瀬崎祐の本棚

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詩集「みんなを、屋根に。」  阿部嘉昭  (2012/11)  思潮社

2012-12-17 23:03:03 | 詩集
 オンデマンドで発行された詩集。145頁に42編が収められている。A5版を少し細長くした変形版のソフト・カバー。装幀もしっかりしていて、オンデマンドの出版物から連想するようなチープさはない。
 どの作品にも自己完結をしようとする言葉が続く。たとえば、

   ひとりに多くの
   なまえを呼んでみた。
   身に幾つかの年齢がある、
   このことが胸と胸をあわせ
   雨どいにひびいていった。
                (「生きていたころ」より)

   ひかりのあふれすぎている午後
   ぼくらは秒針のようなものを
   みずからにうしない立ち往生して
   みずみずしい桃をすすりあげる
                (「なみだ」より)

 これらの言葉の向かう先に、作者は他者を思ってはいないのではないだろうか。だからこれらの言葉もこちらに働きかけてくるようなことはしない。ただ、そこに置かれている。それなのにたしかに他者に届く言葉になっている。それはかなり大したことだと思える。
 「海辺の一日」。抗うことのできない時間に対しては諦観があるわけだが、「しずもって出される腕には/だらしなくひろがる水が/今日として抱えられるがよい」という。

   呑むと塔のうえに十字架がみえる
   ひとののどぶえだ
   おんなとは浪でつながれて
   ゆうぐれのように生きている
                 (最終連)

 最終行は作品中に3回くり返されてきたのだが、「ゆうぐれのように」という直喩は、これは自らが変容した「ゆうぐれが」ともとれるし、目的としての「ゆうぐれを」ともとれる。
 表現しようとしている感情が淡泊である。だからかえって作品に飽きがこない。全体に漂っている寂寥感のようなものも魅力の一つとなっている。
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