Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

A君の思い出

2017年02月27日 | 日々、徒然に

鈴木清順監督のことをもう少し。

 

初めて見たこの監督の映画は、

「ツィゴイネルワイゼン」だった。

当時かなりの評判となっていて、

高校の友達A君と一緒に見に行ったことを思い出す。

 

上映が始まってすぐ、

これはとんでもない映画だなと思った。

映像も、物語も、語り口も、

それまでに見たどの映画とも違っていた。

いま思うと、10代のアホなガキに

あの美学なんかわかるわけがないのだけど。

 

 

 

それでも当時からシネフィルだった自分は、

じっと我慢してスクリーンを見つめていたのだけど、

あの世とこの世。

その境界線を行ったり来たりする展開に、

隣のA君は、明らかに退屈して、

ハンカチで顔を覆ったりして、

ひどくつまんなさそうな態度をとり続けた。

 

上映が終わったとき、

A君は大きな声でこう言ったのだった。

 

「ひでえ映画だあ。それにあの女優、

 このあいだ見たエロ映画の女にそっくりだったな」

 

あの女優って、大谷直子のこと? それとも大楠道代?

今の自分なら、なにほざいとんじゃ、このくされ外道!

大谷直子と大楠道代に土下座してあやまらんかい!

それとエロ映画を作っている人たちに懺悔せい!

と叫んで、亡き者にしたと思うのだけど、

そのときは何も言えず、そのまま映画館を出たのでした。

 

A君とは高校を卒業したあと、だんだん疎遠になり、

自分はといえば、東京に出て大学に入り、

「ツィゴイネルワイゼン」の話ができる悪友と出会った。

 

大学を出て、お互い社会人になったとき、

A君が突然、電話をしてきたことがある。

大阪の会社に勤めていたのだけど、

東京の支社に転勤になった、と。

 

懐かしさもあって、会っていろいろ話したのだけど、

「俺は30までに結婚して、40までに家を建てるんだ」

と言うばかりで、映画の話などまったく出ず、

飲んだくれのアホ社会人の自分とは、ずいぶん違うなあ。

遠いところに行っちゃったなあ、A君、と。

 

それからA君とは会っていない。

A君、元気かな。清順が死んだというニュース、

君は耳にしたときどう思ったのかな。

あと結婚した? 家は建てた?

 

でも、あのとき清順の映画を見てしまった自分は、

A君みたいになれなかったというか。

その後、東京の映画館で

清順の映画をたくさん見ていくうちに

まるで「ツィゴイネルワイゼン」の原田芳雄のように、

生と死の狭間で、たゆたう快感を覚えてしまったのです。

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« その物言いの行方 | トップ | 俺たちに明日はなかった »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日々、徒然に」カテゴリの最新記事