瀬崎祐の本棚

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詩集「音をあたためる」 徳弘康代 (2017/08) 思潮社

2017-10-22 23:11:41 | 詩集
 第4詩集。91頁に21編を収める。
軽妙な独特の理屈が作品には流れている。いろいろな事柄にそうして説明をつけ、自分の世界として成立させようとしているようだ。表面上は些細なことについて述べながら、何かしらが隠されているような、そんなワクワク感もある。

 「おとしましたよ」は、どこかとぼけたような味わいの作品。かたいっぽうのてぶくろが落ちたのだろう、降りた人が乗った人にドアごしにさしだす。なんでもない光景だが、離れる運命だったものがちょっとしたことで一緒に運命を全うすることになる。

   朝の地下鉄で
   車掌さんは
   手渡されるまでの
   ほんの二秒間
   ドアを閉めるのを
   おくらせる

 次の作品「左手」も面白い。右手と左手がそれぞれの意志や自我を持って動いている。今日の左手は頑張ってくれるので、右手は「明日もちょっと楽できる/と思っ」たりするのだ。世界のできごとを、尺度を変えて眺めているような楽しさがある。

「約束」は、詩誌「二兎」で遠野物語の特集を組んだときの作品。「さきにしんだほうが/のこったほうのしぬときに/むかえにくることにしませんか」と約束をしている。そんな約束をしておけば、死ぬことも単純に楽しみになるのかもしれない。二人はいっしょに「月の裏側 とか/えいえんの五月の芝生の上 とか/ねごこちのいいベッド とか」に行くのだ。でも、これから死ぬことと、もう死んでしまったことを、どうやって見分けるのだろう。誰がもう死んでいるのだろう。

   まだ なまえをよばれない
   たましいたちが
   あちらこちらで
   たのしい再会を
   おもいながら
   さんぽしている

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