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19.12.8 マドリッド協定議定書 国際登録出願制度の概要

2007-12-08 08:17:46 | Weblog
マドリッド協定議定書に基づく国際登録出願の概要

★商標の国際登録とは
 外国で商標を登録するには2つの方法がある。
 第1に、従来からの手続方法で、パリ条約等を利用して各国別に直接出願する方法である。
 第2に、我が国がマドリッド協定議定書に加盟したことにより可能となった手続方法で、各国毎に行わなければならない商標の登録出願手続を、1通の出願書類を日本国特許庁に提出することにより複数国に一括して登録出願することができる手続方法である。

★マドリッド協定議定書の概要
 締約国の特許庁(本国官庁)に出願又は登録されている商標を基礎として、保護を求める締約国(指定国)を明示し、世界知的所有権機関(WIPO)の国際事務局に、本国官庁経由で国際出願を行う。
 国際事務局は、国際登録簿に登録後、指定国へ領域指定の通報を送付する。
 指定通報を受けた指定国官庁が、保護を拒絶する旨の通知を一定期間(1年又は各国の宣言により18か月)内に国際事務局に行わないと、標章の国際登録の日、又は国際登録後の領域指定の記録の日(事後指定日)から、その標章が指定国官庁において、当該官庁による登録を受けていたならば与えられたであろう保護と同一の保護が与えられることになる。

★議定書出願のメリット 

・メリット1 手続の簡素化
 議定書出願では、複数国で権利を取得したい場合、本国官庁(日本国特許庁)に1通の出願書類を提出することにより、複数国に同日に出願した場合と同等の権利を有する。
 また、複数国分の出願手数料の支払いも、国際事務局に一括して支払うことで完了する。

・メリット2 容易な書類作成
 議定書出願では、言語が異なる国に対しても出願等の手続書類は所定の様式に基づき英語又は仏語・スペイン語(日本国は英語のみ)で行う。
 各国言語への翻訳は必要ないため、国毎の指定商品(役務)の把握が容易になる。

・メリット3 権利管理の簡便化
 議定書制度では、国際事務局における国際登録簿により権利関係は一元管理されている。よって、各国毎に存続期間の更新や所有権の移転、名称変更申請等の手続を行う必要はない。

・メリット4 経費の削減
 各国別に直接出願する場合は、各国が求める態様の出願書類の作成が必要なため、各国の代理人の報酬や翻訳等の費用が必要になる。
 議定書出願は、拒絶理由が発見されずに登録になる場合は各国の代理人の選任は不要なため代理人費用は発生しない。
 指定国で拒絶理由が発見され、その国で再審査等を行う場合にのみ、その国の代理人の選任は必要となり費用が発生する。

・メリット5 迅速な審査(拒絶通報期間の制限)
 議定書出願では、指定国官庁が拒絶理由を発見した場合の国際事務局への通報期間を1年(又は18ヶ月)以内に制限している。
 各国毎に直接出願をする場合には、このような審査(拒絶)期間の制限のない国もあるので、議定書出願を行うことにより各指定国での審査が迅速に行われる場合がある。

・メリット6 締約国の事後指定による保護の拡張
 事後指定の手続により、出願時に指定しなかった締約国はもとより、出願後に新たに加盟した締約国についても保護の拡張を求めることができる。
 また、出願時に特定の国に対し商品(役務)を限定的に指定した場合でも、国際登録の範囲内であれば指定しなかった商品(役務)を追加することができる。

★国際登録出願の対象

(1)対象となる標章
 国際登録出願の対象となる標章は、我が国の特許庁(本国官庁)に係属している自己の商標登録出願若しくは防護標章登録出願(基礎出願)又は自己の商標登録若しくは防護標章登録(基礎登録)を基礎とする必要がある。

(2)指定商品及び役務の範囲
 国際登録出願で指定可能な商品及び役務は、上記の基礎となる出願又は登録されている商標で指定している商品及び役務と同一又はその範囲内であることが必要である。

★国際登録出願の出願人

(1)国際登録出願をすることができる者は、日本国民又は日本国内に住所又は居所(法人にあっては営業所)を有する外国人である。

(2)2人以上の出願人がいる場合には、出願人全員が前記(1)の要件を満たしていることが必要である。

★国際登録出願の効果

(1)本国官庁を経由して国際事務局へ提出された国際登録出願は、原則として本国官庁への提出日が国際登録日としてみなされる。[議3条(4)、法第68条の9]
 ただし、国際登録の事後指定は、国際登録簿に記録された事後指定の日にされた国際登録出願と認定される。[議3条の3(2)、法第68条の9]

(2)議定書は、国際登録について、出願人が工業所有権の保護に関するパリ条約に基づく優先権を主張する場合、パリ条約第4条Dに定める手続に従わなくても優先権を享有することができる旨定めており、通常の商標登録出願について行うべきパリ条約に基づく優先権主張及び優先権証明書の提出の手続を行う必要がない。[議4条(2)、法第68条の15第1項]

★国際登録出願の言語

(1)出願の言語
 国際登録出願で使用する言語として認められる言語は、本国官庁により定められる。[規則6(1)(b)]
 日本国特許庁が定めた言語・・・「英語」[法施規様式第9の2備考4]

(2)国際登録出願以外の通信の言語
 国際事務局と日本国特許庁(本国官庁)間の言語・・・「英語」[規則6(2)(b)(iii)]
 国際事務局と出願人又は名義人間の言語・・・「英語」
 ただし、当該出願人又は名義人が国際事務局へ通信の言語を、英語又は仏語若しくはスペイン語にする旨を願書に表明したときは表明した言語となる。[規則6(2)(b)(iv)] 

★国際登録日

(1)本国官庁が受理した日による国際登録日
 国際登録出願は本国官庁から国際事務局へ提出する。[議2条]
 国際登録出願の受理日は、本国官庁が実際に国際登録出願を受領した日となる。すなわち、日本国特許庁に国際登録出願の書面が到達した日をもって本国官庁の受理日となる。[議3条(1)]
(注)商標法第77条第2項では、願書等の提出の効力発生時期を規定する特許法第19条の適用について、国際登録出願については準用していない。また、マドリッド協定議定書に基づく特例を規定する商標法第7章の2中には、国際登録出願の願書の効力発生時期についての特例が規定されていない。
 国際事務局が国際登録出願を、本国官庁が受理した日から2ヶ月以内に受理したときは、本国官庁が受理した日が国際登録日となる。[議3条(4)]

(2)国際事務局が受理した日による国際登録日
 国際事務局が国際登録出願を、本国官庁が受理した日から2ヶ月以内に受理しなかったときは、国際事務局が受理した日が国際登録日となる。[議3条(4)]

★国際登録簿

 国際事務局は、国際登録出願が議定書及び同規則に定める要件に合致すると認めた場合には、標章を国際登録簿に登録し、国際登録について指定国の官庁に対して通報するとともに、本国官庁へ通知し、かつ名義人に証明書を送付する。[規則14(1)]

★国際登録の存続期間

 国際事務局による標章の登録は、国際登録日から10年間にわたって効力を有し、議定書第7条に規定する条件に従い更新することができる。[議6条(1)]
 なお、更新の手続も国際登録出願と同様に、1回の更新申請で各指定締約国に反映させることができる。

★指定国官庁による審査[議5条(2)(a)、(b)]

 指定国官庁は国際事務局による「領域指定」の通報日から1年(又は各国の宣言により18ヶ月)以内に、その対象である標章に保護を与えることができないことを「暫定的拒絶の通報(日本における拒絶理由通知に相当)」により行うことができる。
 上記の期間内に「暫定的拒絶の通報」が発出されない場合には、当該指定国では登録になったものとみなされる。

★事後指定の概要

 事後指定とは、国際登録出願が国際登録された後に、新たに「領域指定」として指定国を又は指定商品(役務)を追加することができる制度である。
 ただし、指定国の追加は議定書加盟国のみですが、国際登録出願のときに指定しなかった国はもとより、国際登録出願後の新規加盟国(事後指定提出時には加盟済)も追加することができる。
 また、指定商品(役務)の追加は国際登録簿に登録されている商品(役務)の範囲と実質的に同一又はその範囲内で追加することができる。

★事後指定の日

(1)本国官庁が受理した日による事後指定の日
 国際事務局が事後指定を、本国官庁(日本国特許庁)が受理した日から2ヶ月以内に受理したときは、本国官庁が受理した日が事後指定の日となる。[規則24(6)]

(2)国際事務局が受理した日による事後指定の日
 事後指定を名義人が直接国際事務局へ提出したときは、国際事務局が事後指定を受理した日となる。
 事後指定を、本国官庁(日本国特許庁)が受理した日から国際事務局が2ヶ月を経過して受理したときは、国際事務局が受理した日となる。[規則24(6)]

★事後指定の効果

 国際事務局は、国際登録後に提出された事後指定が適用される要件を満たしている場合には、国際登録簿に記録し、事後指定において指定された指定国にその旨を通報し、かつ、同時に名義人、及び当該事後の指定が本国官庁によって提出された場合には、本国官庁に通知する。[規則24(7)]
 各指定国では、事後指定の日にその国に直接出願した場合と同等の効果が発生し、事後指定の通報日から1年(又は18月)以内に拒絶の通報を行わない場合は、当該指定国の国内登録と同一の保護を受ける。

★事後指定の有効期間

 事後指定により追加した指定国又は指定商品(役務)の有効期間は、その国際登録出願における国際登録日から10年となり、事後指定日からは起算されない。

★セントラルアタック(国際登録の従属性)の概要[議6条(3)、(4)、規則22(1)]
 セントラルアタックとは、国際登録出願の基礎出願又は基礎登録が、国際登録日から5年の期間が満了する前に拒絶、放棄、無効等となった場合には、国際登録出願により指定された商品(役務)の全部又は一部についての国際登録が取り消され、その結果として指定国における国際登録の効果も当該取り消しに係る範囲内で失効するという制度である。
 なお、セントラルアタックによって国際登録において指定された商品(役務)の全部又は一部が取り消された場合において、指定国に一定の条件を満たす商標登録出願(直接出願)を行えば、国際登録日(又は事後指定の記録日)に出願が行われたものとみなされる。
 また本国官庁は、セントラルアタックの事実を確認したときには、国際事務局に通報する義務を負っている。

★セントラルアタックの手続

(1)本国官庁
 本国官庁は、国際登録出願の基礎出願又は基礎登録が、国際登録日から5年の期間が満了する前に、以下の事由が発生した場合には、国際事務局へセントラルアタック通報を行う。(出願人には、事前に通報内容を通知する。)
 拒絶、無効、取り下げ、放棄が確定
 拒絶査定不服審判が請求され、拒絶が確定(5年経過後を含む)
 異議申立・登録無効(取消)審判が請求され、商標権が取消(5年経過後を含む)
 指定商品(役務)が補正により減縮

(2)国際事務局
 国際事務局は、本国官庁からのセントラルアタック通報に基づき国際登録簿に記録し、指定国及び名義人へ以下の内容を通報する。
 国際登録簿から取り消した日
 取り消された指定商品(役務)

(3)指定国官庁
 国際事務局からのセントラルアタック通報に基づき、指定商品(役務)の全部又は一部を取り消す。

(4)名義人
 セントラルアタックによって指定商品(役務)の全部又は一部が取り消された場合は、名義人は、取り消された指定商品(役務)に関して指定国へ商標登録出願を行うことができる。その際に、下記の要件を全て満たす場合には国際登録日(事後指定の記録日)にされた商標登録出願とみなされる。
 また、国際登録出願について優先権を主張していた場合には商標登録出願にも優先権が認められる。
 商標登録出願が国際登録の取消された日から3ヶ月以内に行われること
 取り消された指定商品(役務)と商標登録出願の指定商品(役務)が実質的に同一であること
 指定国で定める商標登録出願の手数料を支払うこと

★国際登録の独立性[議6条(2)]

 国際登録は、当該国際登録の日から5年の期間が満了したときは、セントラルアタックで失効になった範囲を除くほか、基礎出願による登録又は基礎登録から独立した標章登録が構成される。

★セントラルアタックの効果
 議定書制度を利用して各国で登録になっている商標を取り消す場合には、基礎出願(登録)のある本国官庁への1つの手続で複数国に対して手続を行った場合と同様の効果を得ることができ、手続面、費用面で、格段のメリットがある。

★国際登録から5年経過時に異議申立や無効審判等が係属中の場合
 異議申立や無効審判等により、5年の期間満了後において権利が消滅した場合においても、セントラルアタックの適用の対象となる。

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