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猫は勘定にいれません
破戒裁判/高木彬光
破戒裁判 新装版 高木彬光コレクション
高木 彬光

今回は、グッと硬派に、高木彬光さんの本格派法廷ミステリ「破戒裁判」を読みました。さすがに大御所が仕事を半年間断って取材をしてまで書いた作品だけあって、重厚かつ精緻。傑作の名にふさわしい内容です。
演劇者くずれの男・村田は、愛人とその夫の殺人及び死体遺棄の罪で起訴される。その犯行は、殴殺した死体をさらに列車に轢断させるという残酷なものであった。村田は過去において劇団を金銭トラブルで退団したり、軍隊でも素行が悪かったことなどから裁判官の心象も悪く、有罪は免れないかに思われた。しかし、村田を弁護する若き辣腕の百谷弁護士は、表面に見える出来事に隠された真実を暴いていく。そして明らかになった真相は、あまりにも意外なものであった…。
日本の小説としては本当に珍しい、全編が法廷シーンのみで進行する本格的な裁判ミステリです。罪状認否から冒頭陳述、検察側と弁護側の証人の召喚と反対尋問の応酬、そして最終弁論とリアリティあふれる裁判の模様が描かれていきます。言ってみれば、ミステリのクライマックス、探偵が犯人を糾弾するシーンが延々と1冊分続くようなもので、会話シーンが多いことも手伝って、異様な緊張感を保ちながら驚くほどに早い時間で読み終わってしまいました。そのかわり、読了後にはぐったりと疲れてしまいましたが。
展開はさながらスポーツの試合を見ているようで、冒頭には弁護側が見事な先制攻撃で検察側の用意した証人をことごとく退け、中盤は検察側の積み重ねる膨大な事実の圧力に押し込まれ、そして最後には弁護側が逆転を狙って起死回生の策にで出る、そんな一進一退の攻防は非常にスリリングです。かといって個々の内容は決して複雑でなく、新聞記者という一歩ひいた目線から書かれているためか、とてもわかりやすいです。
本作は法廷モノとは言いながらも、いかにも被告人に不利な事実であるかに思われた数々の出来事が、角度を変えると全く異なって見えてくるという作劇手法はまさしく本格ミステリのそれ。この作品には神のごとき名探偵は登場しませんが、本格スピリットは確実にこめられていると思います。読んで損なしの傑作です。
ところで、本作には柄刀一さんが解説を寄せられていますが、これがかなりいい味を出しているのです。柄刀さんは生前高木さんとは縁があったとおっしゃって、3つの出来事を上げています。
一つ、「子供のころ、刺青殺人事件を愛読していた」
一つ、「デビュー前に書いた習作を高木さんに送ったが、そのまま送り返されてきたことがある」
一つ、「その時送り返された作品を改稿している最中に、『破戒裁判』の解説を依頼された」
以上3点を持って、「ああ、そして、なんということだろう―、こうした奇縁があるとは」と思い入れたっぷりに語っておられるんですが、なんだか微妙というか、正直言って奇縁というほどではないような気がしてなりません。佐藤友哉さんや西尾維新さんあたりをチクリと攻撃したと思しき末尾の文章といい、柄刀さんの妙なテンションの高さが不思議なムードを醸し出す、なかなかの名「怪」説だと思います。
高木 彬光

今回は、グッと硬派に、高木彬光さんの本格派法廷ミステリ「破戒裁判」を読みました。さすがに大御所が仕事を半年間断って取材をしてまで書いた作品だけあって、重厚かつ精緻。傑作の名にふさわしい内容です。
演劇者くずれの男・村田は、愛人とその夫の殺人及び死体遺棄の罪で起訴される。その犯行は、殴殺した死体をさらに列車に轢断させるという残酷なものであった。村田は過去において劇団を金銭トラブルで退団したり、軍隊でも素行が悪かったことなどから裁判官の心象も悪く、有罪は免れないかに思われた。しかし、村田を弁護する若き辣腕の百谷弁護士は、表面に見える出来事に隠された真実を暴いていく。そして明らかになった真相は、あまりにも意外なものであった…。
日本の小説としては本当に珍しい、全編が法廷シーンのみで進行する本格的な裁判ミステリです。罪状認否から冒頭陳述、検察側と弁護側の証人の召喚と反対尋問の応酬、そして最終弁論とリアリティあふれる裁判の模様が描かれていきます。言ってみれば、ミステリのクライマックス、探偵が犯人を糾弾するシーンが延々と1冊分続くようなもので、会話シーンが多いことも手伝って、異様な緊張感を保ちながら驚くほどに早い時間で読み終わってしまいました。そのかわり、読了後にはぐったりと疲れてしまいましたが。
展開はさながらスポーツの試合を見ているようで、冒頭には弁護側が見事な先制攻撃で検察側の用意した証人をことごとく退け、中盤は検察側の積み重ねる膨大な事実の圧力に押し込まれ、そして最後には弁護側が逆転を狙って起死回生の策にで出る、そんな一進一退の攻防は非常にスリリングです。かといって個々の内容は決して複雑でなく、新聞記者という一歩ひいた目線から書かれているためか、とてもわかりやすいです。
本作は法廷モノとは言いながらも、いかにも被告人に不利な事実であるかに思われた数々の出来事が、角度を変えると全く異なって見えてくるという作劇手法はまさしく本格ミステリのそれ。この作品には神のごとき名探偵は登場しませんが、本格スピリットは確実にこめられていると思います。読んで損なしの傑作です。
ところで、本作には柄刀一さんが解説を寄せられていますが、これがかなりいい味を出しているのです。柄刀さんは生前高木さんとは縁があったとおっしゃって、3つの出来事を上げています。
一つ、「子供のころ、刺青殺人事件を愛読していた」
一つ、「デビュー前に書いた習作を高木さんに送ったが、そのまま送り返されてきたことがある」
一つ、「その時送り返された作品を改稿している最中に、『破戒裁判』の解説を依頼された」
以上3点を持って、「ああ、そして、なんということだろう―、こうした奇縁があるとは」と思い入れたっぷりに語っておられるんですが、なんだか微妙というか、正直言って奇縁というほどではないような気がしてなりません。佐藤友哉さんや西尾維新さんあたりをチクリと攻撃したと思しき末尾の文章といい、柄刀さんの妙なテンションの高さが不思議なムードを醸し出す、なかなかの名「怪」説だと思います。
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