瀬崎祐の本棚

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詩集「こんなもん」  坂多瑩子  (2016/09)  生き事書店

2016-09-26 14:29:41 | 詩集
第5詩集。B6版、107頁に26編を収める。高橋千尋のユーモア溢れる怖ろしいカバー絵が、詩集タイトルと相まって印象的だ。
「おせっかいな奴ら」の冒頭に「部屋にいると/おばけの匂いばかりしてきて/まとわりつかれるのはいやだから」とある。しかし、この詩集はおばけにとりつかれて書かれた作品ばかりのようなのだ。そのなんとも嫌な、それでいてどこか懐かしいような、独特の肌触りが魅力的である。
 「魚の家」。砂場で砂を掘っているといつのまにか海の底で、「父の/もう/とけてしまった骨の/すきまから/小さな魚が生まれてい」たのだ。「二度も道に迷って/家に帰」ると母は「魚の頭を落としてい」たのだ。

   卓球台のある
   へやに
   父の写真が飾ってあり 
   頭のない魚が行儀よく並んでいた

 生臭い魚が話者の(頭の)中にまとわりついている。あたしが帰ってきた家は誰の家なのだろうか。いや、あたしは誰なのだろうか、何なのだろうか。
先に挙げた「おせっかいな奴ら」では、家の中でだれかが食べたりだれかが寝転んだりしている。それは、もうとっくにいなくなった親戚の人らしいのだ。

   だれもいないのに
   だれかが
   あたしをのぞきこむ
   母さんはもういないよ
   聞きもしないのに
   教えてくれる

 お化けだろうが、超常現象だろうが、異界だろうが、名前はどうでもよいのだが、そういったものが作者にとっては”こんなもん”なのだろう。その”こんなもん”につづく言葉は、どうでもいいわ、なのか、それとも、珍しくもないけど、なのだろうか。
 「なまえ」、「庭」、「いもうと」、「従姉」については詩誌発表時に感想を書いている。
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