記録「白井喬彦」
Takahiko Shirai Blog



韓昇助論文に触れたサイトはたくさんあるが、その多くについては、内容に大差は認められなかったといえよう。けれども、「ジャムシードの酒盃」というブログだけは、韓昇助氏の執筆動機が、「(今回の立法によって)都合が悪くなった人々が、対日ロビーで日本政府を動かしたかった」ところにあると指摘している点で、他のサイトとはまったく異質の意見であるように感じられた。異質というべきその要点の箇所を次に示す。

「(韓昇助(元)教授の)寄稿文がターゲットにしている法案をわかりやすい日本語でいえば「公文書公開法案」です。民主化された政府が、軍事政権下でのさまざまな国民弾圧と、軍事政権がどのような重層化された社会構造下で権力と富を独占してきたか(これが親日)を公文書で公開するものです。韓昇助(元)教授の「正論」「』への寄稿文(なぜ韓国国内でなく日本なのか?ぐらいは考えるべきでしょう)の目的は、「公文書公開法案」で都合が悪くなった人間が、対日ロビーで日本政府を動かしたかっただけです。(「ジャムシードの酒盃」から、「話題の韓昇助」)」

これを読んで私は「へぇ〜、そうだったの?」と驚いた。問題の法律は「日帝強占下 反民族行為真相究明に関する特別法」という名称である。私としては、ここで「日帝強占下」といっているのは、日本が大韓帝国を併合した植民地にしていた時期(1910-1945)のことだろうと、いとも単純に考えていた。

しかし、上掲の「ジャムシードの酒盃」の説くところによれば、「日帝強占下」という中には韓国における「軍事政権下」、つまり、朴正熙政権(1917‐1979、政権期間 1961-1979)と全斗煥政権(1931‐ 、政権期間 1980-1988)が対象となり、場合によっては盧泰愚政権(1932‐ 、政権期間 1988-93)までもが含まれるというわけだ。果たして「ジャムシードの酒盃」のこの説は正しいのだろうか。

確かに、朴正熙政権以降、日本の各企業は互いに競い合って韓国経済に深く関与していった。日本から韓国への経済援助という「旨い汁」があったからだ。韓国人の中にも、その仕組の中でうまく立ち回り、権力と富を独占した人々がいたことは事実である。しかしながら、そういう人々をも「親日派」と呼んで、反民族行為をしたと糾弾するのであろうか。

金泳三政権時代に入ると、軍事政権時代に対する歴史的再評価と清算が進められ、全斗煥と盧泰愚に対し光州事件などの責任が追及された。裁判の結果、彼らはいずれも重刑が科せられた。全斗煥が侘しく山に篭もる当時のテレビ映像を思い浮かべると、韓国の人々は彼らを決して許していないということ ― いわば「民族の意志」といったもの ― が改めて強く感じられるのである。

けれども、「日帝強占下」という語句に「軍事政権下」をも含めるのは、私にはどうしても解せない。「日帝強占下 反民族行為真相究明に関する特別法」の原文はどうなているのか、ぜひ調べてみたいと思った。そこで、まず日本語訳の所在を当ってみたが、駐日韓国大使館のウェブサイトでは見つけることはできなかった。

しかし、部分訳を試みているサイトを見つけたので、以下にその部分訳(私が幾分手を加えた)を紹介しておくことにしたい。結論的にいえば、「日帝強占下」とは、厳密には「日本が大韓帝国を併合した植民地にしていた時期(1910-1945)」のことである。

けれども、立法の背景には、「植民地時代の人的遺産を活用しながら国家建設や経済発展を成し遂げてきた保守層を「親日派」として否定する意図がある」(「はてなダイアリー」)とする説もあるようだ。「ジャムシードの酒盃」の説は、このような含みのある立法背景を強調して言っているのかもしれない。



日帝強占下 反民族行為真相究明に関する特別法
(冒頭部のみ暫定訳)

第1条(目的)
この法律は、日帝強占期とこれを前後した時期に、日帝に附逆(訳注:悪に加担すること)して反民族行為をおこなった者に対し、その行為と罪状を明らかにするよう糾明し、国家の公式記録を残し、これを後世の教訓にすることにより、憲法の精神を守り、民族の伝統性を守護するとともに、社会正義の具現に寄与することを目的とする。

第2条(定義)
この法律において「親日反民族行為」とは、次の各号に該当する行為をいう。

  1. 旧韓国末、日本政府と通謀して韓日合併に積極協力し、あるいは韓国の主権を侵害する条約または文書に調印し、あるいはこれを謀議した行為。
  2. 日本政府から爵位を受け、あるいは日本帝国議会の議員となった行為。
  3. 日帝下において、独立運動者やその家族を悪意をもって殺傷し、あるいは迫害を加えた行為、またはこれを指揮した行為。
  4. 日帝下において、中枢院の副議長、顧問、または参議となった行為。
  5. 日帝下において、勅任官以上の官吏となった行為。
  6. 日帝下において、密偵行為をおこない、独立運動を妨害した行為。
  7. 日帝下において、独立を妨害する目的の団体を組織し、またはその団体の首脳幹部として活動した行為。
  8. 日帝下において、郡警察の官吏として悪質な行為により、民族に危害を加えた場合。
  9. 日帝下において、飛行機、兵器、弾薬など軍需工業を責任経営した行為。
  10. 日帝下において、道、府(市)の諮問、または議決機関の議員になった者で、日帝に阿附(訳注;媚びへつらうこと、おもねて付き従うこと)してその反民族的罪跡が顕著な場合。
  11. 日帝下において、官公吏になった者でその地位を悪用し、民族に害を加えた罪跡が顕著な場合。
  12. 日本の国策を推進する目的で設立された各団体本部の首脳幹部として指導的行動をした場合。
  13. 日帝下において、宗教、社会、文化、経済、その他各部門において、民族的精神と信念とに背き、日帝がその施策を遂行するのに協力し、悪質で反民族的な言論と著作およびその他の方法で指導した行為。
  14. 日帝下において、個人として悪質的な行為をおこない、日帝に阿附して民族に危害を加えた場合。
  15. 日帝下において、高等官三等級以上、あるいは勳五等以上を受けた官公吏、または憲兵、憲兵補、あるいは高等警察の職に就いた場合.
  16. その他、大統領令で定めた行為。

第3条(委員会の設置)
親日反民族行為に対する真相糾明事務を遂行するため、大統領の直属下に親日反民族行為真相糾明委員会(以下、「委員会」という)を置く。

第4条(業務など)
  1. 委員会の業務は次の各号の通りとする。

    1. 親日反民族行為の対象と基準の策定
    2. 親日反民族行為者の親日反民族行跡に対する調査
    3. 親日反民族行為者に対する史料の編纂
    4. 親日反民族行為に対する真相糾明と、関連ある非営利民間団体の支援与否など、委員会規則が定める事項の処理
    5. その他、大統領令が定める事項

  2. 委員会は第1項の業務を遂行するために、国家機関、 地方自治体、その他関連機関や団体に、必要な資料の提出および事実照会などの協助を要請できる。

  3. 第2項の規定により委員会から協助要請を受けた国家機関などは、特別な事情がない限り、これに応じなければならない。
(以下、省略)


なお、「日帝強占下 反民族行為真相究明に関する特別法」という日本語は「朝鮮日報」の翻訳が始まりらしいが、ここで「究明」は「糾明」の誤訳であるという指摘もあるようだ。


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