毎日新聞 社説 2007年08月24日(金曜日)付
日印関係 戦略的協調への第一歩に
アジア歴訪中の安倍晋三首相はインドのシン首相との会談で、政治、経済、安全保障、地球環境問題などでの連携を確認した。
国際社会の中で存在感を増しているインドとの関係を強化することは日本のアジア外交の幅を広げる観点から意味がある。しかし、多面的な外交を繰り広げるインドと付き合っていくには日本にもしたたかな戦略的視点が必要なことを忘れてはならない。
インドはIT産業の急速な発展を軸に経済成長を続けている。昨年のGDP(国内総生産)成長率は9%を超え、アジアでは日本、中国に次ぐ3番目の経済規模だ。世界第2位の人口を抱え中間所得層も拡大している。
安全保障面でも、インド洋は中東原油の日本への輸送ルートであるシーレーン(海上交通路)の安全確保のうえで重要な位置にある。緊密な協調が必要な相手だ。
しかし、最近まで両国の関係は緊密とはいえない状態が続いていた。人の往来をみても、日中間に比べると35分の1、航空便数は61分の1とかなり見劣りする。
今回の首脳会談のポイントは二つあった。地球温暖化対策と、インドと米国が合意した民生用核協力協定への対応である。だが、この二つの課題について目を引く成果があったとは言えない。
地球温暖化問題で安倍首相は、世界全体の温室効果ガスの排出量を2050年までに現状比で半減させるという「美しい星50」構想を説明した。実効ある温暖化対策を進めるには二酸化炭素(CO2)の排出量が世界5位のインドを取り込まなければならない。
安倍首相の協力要請に、シン首相は「ポスト京都議定書」の枠組み参加に前向きに応じたものの、先進国と同じように削減義務を負うことには慎重姿勢を崩さなかった。環境と経済の両立をタテに温暖化対策に消極的なインドを巻き込むにはさらに知恵を出す必要がある。
インドと米国の民生用核協力についてシン首相が日本の支持を求めたのに対し、安倍首相は明確な支持表明を避けた。インドは核拡散防止条約(NPT)に参加していない核保有国である。日本は核兵器の廃絶を目指す立場だ。イランや北朝鮮の核開発を非難しているのだからインドの核兵器保有を認めるわけにはいかない。
安倍首相はインド国会での演説で「拡大アジア」という新しい概念を打ち出した。自由、民主主義、基本的人権といった価値観を共有する日本と米国、豪州、インドの連携を訴えたものだが、この構想の裏側には中国けん制の狙いがみえみえだ。
だが、全方位外交のインドは中国との関係強化も図っており、一筋縄ではいかない。安倍首相の狙い通りに「反中国価値観」で実を結ぶほど単純な話ではないだろう。今後の日本のアジア外交には、対中国と対インドの効果的なバランス関係を考慮し、拡大アジアの中でどういう役割を果たしていくかということこそが問われる。
毎日新聞 2007年8月24日 0時15分









