ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBA世界ミニマム級TM 新井田豊vsロナルド・バレラ

2006年03月04日 | 国内試合(世界タイトル)
「風邪で体調が最悪だった」と試合後に語った新井田が、3-0の判定で
何とか4度目の防衛に成功した。

そろそろKO防衛を、というファンの声、過去の世界戦は接戦続きだったため
「はっきりした勝ち方」を求めた新井田、そしてナックル部分が薄くパンチが
効きやすいと言われるメキシコ製グローブの選択。こういった要素が重なり、
ちょっと過剰とも思えるほどKO勝ちを期待された新井田だったが、直前に
体調を崩したことによって、そんなことを考える余裕はなくなってしまった。

いつもはもっとガッシリした体格をしている新井田だが、この日はどうも
体に張りがない。その時点で不安を感じた。それに試合前からの不安もあった。
挑戦者のバレラのビデオやデータがなかなか届かず、謎のベールに包まれていたのだ。

当初の情報では右構えだということだったが、試合が近くなってきた頃にスイッチ
ヒッターだと判明。慌ててサウスポーのパートナーとスパーリングをしたという。
さらに試合の数日前になって、このバレラの兄が元世界王者(IBFミニマム級)の
ミゲル・バレラで、いわゆる「ボクシング一家」の育ちだということも分かった。
これはもしかして、かなり厄介な相手を選んでしまったのでは・・・。
何とも嫌な空気の中、試合のゴングが鳴った。

序盤の新井田の動きは決して悪くはなかった。得意の左パンチがスムーズに出ていたし、
接近戦での連打も相変わらずのキレだ。ところが中盤になって、新井田がはっきりと
顔に疲労の色を浮かべるようになった。更に後半に入ると、ラウンド終了とともに
コーナーへ帰る際の目がどこか虚ろ。そういえば、試合前の検診時、新井田は38度近い
体温があったという。今思えば、熱で頭がボーっとしていたのかもしれない。

しかも、バレラは実にやりにくいボクサーだった。度々スイッチするのもそうだが、
何よりスタミナが豊富で(ラウンド間の休憩中もほとんど椅子に座らなかった)、常に
前へ前へと出てきてしつこく手を出し続けるのだ。技術的な厚みはあまり感じられ
なかったが、体調面に不安がある時には最も嫌な相手だろう。

後半の新井田はバックステップを踏むことが多く、またパンチもほとんど単発になって
いたが、それでも正確性はバレラより明らかに上。ディフェンスの巧さもあり、失点を
最小限に留めることには成功した。

調子が悪いなら悪いなりに、何とかポイントを稼いで勝ちを拾う。こういった技術は、
(最近ではロレンソ・パーラなど)中南米の技巧派チャンピオン達が日本の挑戦者相手に
見せてきたことだが、今回は逆に、日本人である新井田が中南米の挑戦者にそれをやって
のけたわけだ。そう考えれば大したものである。

数々の苦戦を経験してきたことが、新井田のボクシングにとって大きな糧となって
いるのだろう。今回もKO防衛はお預けとなってしまったが、新井田の「負けない
テクニック」は見せることができた。傍目には綱渡り的な防衛を続けているように
見えるかもしれないが、案外「新井田政権」は安定期に入っているのかもしれない。

(それにしても・・・過去に何度も行われてはいるのだが、後楽園ホールで
 世界戦ってのはどうも気分が盛り上がらないなあ。)


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