バンコクは到って平穏な日常を取り戻した。街には不思議な虚脱感が漂うが、先月までの市街戦もどきの騒動が嘘のように思える。
土台の社会構造の問題は何も解決には至っていない。だが、それをタクシンか反タクシンかで括るのも奇妙な構図だった。名だたる大富豪のタクシンが、貧農の利益代表と云っても納得はいかない。
放火、強盗にまで至った実行犯は単なる便乗組の若者が多かった。もともとバンコクは職業学校の生徒間などで抗争事件が多く、毎年多数の死傷者が出ている。そのような民度の問題を抱えた都市なのだ。そこで起こった政治抗争が、予想外の参加者を招き寄せることになった、ということだろう。
とにもかくにも、バンコクは落ち着きを取り戻した。断固とした法治国家の顔をみせること、それが何より必要なことだったのだ。
観光業を中心に受けたダメージは小さくない。リーマンショックから急回復する過程で起きた事件でタイの経済にとっては自殺行為に等しかった。
更には、今後民主主義と王室の関係という、タイにとって極めて重い問題も議論していかなくてはならない。社会の構造変化は、否応もなく上部構造の変質を即す。にも拘らず、旧態依然の思考パターンでは、また必ず同じ問題が繰り返されることになる。タイの正念場は続く。
雨期入りしたタイだが晴天が続き、暑い。あっけらかんとした南国の空気と空と、愛すべきタイが戻ってきたのは何よりだ。
昨夜はワールドカップのカメルーン戦をテレビ観戦し、寝不足だ。喜びすぎて次のイタリアの試合まで観てしまった。
代表の前評判が悪かっただけに盛り上がりに欠けているとされていたが、日本での視聴率も40%台後半だったと云う。サッカーという国境のない競技のパワーを改めて感じる。
タイ人も一様にサッカーが大好きだ。ワールドカップが話題にならない日は無い。きっと様々な形で代表の活躍は、世界に散った日系企業を励ますことになるだろう。次は優勝候補のオランダ戦、間違っても勝つ可能性はないのだろうけれど、大敗もあり得ないような気迫をこのチームからは感じる。諦めず戦ってほしい。何といっても岡田の目標は世界のBEST4入りだ。
絵を描かなくて手に入るものは何もない。先ず思い描くこと、それに向かって努力すること、練習試合で負け続け批判にさらされた岡田ではあるが、その戦略に何か間違いがあるわけではない。
途方もない目標を手繰り寄せるしつこさ、その部分で勝つことだ。がんばれ岡田。日系企業の現在も、皆同じなのだ。
川口