狼魔人日記

沖縄在住の沖縄県民の視点で綴る政治、経済、歴史、文化、随想、提言、創作等。 何でも思いついた事を記録する。

薬害肝炎訴訟団の主張に「理」はあるか?【追記】情に棹差した首相

2007-12-23 07:25:35 | 県知事選

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薬害肝炎和解協議 被害者要求に最大限配慮を

 なぜ原告側が命の線引き拒否にこだわるのか、福田康夫首相や舛添要一厚生労働相は理解していないようだ薬害肝炎訴訟で、舛添厚労相は20日、原告側が求めている「全員一律救済」を受け入れられないとの考えを示し、大阪高裁の和解骨子案を支持する方針を示した。
 「今日の案が政治決断だ」と舛添厚労相が示した案は、未提訴の患者800人を含め計1000人に総額約170億円を支払うという内容。「事実上の全員救済」と国は説明するが、原告側は拒否した。あくまで血液製剤の投与時期や提訴、未提訴と関係なく、原告一人一人の症状に応じて和解金を支払うこと、これが原告側が求める「一律救済」である
 大阪高裁は和解骨子案を示した際の所見説明書で「原告案は望ましい」とし、一方で「国・製薬会社側の格段の譲歩がない限り提示しない」という姿勢を示した。これはつまり、国・製薬会社側に解決のためのボールが投げられたと理解していいのではないか。そこに、政治決断の期待がかけられたはずだ。
 だが、政府内では「和解骨子案と矛盾した決断はできない」という慎重論が強く、それに押し切られた格好のようだ。
 舛添厚労相は再び薬害を発生させたことを反省し、謝罪した。まったくその通りだ。薬務行政の当たり前になすべきことをしていれば、薬害は最小限に抑えることができたはずだ。原告側のかたくなな姿勢は、国や製薬会社に猛省を促しているといえよう。
 政府内には一律救済を認めれば兆単位の予算が必要になるという推計があるようだ。原告の求めに応えられないのは、そういう計算も働いているに違いない。
 しかし国はよく考えてほしい。税金の無駄遣いについてである。会計検査院による2006年度決算検査報告によると、不正・不当な公金支出は薬務行政を所管する厚労省が最も多く62億円にも上る。その他の省でも10億円以上の巨額の無駄遣いが行われている。
 
一方で無駄をはびこらせ、他方で薬害肝炎被害者への補償金額を懸念して、命の線引きをするのは甚だおかしい。
 福田首相は20日夜の会見で、「高裁の判断があれば柔軟に対応する」と述べた。
 また、大阪高裁は21日、原告、国側双方の案を検討した上で、第2次和解骨子案を出す意向を明らかにした。
 これにより和解協議の完全決裂は回避された形だ。迅速な決着が望まれる裁判だけに、高裁のリーダーシップに期待したい。第1次案より踏み込み、原告側の要求が最大限配慮され、いっそう幅広い救済が実現するよう望む。

(琉球新報社説 12/22 9:49)

                                           ◇

なぜ原告側が命の線引き拒否にこだわるのか、福田康夫首相や舛添要一厚生労働相は理解していないようだ

この問題ほど情と理の境界をどのあたりに置くか迷う問題はない。

今朝の琉球新報政治面のトップには、

支持率急落に危機感  福田政権3ヶ月

と大見出しが踊っている。

支持率を回復するには、マスコミ論調に媚びた政策を取れば済む。

薬害肝炎問題は命に関わる問題だ。

「全員まとめて面倒見てやろう」と大見得を切れば福田首相の人気もうなぎ上りだろう。

かつて福田首相の父君福田赳夫元首相は、ダッカ日航機ハイジャック事件で、

「人命は地球より重い」と有名なセリフを発して、

犯人側の条件を飲み、身代金の支払いおよび、超法規的措置として囚人の引き渡しを行った。

だが、日本はテロリストにお金を持たして世界中にばら撒いたとして世界中の批判を受けた。

息子の福田内閣はマスコミの批判にも負けず、支持率急落にも負けず、じっと耐えている。

あくまで血液製剤の投与時期や提訴、未提訴と関係なく、原告一人一人の症状に応じて和解金を支払うこと、これが原告側が求める「一律救済」である

日本が三権分立を国是とする法治国家であれば、マスコミの福田批判は的外れである。

情緒めんめんたるマスコミ論調の典型は、下記信濃毎日・社説(12月22日)が分かり易い。

 薬害肝炎訴訟 国が歩み寄るしかない 
 「心からおわびをしたい」と言うのなら、福田康夫首相はなぜ薬害肝炎訴訟の原告の願いにこたえられないのか-。法律論と財源の問題に縛られた対応は、被害者の思いに寄り添えない今の政治の冷たさを印象づける。

 「全員一律救済」を求める原告と、血液製剤の投与時期によって責任を限定したい国の立場は隔たったままだ。だが、このまま決裂するのでは被害者の負担は増すばかりだ。国は薬害による被害拡大を率直に謝罪し、早期解決への手だてを尽くすべきだ。(略)

                      *
 

薬害肝炎・和解交渉決裂 首相縛った官の論理

(毎日新聞12月21日)

一方で無駄をはびこらせ、他方で薬害肝炎被害者への補償金額を懸念して、命の線引きをするのは甚だおかしい。

マスコミの論調は「命に線引きが出来るはずがない」という原告側の主張を全面的に後押ししている。

情にほだされて福田首相に「線引きせずに全員責任とってやれ」というのは容易いが、支払われる費用は国民の血税だ。

必要な分は国が補償しても、「当時(1985年8月)の医療水準では分からなかった患者」の分まで補償せよという要求は、いくら総理大臣といえども認めるわけにはいかないだろう。

日本は法治国家である。 法的責任の範囲で、「線引き」はなされるべきだろう。

この「当時の医療水準では分からなかった患者」のことを、マスコミは意識的に隠して、福田首相に政治的決断を迫っているのがマスコミ論調である。

マスコミは、前例になった場合の危険性、国の将来の危機については報道していない。

薬害肝炎訴訟全国弁護団 ホームページを読むと、

薬害肝炎九州弁護団弁護士の次のような談話がある。

「この薬害肝炎訴訟の中で、1人でも切り捨てを許すことは、実は、加
害に加害を重ねることだ。

国や製薬会社に1人でも切り捨てをゆるすこと、あるいは、裁判所に1
人でも切り捨てを許すような線引きをしようとすることは、犯罪である
ということを、私たちは多くの国民の皆さんに訴える」。

「全員救済」を国が認めてしまうと、覚せい剤の注射といった国に責任の有無が分からない患者まで補償する責任が生じかねない。

大阪の原告代表は、『この訴訟はウイルス性肝炎患者350万人の恒久対策を獲ち取るための闘いであるといいわれ、原告はその代表であると、私も肝に銘じて闘ってきました。』

情にほだされただけの理由で350万人もの患者を全員国が補償できるわけはない。

今回の薬害肝炎問題で論議の的になっているのは
C型肝炎である。

それまで、ウイルスが同定されなかった時期は非A非B型肝炎と呼ばれていた疾患の1つである。

それが1989年になって、この分野では先進国のアメリカでC型肝炎ウィルス発見されている。

アメリカのFDA(厚生省相当)ですら規制していなかった以前の肝炎まで全て「一律救済せよ」は無理である。

もう一つマスコミが意図的に指摘しない矛盾は、原告側が薬害を批判していながら、未承認薬の認証を早く求めていることである。

ついでにもう一つマスコミが敢て触れていないことはハンセン病の補償時の条件である。

ハンセン病の補償は、政府は裁判所の和解案に従っており、今回も政府は裁判所の和解骨子案に従っている。

その意味では裁判所はハンセン氏病補償も薬害補償も同じスタンスを示している。

この手の問題は国民の人気取りには絶好のテーマであり民主党などは、

「薬害かどうか認定が困難なので、C型肝炎全員を薬害認定し、すべて国が謝罪と賠償をせよ」と、原告の主張を丸呑みした主張をしているが、国の財政を無視した飛んでもない人気取りである。

                      *

知に働けば角が立つ。
情に棹差せば流される。
意地を通せば窮屈だ。
とかくこの世は住みにくい。
(夏目漱石・「草枕」)

これは、「理知」と「情」の狭間に苦しむ人間の悩みを表している。

福田首相や桝添厚生労働大臣の心境は今まさに

「知に働けば角が立つ。情に棹差せば流される」といった心境だろう。


今朝のフジTV「報道2001」は薬害肝炎問題を巡って町村官房長官と菅直人氏がバトルの予定らしい。

どうせ菅直人氏は情緒綿綿と「生命に線引きできない」と人気取りを演出するだろうが・・・。

【追記・1】  07:45

司法の判断に逆らって、政府が「一律全員救済」の前例を作った場合の危険性を、マスコミは意図的に指摘していない。

【追記・2】  13:30

薬害肝炎患者「一律救済」へ議員立法、首相が表明 

 福田康夫首相は23日午前、首相官邸で記者団に対し「薬害肝炎患者を全員一律で救済する」と述べ、薬害肝炎患者を一律救済するための法案を議員立法で今の臨時国会に提出する方針を表明した。

 首相によると、薬害肝炎訴訟の原告団による和解拒否を受けて、21日に与党に検討を指示。22日に幹事長・政調会長との間で方針を確認したという。

 首相は「公明党の了解も取っている。早く立法作業を進めてほしい」と語り、与党による法案具体化に期待を表明。「民主党とも当然話し合わなければならない。法案作成に加わってもらってもいいのではないか」と述べ、法案の早期成立に向けて与野党政策協議を実施することにも前向きの考えを示した。(日本経済新聞 12:04)

                                              ◇

テレビ朝日の「サンデープロジェクト」を途中から見ていたが、

田原総一郎氏が三権分立とは言っても行政の方が上に立つから、

福田首相は決断すべき、というようなことを言っていた。

【追記・1】で「司法の判断に逆らって、政府が「一律全員救済」の前例を作った場合の危険性を、マスコミは意図的に指摘していない。」、

と危惧していたらその3時間後に、

福田首相が「全員一律で救済する」と決断したニュースだ伝わった。

「人道上の問題」という言葉の前には、政治家もマスコミも一斉に、「理」を放棄して「情」に走る。

個人の行動として人間味があって結構だが、同じ行動を国歌の指導者が行ってよいものか。

殆どのマスコミと前野党の後押しだから、議員立法も難なく通るだろうが、

批判者がいないだけよけに、これが悪しき前例とならないかという懸念は依然として拭えない。

>民主党とも当然話し合わなければならない。法案作成に加わってもらってもいいのではないか

あれだけ「一律救済」を叫んでいたのだから反対するわけはないだろう。

だが、今後「司法の判断に逆らう時は議員立法で」ということになったら三権分立の崩壊に繋がることは無いのか。

福田首相は父親の後を継いで、「人命は地球より重い」という名言ははかなかったのだろうか。

とにかく、日本は法治国家であるという「理」を度外視すれば、

これで多くの人の命が救われるのならめでたいことには違いないのだが・・・。

 福田首相は結局「情に棹さす」ことになってしまったが、

日本国という「船」が流されないようにして欲しいものだ。

【再掲】

知に働けば角が立つ。
情に棹差せば流される。
意地を通せば窮屈だ。
とかくこの世は住みにくい。
(夏目漱石・「草枕」)


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4 コメント

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おっしゃる通り (ヒロシ)
2007-12-23 10:14:56
当時原因不明であった非A非B肝炎、全員救済は無理です。
血液製剤を使用しなければ命が救えなかったケースも多々あると思います。
全員救済したつもりが、国家財政破綻して日本滅亡のきっかけになったら大笑いです。

マスコミは新薬認可とこの件を一緒に考える事はできないんでしょうね。スーパーマンも国際救助隊も全員を救済する事はできません。
全員一律救済 (狼魔人)
2007-12-23 14:28:06
ヒロシさん

このエントリの約4時間後に首相は「全員一律救済」を表明しました。

人の命に関わることだから一応結構なことだとは思いますが・・・「国の補償」となると問題を多くのこしましたね。

仮に罹患した時季の問題は無視したとしても、血液製剤による患者も、覚せい剤注射器の回し打ちで罹患した患者も、まとめて「一律救済」では国民の血税を使えないでしょう。

急落した支持率の回復を狙ったパフォーマンスだとしか思えませんね。

Unknown (きんじょう)
2007-12-25 09:10:55
和解決裂時に「一律救済」で政府を非難した小沢は、今なに思う。福田は将来の財政負担の責任を自民党だけが背負うのはいやだから議員立法でもってみんな(?)で決めたことにしたい。要するにキレタとみた。

社民党の福島は議員立法には反対、あくまで首相の政治決断だと主張していたが、政治に関係のない党は核心をつけても、民主党はそれは言えないだろう。言えば、一律救済と訴えたくせに決議(将来の財政負担)は逃げた、責任逃れとの謗りは免れない。

「一律救済」はもはや正義の御旗だから、誰もなにも言えないだろうとニュースを見ていたら、名前は知らないが、コメンテーターが「裁判所の和解案をけってまで一律救済にする整合性をとらないといけない」と宣った。もっぱら左巻きの発言をするコメンテーターだから、当然この発言は自民党擁護ではない。和解案でも非難、一律救済でも非難とは首相の仕事もやってられないだろうな。

83兆円のばら撒き予算と一律救済は自民党の勝つための選挙戦略ではなく、民主党への置き土産とみました。福田の政治倫理に問題なしとはしないが、キレル気持ちもわからんでもない。
Unknown (狼魔人)
2007-12-25 18:00:46
きんじょうさん

>解案でも非難、一律救済でも非難とは首相の仕事もやってられないだろうな。

福田首相もあんな顔をしてキレ易いというのは本当なんですね。

「民主党への置き土産」とは面白い見方ですね。

もう既に小沢党首は警戒したのか「議員立法とは筋が通らない」といっているようです。

民主党に置き土産にしても更に受け継がれ誰かの内閣の時、時限爆弾のように爆発して大騒ぎになるのではないでしょうか。

もう既に衆院選は政権譲渡と、諦めているのですかね。

福田首相は「教科書問題」でも明日の談話でキレた発言をするのでしょうか。

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