仙石庭園にある広島県の石---特に広島花崗岩について
1 仙石庭園にある広島県の石、「向原石」、「砂谷石」、「羅漢石」、「滝山川石」とは
仙石庭園にある広島県の石は、主に「向原石」、「砂谷石」、「羅漢石」、「滝山川石」です。
(1)向原(むかいはら)石
「向原石」とは、「高田流紋岩」とも言われている流紋岩質溶結凝灰岩で(独法)産業技術総合研究所地質調査総合センター (編) (2015) 20万分の1日本シームレス地質図(2015年5月29日版)の上では、
◎ №93「後期白亜紀の非アルカリ珪長質火山岩類」約1億年前~6500万年前に噴火した火山の岩石(デイサイト・流紋岩類)
とされていて、旧高田郡を中心に広島県内に広く分布しています。野呂山等の高い山の上の部分や仙酔島等もこれです。
(2)砂谷(さごたに)石
「砂谷石」とは、旧五日市町の北側の旧湯来地方(旧砂谷)の石です。旧砂谷の地質の内で、明らかに「砂谷石」ではない河川堆積物と広島花崗岩を除くと、泥岩、玄武岩、斑レイ岩が「砂谷石」ではないかと思います。
① 泥岩:№64「ペルム紀の付加コンプレックスの基質」約2億9900万年前~2億5100万年前に海溝で複雑に変形した地層(付加体)
② 玄武岩:№67「ペルム紀の付加コンプレックスの玄武岩ブロック(石炭紀-ペルム紀)」約2億9900万年前~2億5100万年前に付加した石炭紀-ペルム紀の玄武岩(海底火山を構成していた岩石の一部)
③ 斑レイ岩:№75「ペルム紀の苦鉄質深成岩類(付加コンプレックス中の岩体)」約2億9900万年前~2億5100万年前の付加体中の斑れい岩類
の3種類の岩石、すなわちペルム紀の付加体である泥岩、玄武岩、斑レイ岩だろうと思いますが、暗い茶色の風化したような表面のものと、コバルトブルーの表面のものがあります。何れも、強い磁性を持つ特徴があるのが面白い。
(3)羅漢(らかん)石
「羅漢石」とは、広島県と山口県の県境の名山、羅漢山の石です。羅漢山の地質は
① №77「超苦鉄質岩類(超塩基性岩:蛇紋岩:オフィオライト)」時代未詳の超苦鉄質岩類(蛇紋岩など)
② №158「三郡-周防」約2億3000万年前~1億6000万年
からなっていて、そのうちの山頂付近の蛇紋岩類は、「熱変成橄欖岩」と言われています。
(4)滝山(たきやま)川石(広島花崗岩)及び花壇縁石の議院石
広島県の地質で一番大きい面積を占めているのが、「広島花崗岩」とも言われている
◎ №129「後期白亜紀の珪長質深成岩類」約1億年前~6500万年前にマグマが地下の深いところで冷えて固まった花崗岩質の深成岩
で、仙石庭園にある「広島花崗岩」は、「滝山川石」、「大和石」及び「議院石」です。
広島空港傍にある名勝「三景園」では、広島空港造成時に出たこの地の岩石を使って造園した旨が言われていますので、三景園を飾る庭石群も№129広島花崗岩ではないかと思われます。ただし、東部の花崗岩は細粒かな。
2 仙石庭園の滝山川石
仙石庭園にある滝山川石は、入口標石、瀬戸の島々(32)、苑主の思い(73・74)、黄山(79)です。
これ等の石は、いずれも庵治石のように均質でなく、黒い「あばた」のような暗色包有岩が見られます。アバタは、花崗岩に食い取られた捕獲岩(xenolith、ゼノリス)です。滝山川石に観られる捕獲岩は、同化が進行しているようです。花崗岩は揮発性成分が多く、浸透性が強いので、捕獲岩は本来の組成から変化して花崗岩に近いものになってしまっています。 このような花崗岩中の優黒色部分を、シュリーレンとも呼び、花崗岩体の周縁部には特に多いようです。
また、瀬戸の島々(32)の向かって右側の石には縞模様が認められます。マグマだまりでの結晶集積過程を示す無色鉱物と有色鉱物の濃集層の繰り返しで、堆積岩と同じように級化層ができて、マグマだまり中での重力方向を示しています。ただし、この石は据えるときに向きを変えたようです。
組石の黄山(79)には、園内で一番大きな約24トンの巨石があります。
黄山組石の向かって左側にある石は、縦にゆらゆらと曲がりくねった幾筋かの境界が不明瞭な紋様が見られます。これは、完全に固結する前に、体積収縮でできた隙間に周囲から残液がしみ出すことでできた脈で、豆腐に”す”が入ったものみたいです。しかしながら、この黄山を構成している組石の花崗岩の巨石の一部には結晶が他の部分よりかなり大きい箇所や、不思議な穴が開いた箇所もあり、この箇所はペグマタイト化しているのかなと思われます。
3 「議院石」は、花壇の縁取りに使われている雑割石です。建材に使われるものに比べて質が悪いので安価とも聞いていますが、それでも、広島県を代表する「議院石」が仙石庭園にあることが嬉しいですね。
4 私、幸いにも7月下旬に倉橋島に行く機会がありました。岩石を観察する目的で行ったわけではないので、詳しい調査ではありませんが、広島花崗岩の本場で、直に美しい石に触れることができて幸いでした。
この倉橋島の地質図は、地域地質研究報告「倉橋島及び柱島地域の地質」松浦浩久の報告から抜粋した地質図(桂が浜、納地区
は私が記入)ですが、倉橋島は全島ほとんど花崗岩の島です。
倉橋島の本浦(桂が浜のある地区)に着くと、いきなり奇岩が待っていた。この岩が黄土色をしているのは、苔が枯れ死したためのようです。
桂が浜は神社の石段や灯篭、石橋とみんな見事な広島花崗岩でできている。議院石や桂ヶ浜の説明は、パンフレットで照会します。
平安時代から遣新羅使船、遣唐使船、千石船などの当時最先端の木造船を作ってきたこの地は、今は広島県で最も水のきれいな海水浴場になっています。砂浜に流れ込む浅い綺麗な小川には、大きなチヌが群れていました。