去に戻れる(過去にしか行けない)」
という非科学的で陳腐なものだし、(笑)
時間軸に関する問題もアバウト過ぎて、矛盾だらけなので、
『アバウト・タイム』のアバウト(おおまかな。大ざっぱな。)はその意味?
と思ってしまうほど。
(あっ、ちなみに「アバウト・タイム」とは「その時はきた」「今こそ、そのとき」という意味)
そういうアバウトなところは目をつぶってもらうとして……(笑)
問題は、映画の中身だ。
これが実にイイのだ。


映画『図書館戦争』のときにも書いたと思うが、
この手の映画は、「まずは設定を受け入れること」。
ありえないストーリーなどと思わず、
その設定を受け入れさえすれば、楽しく鑑賞できるのだ。

『orange-オレンジ-』が、
『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』と違うのは、
「あのとき、選択を誤らなければ、もっと違った人生を歩んでいるハズだ……」
と考えたときに、
『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』の方は、
本人そのものが過去に戻るのに対し、
『orange-オレンジ-』の方は、
現在の自分が、過去の自分に手紙を書き、
過去の自分に違った道を歩ませる点にある。
この手法だと、
過去の自分が行った選択と、
現在の自分の境遇が必ずしも一致する必要はない。
「この現実とは別に、もう1つの現実が存在する」
という、所謂、パラレルワールドものとして、作品が成り立っている。


映画『orange-オレンジ-』の驚くべきところは、
登場人物がピュアであること。
〈現代の若者はドライなヤツが多いのではないか……〉
と、我々おじさんは考えがちだが、
この映画には、
〈こんなに純粋でいいの?〉
と思うくらい、心が真っすぐでピュアな若者たちばかりが登場する。


ある意味、性善説にもとづいた物語と言えるが、
これが実に心地好い。
凶悪事件が頻発する現代において、
これほど爽やかで、見ていて気持ちの良い作品は稀である。
若者向けの映画のようではあるが、
そういう意味では、中高年の方々が見ても、
まったく違和感のない、
いやむしろ、
おじさん、おばさんの方が理解しやすい映画なのではないかとさえ思ってしまう。


撮影は、
原作が、長野県松本市が舞台ということもあって、
全編長野県松本市(一部塩尻市、飯田市)ロケで行われた。
アルプスを背景にした風景も実に美しく、
物語の美しさと、風景の美しさが相俟って、
心に残る作品となっている。


主要キャストは、
高宮菜穂(土屋太鳳)、


成瀬翔(山崎賢人)、


須和弘人(竜星涼)、


茅野貴子(山崎紘菜)、


萩田朔(桜田通)、


村坂あずさ(清水くるみ)


の6人。
外見は現代っ子風だが、
心情は古風と言ってもいいほどにピュアな若者たちを、
この6人は、実に上手く演じていた。


特に、体育祭でのリレーのシーンは秀逸。
(ハンカチをお忘れなく)


この他、
成瀬翔の母親・成瀬美由紀役で、森口瑤子、
成瀬翔の祖母・成瀬初乃役で、草村礼子、
パラレルワールドについて教えるクラス担任・中野幸路役で、鶴見辰吾、
菜穂たちの一つ上の先輩・上田莉緒役で、真野恵里菜などが、
確かな演技で作品を締めていた。




『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』と同様、
見終わった後に、
〈かけがえのない「今」という時間を大切に生きていこう〉
と思わせてくれる秀作『orange-オレンジ-』。
中高年の方々も(いや、中高年の方々こそ)、ぜひぜひ。

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