断熱改修の基本事項
在来木造住宅は、なぜ断熱材が効かないのか。在来木造住宅は、殆どの住宅でグラスウール断熱材が施工されているが、その断熱材が殆ど効いていない。原因は、壁(外壁、聞仕切り壁)と、床、天井との取り合い部にある。壁の上部は天井裏に、下部は床下に解放されている。暖房時、室内の暖かい空気で、壁内の空洞部の空気も暖められ、上昇気流が発生し小屋裏に抜ける。その結果、室内の暖かい空気や、1階床下の冷たい空気が壁内に吸い込まれる。2階の床下は、1階小屋裏部分とつながっており、小屋裏換気の冷たい空気が流入し同様なことが起こる。
その結果、壁内では冷気流が生じ、室内の熱を大量に小屋裏に流出し、また室内の暖かい湿った空気が、壁内に浸入するために、壁内結露や小屋裏結露が生じる。この現象は寒冷地ほど激しく起こるが、日本中で程度の差こそあれ、発生していると考えられる。
断熱改修として、例えば、壁の内装をすべて剥がし、グラスウール断熱材を厚いものに詰め直したとしても同様なことが起こる。やはり断熱材は効かないのである。もちろんこれまでの断熱材より密度が高く厚い断熱材を入れたとしても、外壁のグラスウールの内部にも僅かな気流が生じ断熱性能を低下させ、何よりも間仕切り壁の上下端部が解放されているため、ここから大量の熱・水蒸気が流出する。この在来木造の構造的欠陥を是正する必要がある。それは何らかの形でこの気流を止める、気流止め部材の施工が必要なのである。
気流止め設置で既存の断熱材が復活する
気流止めの工法は色々考えられるが、下図は全ての壁の上下端部などに何か詰め物をしたと、想定した図である。1階床下での作業は困難な場合も多いので、基礎の外周で基礎断熱として、床の断熱材には手を付けない方法をとっている。この場合は、床下は暖かい空間となるので、1階間仕切り壁下部には気流止めを施工する必要はない。
と床や天井の取り合い部は、壁材を打ち付ける下地として貫材が入っており、壁材を止めている釘が貫通して壁内に先端がはみ出していることが多い。そのために、この部分になにかを詰め込むことは、施工上とても困難である。木材などでふさぐことも考えられるが、間柱が通っており細かな作業を狭いところで行うのもなかなか難しい。1階外壁下部は、根太、間柱、柱、土台が錯綜しており、やはり同様に難しい。こうした詰め物は何か工夫が必要である。そして、この施工が実現したとすると、既存の50mm~100mmの断熱材は本来の性能を取り戻し、これまでの住宅の性能とは一変する。現在の高断熱住宅の外壁に比べると半分程度の性能であるが、基礎断熱と天井断熱で補えば、
駆体の断熱として70%ぐらいの性能を実現できる。また、この住宅の気密性能も格段に向上する。従来、壁内の空間が天井裏や床下に連通し、住宅の室内面を構成する部材の継ぎ目の隙間は全て外部に通じていたが、この気流止めによって壁内は外部と遮断される。天井面や床面には殆ど隙間は存在せず、あるとすれば壁との取り合い部である。
この部分の隙間を塞げば、殆ど新築の高断熱住宅に近い性能が得られる。壁の断熱厚は、増やすごとはできないが、気流止めに断熱材を使えば外壁の20%ぐらいは100mmとなり、残りの空気層も密閉空気層として、断熱層として効いてくる。
気流止めの設置で内部結露も殆ど防ぐことができる。
内外装にはできるだけ手をつけないで行う改修では、外側に通気層を設置することもできないし、室内に防湿層の設置も殆ど不可能である。これでは、壁内部結露が生じてしまうと誰しもが考える。しかし、実際問題としてこの気流止めを施工すると、これまで生じていた内部結露も止まってしまうことが多い。これには訳がある。在来木造の壁内に水蒸気が流入する原因は、殆どが壁内気流の発生による湿った空気の吸い込みである。気流止めによってこれが無くなれば、水蒸気の浸入は激減する。
・外装が、若干でも透湿性があり、タイル貼りなどの非透湿外装ではない。
・内装は、ビ二一ルクロス貼りで、比較的透湿抵抗が高い。
等の条件を満たせば殆ど心配はいらない。
新築住宅の通気層工法には、結露防止工法としては、かなりの安全率がかかっており、また、外壁の防水工法としての働きもある。通気層のない外装材の雨漏りには留意して改修が必要であるが、殆どの場合、内外装に手を入れる必要がないと考えられる。基礎断熱や桁上天井断熱層の新設、又は屋根断熱などを行うと、壁内の空間が暖かい空間となり、気流止めが不要と思われる場合でも、水蒸気の壁内に侵入することを防ぐ意味から、気流止めを設置する必要が生じる場合もある。
気密層の連続に留意し隙間を防ぐ
断熱改修では、気流止めの必要箇所を判断するために、住宅全体を覆う気密層を明確に意識するとわかりやすい。新築住宅では、防水気密シート、床、外壁の合板を気密層と設定するが、改修工事では新たに気密層を施工できない場合が多い。既存の部位の一部を気密層として設定し、それが住宅全体を覆うように考えていくことで断熱材が効き、隙間のない住宅ができあがる。下図は、外壁と室内天井面を気密層として設定したとき、その断点になる部分が、気流止めを設置する部分である。図では、赤丸で示す気流止めが隙間無く埋められることによって気密層の断点が埋められ、住宅の気密性が確保される。こうした改修では、気密性能は、3c㎡/㎡ぐらいは確保できる。新築住宅の性能から比べると余り良いとはいえないが、断熱性能はきちんと確保できるので、暖房時の住宅の熱性能は、これまでとは格段の違いになることが、これまでの施工実例で確認されている。
※木住協 在来木造の断熱・耐震改修より
現場の画像です(※クリックすると拡大)
和室と洋室の間仕切壁に
グラスウールで通気止め
洋室床の断熱材
厚さ100mmグラスウール
縁側は天井板を
張上げて気密シート、断熱材を順次施工
厚さ200mmのグラスウール
和室も天井材を
張上げて気密シート、断熱材を・・・
ピンク色に見えるのが気密シート
では、また次回・・・