瀬崎祐の本棚

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詩集「もう 誰も問わない」  池田實  (2007/01)  ふらんす堂

2007-08-20 22:21:24 | 詩集
 自分の個人誌「ポエームTAMA」に発表した22編を収めて117頁。あとがきには、「私はこれらの詩によって何かを主張し、何かを求めているのではない。詩集という場所に、『私』の世界それ自体としての『もの』を置いたのにすぎない。」とあった。自らの意図は放棄して、とにかく作品を置いたから、好きなように読んで欲しい、ということであろう。
 作品はあくまでも硬い。哲学的とさえ言えるような硬派の作品である。だから、じっくりと読まなくてはならないという気になってくる。どの作品も個人的なことからは遠く離れて、社会的な事柄に対する批判の精神に貫かれている。

   今世界は不明の未来に開かれ
   根源的な不安に青ざめている
   発狂する神話
   黒い死児を産み続ける寓意
   それでも未生のものたちの時間が
   静かに開示されていく
           (「未生のものたちへ」最終部分)
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衣  11号  (2007/07)  栃木

2007-08-19 21:09:54 | 「か行」で始まる詩誌
 「独楽」相場栄子。「独楽」といえば、あまりにも有名な高野喜久雄の詩を思い浮かべてしまう。あの作品では、回転する事によって立ちつくしている独楽の無聊が詩われていたが、この作品では、独楽がついに回転を止めて倒れるときについて書かれている。たしかにどんな人の行ないも、いつかは終わるときがやってくる。そこへの着目が新しい。

   止まり際のしたたかな動きと
   不安定な揺れは
   終焉することへの未練なのか
   それとも迷いなのか
   愛情が消えては残る

この「愛情が消えては残る」の1行が作品の流れの中でふっと湧いてできており、非常に効果的でもあり、作品の奥行きをぐっと広げているように感じられた。
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多島海  11号  (2007/05)  兵庫

2007-08-19 21:08:58 | 「た行」で始まる詩誌
 瀬戸内海周辺に住む4人が集まった同人誌。B6版の少し小ぶりな体裁で40頁。詩の他にエッセイ、翻訳も掲載している。

 「タビビトノキ」江口節。調べてみると、「旅人の木」というのは実在していた。バショウ科の植物で、マダガスカル原産、大きくなると20メートルにもなるらしい。そんな木のことを米を研いでいるときやポストに走るときに思い出すのだ。それは、日常生活の些細な場面で、こんなときに道しるべがあったら、という無意識の願望があるからなのだろうか。遠い異国の地で、旅人の木を求める人々はどんなときに願望したのだろうか。想像力がふわーっと大きく広がる作品。

   地球をゆっくり回ってきて
   大陸の端っこのちいさな島の
   黄砂にかすむ街の端の
   かわいた眼球をこする人の
   かわいたあたまも
   かわいた空も       (最終部分)
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詩集「花ものがたり」  林嗣夫  (2007/07)  ふたば工房

2007-08-17 23:20:51 | 詩集
 詩誌「兆」に連作として発表していた作品29編を収めている。126頁。
 花そのもののイメージからはじまる物語もあるし、物語の背景に咲いている花もある。たとえば「水仙」では、たそがれ時になると幻想にとらわれる母が詩われる。誰も来ていない家のなかを捜す母を私は抱きしめるのだが、

   そのとき
   立ちすくむわたしに代わって
   母を抱きに来たものがあった
   開けっぱなしの玄関から忍び込んできた
   水仙の香りである

花の香りがすべての悲しいこと、切ないことを包み込んでいってくれる様に、はっとする。花にはそれだけの力がある。
「アサガオ」「手紙」「菜の花」「梅花幻想」については、詩誌発表時にすでに感想を書いた。
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逆光  64号  (2007/07)  徳島

2007-08-17 23:19:42 | 「か行」で始まる詩誌
 「さくら 桜 サクラ」宮田小夜子。端的に言って、支離滅裂な詩、である。ただ、その支離滅裂さが、さまざまな事象を重ね合わせているように変化していって面白い。国民学校の「さいた さいた さくらがさいた」から始まり、「サクラ チル」になり、梶井基次郎を思い、それらの学校教育の変遷を思っている。

   この痛みはどこから来るのか
   じくじくと いたみ
   傷みを悼み
   さくら咲くもサクラ散るもない

桜から想起される事柄をとりとめもなくつづっていったら、自ずからひとつの方向へ思念が向いていったというのだろう。我が国の教育の歴史に対する苛立ちが、支離滅裂な作品を陰ですっと支えている。
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