瀬崎祐の本棚

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詩集「遠葬」  萩野なつみ  (2016/09)  思潮社

2016-10-08 19:06:00 | 詩集
 第1詩集。111頁に21編を収める。高貝弘也、杉本徹の栞が付いている。
 作品は4つの章に分けられており、晩夏から始まり、秋および冬、春をめぐり、ふたたび夏へ戻ってくる。季節の巡りに鋭敏に感応しているのだが、それは、どこか抗うことのできないものの中で佇んでいる様を思わせる。巡ってきた季節の中で、「百葉箱のしろさ」や「見知った指」を視て、「くたびれた尾びれ」に触れて、今の時刻に必死に耐えているようなのだ。
 「水脈」では、「くるぶしを舐めれば/ひやりとしてい」るという。おそらくあなたの中に水の流れがあるのだろう。話者はその流れに身を委ねたいのかもしれないのだが、「わたしには尾びれはな」いのだ。町にも何かが流れているようで、

   もうなくしたもののため
   ひとはひとの水脈に添う
   裂かれて
   また満ちて
   言葉は鱗となり
   その軌跡のはるか底に
   ねむるいくつものあしさき

 話者は、水脈を持つあなたに、せめてもの言葉を発してかなしいまでにただ寄り添っている。
 それぞれの季節では葬るものもある。そして葬ることはそれを赦すことでもあるようだ。作品名には「遠葬」をはじめとして、「雪葬」、「春葬」、「夏葬」、そして「葬列」があり、「pray」もある。
 「雪葬」では、「しろく、わたしは赦していた、あきらめていた」という。雪景色は色を失い、わたしの身体も熱を失っているのだろう。やがては言葉も失われていくのかもしれない。

   反射する音階はふるえ
   わたしのあしうらをとどめる
   高みへとのぼる煙が
   もどらぬために地平はひろがり
   名はそうして
   手向けられるのを待っている
   果てなく、

 季節の中で体温とともにあなたとの繋がりも失ったような冷え冷えとした空気感が漂っている。
 このように、収められたどの作品も、すばらしく張りつめた言葉が感覚神経をふるわせているようであった。最後に「花信風」のはじまりを紹介しておく。

   あなたの

   わずかに伸びた爪から船が発つ気配がして、背骨をさぐる。そこここに点在するうつろな
   呼気の裂け目に足をひたせば、近く、真昼の葉ずれのような声で渡される無彩色の分かれ。
   舌にのせたままの明星を合わせて、うすくわらうあなたの、まなうらに明滅する春にいる。

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