ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

日本フェザー級TM 梅津宏治vs粟生隆寛

2007年03月03日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
チケットは当日券まで完売、後楽園ホールは超満員。
試合前から、ここまで盛り上がった日本タイトルマッチは、
一体いつ以来だろう。

まずは挑戦者から入場。控え室から、粟生の表情は一貫して固い。
そしてチャンピオンが、たっぷり時間をかけて入場。梅津は満面の
笑みをたたえているが、それは必死に緊張を打ち消そうとしている
表情にも見えた。リングに上がった梅津に、大きな歓声。それに負けじと、
粟生も腕を振り上げてファンを煽る。尋常でない熱気だ。


異様な雰囲気の中、ついにゴングが鳴った。

両者とも動きが硬い。当然だ。こんな空気の中に放り込まれて、
緊張しない選手などいないだろう。観客さえ緊張しているように見える。
ただ違うのは、粟生は手を出し、梅津は手を出さなかったこと。
ガードを固め、体勢を低くして粟生に接近しようとする。予想通り、
乱戦に持ち込むつもりなのだろう。

しかし、それはままならない。出鼻に粟生の右ジャブ、左ストレートが
ビシビシ決まり、なかなか近づくことが出来ない。2ラウンドに入ると
お互い緊張もほぐれてきたようだ。梅津は手数を増やすが、なかなか
綺麗には当たらない。

梅津が頭から飛び込んでくるため、再三バッティングが起こる。
第4ラウンドには、激しいバッティングで粟生の鼻から出血。
梅津も徐々にプレスを強め、いよいよ乱戦の様相を呈してくる。


粟生がKOを予告した中盤。KOを意識してか、粟生も接近戦で
強いパンチを打ち込もうとするが、逆に梅津のパンチも当たる
ようになる。と同時に、距離が近すぎて上手くパンチを出せなくなる
場面が多くなり、押し合いや揉み合いも増えてきた。

7ラウンドに入った。粟生は足を使って、リングを回るようになった。
「4回から6回までにKOする」と言っていた粟生だが、そのラウンドを
過ぎたため、KOを狙うよりも、確実に勝つスタイルに切り替えようという
ことなのだろうか。

しかし、KOチャンスというものは得てしてそういう時に訪れるものだ。
9ラウンド、粟生の強打がついに王者の動きを止めた。一気に襲い掛かる
粟生。しかし梅津も驚異の粘りを見せ、ダウンは免れた。

最終ラウンドは粟生も無理をせず、結局勝負は判定へ。3-0。
まず文句のない粟生の勝利だと思ったが、1ポイント差のジャッジが
いたことには驚いた。


昨年のフランシスコ・ディアンソ戦で、精神、技術の両面でラフファイトへの
脆さを露呈した粟生。今回、梅津の突進に対する動揺は見られず、精神的な
部分では成長を見せたが、それを上手く捌き切ることが出来なかったという
点においては、まだまだ課題を残したとも言える。

一方の梅津。粟生をかく乱するという作戦はある程度成功したものの、
その先の手を打つまでには至らなかった。お互いに消化不良の部分は
あっただろう。


周囲の期待感に見合うだけの試合内容だったかどうかは疑問だが、
お互いの「負けられない」という気持ちが激しくぶつかり合う
試合においては、こうしたことは往々にして起こるものだ。

どんな形にせよ、勝った粟生には未来が開けた。負けた梅津も、
まだ引退はしないという。それも当然だろう。お互い、持っているものを
出し切れなかった。そんな試合を経て、ボクサーはまた一つ
強くなっていくものなのだろう。