はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

宝探しの過去と現在

2006-07-15 23:16:06 | マンガ
激しい雨が路上に叩きつけていた。頭上で爆発でもしたように、雷の音が近くに聞こえた。
店の前に自転車を止めると、半分がた濡れてしまったバッグを肩にかけた。傘を畳んで入り口の傘立てに入れると、急いで店内に入った。
チャイムが鳴ったが店員の声は聞こえなかった。マットの上で足踏みし、身震いして雨粒を飛ばし、ハンカチで腕を拭いた(それが仁義というものだ)。間隔の狭い書棚の間にマンガのコーナーを探した。
違う。
これも違う。
上から順に、背表紙を眺めていく。見慣れたタイトルの色やフォントを瞬間的に視界から弾き飛ばしながら、高速で作業を進める。それはゆっくりとしたスクワットにも似ていた。
ぞくりとしたのは雨のせいか、感動か。3度目のスクワットの最中、書棚の中央にその本はあった。

中学高校と、古本屋巡りが趣味だった。
一般の書店で買うよりも安価にマイナーな書籍が購入できる点が、なんだか宝探しのようで楽しかった。
家から20キロ圏内の書店は、すべて自転車で制覇した。時に何十キロもの遠征に出たこともあるが、そういう時はかえって成果が上がらなかった。文化の密度からいっても、市内を出て市外へ向かう利点はあまりなかった。
やり方は人によって異なるのかもしれないが、俺の場合はいくつかのタイトルや作者名を頭の中に思い描いていて、なじみの店舗をローテーションしながらピックアップしていく。なければ純然たる宝探しに移行する。といった手法をとっていた。
「でもホントはカバが好き」というマンガがある。作者は桐嶋たける。気の抜けたようなタイトルだが、俺が探したマンガの中で、もっとも手を焼いた作品だ。何せ探し始めた時点で絶版になっていた。さらにマイナーなタイトルなので購入者自体が皆無に近く、古本としての絶対数も知れていた。
一緒に古本屋巡りをした同胞も同じ本を探していたが、探し当てる前に高校を卒業し、上京してしまった。
ある日、ある豪雨の日に俺はその本を探し当てた。狭い路地に隠れるようにして建っていた未踏査の古本屋の書棚の中央に、ひっそりとしてあった。
「でもホントはカバが好き」を手にとりながら、東京にいった同胞に発見の報告をした。携帯越しに同胞の悔しがる声が聞けるだろうと想像し、俺は得意になっていた。だが、反応はつれないものだった。
「そうなんだ」という言葉に、「まだそんなことやってるの?」というような、冷めたニュアンスを感じた。

amazonで本を注文しながら、ふとそんなことを思い出した。
窓の外はあの日と同じような豪雨で、俺は風邪をひいている。
ネットを通じてどんな本でも手に入る時代に、そんな昔のことを思い出した。

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